一話
異世界転生と言えば?
「やっぱり、主人公最強&美女だらけハーレムライフ!」
じゃあ異世界転生したいですか?
「出来ることならしてみたい!」
ここに契約が成立しました。
変な夢を見た気がした。よくある寝起き故の現象だと、自らに特に言い聞かせることもなく、颯太は新たな朝を迎えーーー
「おい起きろ江口!授業舐めてんのか!」
「え...なんで教室・・・」
キーンコーンカーン・・・
授業終了のチャイムが鳴り、ようやく自分が教室の机の上で寝ていたことに気付く。颯太を睨みつけるのは教師歴15年の山田だ。
「おい江口、今何限かわかるか?」
(確か・・・4限の頭から記憶がない・・・もしや昼休みもずっと寝続けてたのか?)
「わかりますとも、5限後の「休み時間」ですよね。今さっきのチャイムで授業は終わりましたよ」
颯太は授業は終わったから教室から出ろと言わんばかりに山田を睨み返した。だが
「まだ寝ぼけてんのか? さっきのチャイムは6限終わりのチャイムだ」
「え」
恐る恐る壁に掛かっている時計を見てみると短針が3の字を超えていた。
「それと、クラス担任の中村先生は風邪で休んでいるから今日のホームルームにはこのまま俺が代理で入る予定だ。」
「そ...そうですか・・・」
「この後、職員室へこい」
江口颯太、16歳。
普通の家から、普通の学校に、普通に通う、普通の高校一年生だ。外見的特徴は特に無く、髪も目も黒い。身長は170cm、体重は60kg。成績に関しては40人クラスで20位をキープしている。
そう彼は「普通」なのだ。
普通じゃないくらいに「普通」なのである。個性というものに一切恵まれず、今日もただ普通に日々を過ごしているーーー
はずだった。
「失礼しました」
ガラガラガラガラ・・・
職員室からトボトボと落ち込んだ様子の颯太が出てくる。数分前まで颯太を叱るベテラン教師山田の野太い声が廊下中に響いていたが、一転して廊下は静かになった。窓からは夕日が差し込み、窓枠の影が颯太の顔にかかる。
「反省文か・・・」
(面倒くさいの極みだ。テスト前期間だからみんな帰っちゃった。反省文は明日の朝来て書けばいっか)
颯太はトイレに行った後、電気の消えた教室に戻り帰り支度を始めた。そして机の中のものを大体鞄に詰め終えた時、机の中に一枚の紙が残っているのに気付いた。
(なんだこれ?)
紙はB5くらいのサイズで何も書かれていないただの白紙。
(反省文の用紙・・・ってことか?きっとトイレ行ってる間に山田がこっちに入れたんだろーな)
「とりあえず」
すると颯太はペンケースから鉛筆を出し、紙の上の方に「江口」と書いた。
「これでよし」
紙を再び机の中に入れると颯太は教室を静かに出て行った。
(白い・・・白い・・・ただ白い空間だ。何もない。ただ白いってことだけがわかる。自分の体も見えないし、正直目がちゃんと空いているのかもわからない)
「あ、お目覚めのようだね江口颯太君」
颯太が見たのは白衣の男だった。最初はぼんやりとだったが次第にピントが合うように視界がはっきりになった。そして同時に自身の体も見えるようになった。
「なんで俺の名前を......それに一体ここは......?」
白衣姿でニコニコと笑う男にただならぬ不信感を覚えた颯太は身構えるように手を広げ、ゆっくりと後退りした。
「まぁまぁあんまり警戒しないで。きっとまだ記憶が回復してなくて、何もわからないと思うから、僕から簡単に説明してあげよう。」
「記憶・・・なんでだ、何も思い出せない・・・」
「単刀直入に言うと君は死んだのさ」
「死んだ!?」
「死因は交通事故、信号無視のバイクと衝突して即死。今の君は精神だけの存在、肉体に比べて精神はゆっくりと死んでいくから、上手くやれば精神だけなら呼び戻すことができる」
「交通事故・・・精神・・・言っていることがわけわからないんですけど。それに一体あなたは何者なんですか?」
「名前は『ソラ』。で、何者かと言うと・・・研究者かな・・・いや違う。君にわかりやすい言葉を選ぶと『神』かな?」
「神・・・ってことは、もしかして全知全能なんですか?俺を生き返らせることもーー
「可能だよ」
「それなら!」
「でもね、『神』にもルールってのが存在して、一度死んだ魂を現世に蘇らせるってのは違反行為になっちゃうんだ。だから君を生き返らせることはできない」
「そ、そんな・・・まだ家族にも友達にも何の別れも言えてないのに・・・」
『明日がある』と、当たり前のように思う。それは人として当然の思考だし、本来悔やむことでもない。だが、突然多くの親しい者達との永遠の別れを告げられた颯太には『悔やむな』というのは無理な話であった。
白い床に膝を落とし両手をつく。目から出る涙は止まることを知らず、床にポロポロと落ちていった。
「でもね、僕が死にゆく君の魂を呼び戻したのには理由があるんだ」
「?」
涙と鼻水を拭って立ち上がると、颯太は未だ楽しげに笑うソラを見つめた。
「『現世』に蘇らせるのは無理って言ったよね。でもそれを逆手にして考えてみて?そう、君達の言う『異世界』ならオッケーってことだよ」
「つ、つまり・・・?」
「君には異世界へ転生してもらう。そこで二度目の人生を歩んでほしいんだ」
「異世界転生・・・馬鹿馬鹿しい話だけど、ようやく記憶が戻ってきて、自分が実際に死んだことは理解できました。この際、答えはただ一つ、第二の人生、横臥してみせようじゃないか!」
「理解と決断が早くて助かるよ。じゃあ早速開いてもらおうか」
「開くって何をですか?」
「それはもちろん異世界への扉だよ」
ソラがバッと手を指し出した方を見ると、そこには一つの両開きの扉があった。取っ手は金色に輝き、見た目は木製の扉といった感じだ。
「異世界への・・・扉!」
颯太は扉へ歩み寄りその取っ手をギュッと掴んだ。
「あ、そうだ忘れてた。異世界を楽しく過ごすためのアドバイスがあるんだった。君みたいに転生をする人には特殊能力が与えることになっているんだ」
「特殊能力って、火を出したり空を飛んだりとかですか?」
「まぁそんなとこだね。君も何らか一つの能力が貰えてるはずだから、上手く使うといいよ。きっと何かに役立つと思う」
「俺にも能力が・・・ハハハッ、テンション上がってきた!もう、すぐにでも扉を開きたい!」
「タイミングは任せるよ。自分の好きな時に開けてくれるといい。ちなみにその扉、今「引」こうとしてるけど、『押』だから気をつけてね」
「あ、はい・・・」
江口颯太は16年過ごした「世界」を捨て、全く持って謎の「異世界」へと旅立つ。新たな世界で待つ新たな人生を求め、今この時扉を開け放つ。
「いってらっしゃい颯太君」
開いた扉の先へと足を踏み入れた瞬間、辺り一面が強い光に包まれた。振り返るともうそこには何もない。一歩進むたびに光は輝きを増していく。
「待ってろ異世界!待ってろ俺のニューライフ!」