現状把握 その一
翌日の昼過ぎ。
昼食を済ませ見張りが交代のため引き継ぎを行っている頃、俺達はエリオットに呼び出された。
どうやらアン・ヘルに向かわせた斥候が戻ったらしい。
エリオットの天幕に入るとエリオットの他に5人の男女が狭い天幕の中に集っている。
アレイスタ首長国軍の百人長達だ。
ちなみに軍制が未発達なアレイスタ首長国軍では小集団のリーダーを十人長(小集団は10人前後である程度幅がある)とし、十人長10人が多数決で百人長を選んでいる。
そのため百人長はそれなりに人望があり、実力も兼ね備えた生え抜きの下士官という感じだ。
一方エリオットは副将軍の立場にあるが、こちらは首長会議で任命されたもので、立場こそ上だが末端に対する信頼はいまひとつであった。
つまり副将軍と言えども百人長の意見を蔑ろにして一方的に命令を下すことは難しいのだった。
そんな理由でエリスティアもいつになく大人しい。
「来たか」
エリスティアは頷くとたった一晩で随分と憔悴したエリオットの背後に控えた。
本来エリスティアはエリオットの妹とは言え何の役職にもついていない一兵卒ある。
この場に居ることは例外的措置だった。
「皆に斥候からの報告を伝える前に紹介しておきたいものがいる。魔王の遺物でありインテリジェンスウェポンであるモレロだ」
エリオットがエリスティアの背中を押し前面に押し出した。当然、百人長達の顔に擬念が浮かぶ。
昨日の戦いで鬼神の如き働きをしたエリスティアが何らかの遺物を所持しているのは周知の事実。しかし、その詳細は百人長達にも伝えられていなかった。
ふむ、最初の印象でその後の関係の7割は決まるという。ここはフレンドリーにいくべきだな。
俺は精一杯明るい声で自己紹介する。
『やぁやぁ皆さん、ただいまご紹介に預かった魔王の遺物ことエリスティアの鎧モレロだ。好きなものは美少女。嫌いなものは汗臭い男だ。知り合いに美少女がいたら是非とも紹介してくれ』
「「………」」
あれ?男達の反応が鈍い。お前達だって好きだろ美少女?
それに何か鎧が喋ったことに対する驚きではないような…ちょっとしたジョークじゃないか、どんな時もユーモアは必要なんだよ?
「えっと…こんなだけど意外に頼りになるから!話は聞いてあげて?」
おいエリスティア!お前のフォローが一番効いたわ!
「うぉっほん、んん」
エリオットがわざとらしい咳払いをすると話を戻す。
さらりと流すその優しさが身に染みるぜ。あ、目から汗が…(気分の問題)
「斥候が得た情報は良いものが1つ、悪いものが2つある」