プロローグ
雲を貫く一峰の山、その頂上に立つ一人の女。彼女の背には空を埋め尽くす数万のドラゴンの群れ。『魔神』と呼ばれたその者はその日、世界の終末を告げた。
「これより人類を排除する」
魔神はまず初めにドラゴンの大群をもって南の大陸を滅ぼした。次に西と東の大陸を。だが運良く北の大陸だけは魔神の撃退に成功した。
そして魔神が次に標的としたのは東西南北の四大陸に囲まれた中央の大陸だった。
魔神を迎え撃つか否か、中央大陸のある城において会議が開かれていた。
「王、魔神は北の大陸との国境地点から侵攻を開始し、現在我が国の第一防衛線を越えようとしています」
「我らが王よ、今が決断の時です」
「指示をお願いします」
彼らに『王』と呼ばれたその男は玉座から立ち上がると、拳を握り告げた。
「皆に告ぐ、私は今から魔神と戦うと思う。だが一人の力では全く歯が立たないだろう。今こそ私と共に立ち上がってほしい!」
「「「「はっ!」」」」
(よし、決まったぜ)
腰の剣を抜き天へ掲げた家臣達を見て男は満足気にニヤついた。しかし何やら廊下の方が騒がしい。すると血相を変えた一人の兵士が会議部屋へと駆け込んできた。
「申し上げます!『十二騎皇』様方が待機命令を無視して第一防衛線でドラゴンとの戦闘を始めました!」
「なんだと!?」
男は前の机に拳を叩きつけた。しかし、すぐに『王様』っぽい服をバサっと脱ぎ捨て、椅子の横に立て掛けられていた剣を拾い腰に刺した。
「ライトアイ様、どこに行かれるのですか!」
臣下の一人が男に尋ねたが、男は少しだけ笑みを浮かべながら
「もちろん、戦場だ」
「いけません!王が自ら戦場に立つなど、もしあなたに何かあったら・・・」
「だってさ、俺だけ仲間外れになってるの嫌じゃん」
「・・・」
皆、口をポカンと開けながら、仮にも王と呼ばれるこの男を見つめた。いつまにか銀色の鎧まで着込んですぐにでも部屋を飛び出して戦場に行きたいという様子だ。
「わかりました・・・我々も軍を率いて後から向かいますので、どうぞご無事で」
「任せとけ」
男は部屋を飛び出すと長い廊下を走り、階段を登り、梯子を登り、ものの1分で城の最高地点である塔の上にたどり着いた。塔からは城下の街が一望でき、町行く人々がよく見えた。
「この大陸を統一するまで色んなことがあった。国を滅ぼす魔物が召喚されたり、他の大陸と戦争したり。もう終わりだと思ったことが何回あったんだろう。でもその度に仲間と協力して戦ってきた」
「『王の聖翼』」
男の背中から金色の二枚の翼が現れ、金色の羽を散らしながら、大きく羽ばたき始める。
「さぁ今回も勝ってやろうじゃねぇか!」
男が塔の屋根を強く蹴り込むと、男の体は目にも止まらぬ速さで飛び上がり、大空の雲を突き抜けた。雲を抜けるとそこからは頂上に白い雪を被った一座の山が見えた。
「相変わらず富士山に似てるな。くそ、アイツらは俺をハブってあの麓で楽しく戦ってるってのかよ。さぁ頑張れ俺の翼、飛ばすぞ!」
ここは異世界。
五つの大陸にそれぞれ誕生した文明が1000年間に及ぶ戦争を繰り広げ、人類の歴史は常に戦争と共にあった。そして人類は戦争のうちにとある兵器を完成された。それは戦いにおける常識を一変させた。
手から炎を出し、空を飛び、天候を操作し、この兵器の持つ可能性は無限とも思える強力かつ自由なものであった。
人々はこの兵器を『魔法』と呼んだ。