疑念
「無事だったかエリスティア!」
エリオットは心底安堵したようにエリスティアを出迎えた。
必要だったとはいえ妹を捲き込んでの攻撃は苦汁の選択だったんだろう。
連合軍の虎の子であった騎馬隊は初っぱなから乱戦となったため力を発揮することが出来ず、本陣と歩兵隊が瓦解したことで撤退した。俺達の大勝利と言っていいだろう。
火球の爆発が歩兵隊を瓦解に追い込んだことで結果的に川周辺は混乱状態になり、容易に帰還出来たことは幸いだった。
「ええ、お陰様で火傷ひとつありませんわ」
俺にはああ言ったがエリスティアも思うところはあったようだ。
エリオットの頬がひきつる。
「ああ…無事で何よりだ」
『こっちは作戦も満足にこなせない友軍に足を引っ張られて酷い目にあったわけだが、作戦は無事成功させた。んでそっちの被害状況はどうなのよ?』
俺は嫌味を混ぜながら状況を確認する。嫌味を言うくらいありだろ。俺間違ってない。
これにはエリオットもムッとしたようで
「こちらは首長国軍とは言うものの普段はただの狩人だ。まともに訓練しているのは魔術隊と伝令、斥候くらいのもので他は義勇兵に過ぎない。統率を求められても無理というものだ」
『はっ、言い訳は見苦しいぜ?例えそうだったとしても請け負った以上は責任があるだろうが』
俺は将とも思えない言い分に呆れる。
追い払ったとは言え連合軍の数は未だこちらより多い。
あちらさんはやろうと思えば最低あと一戦は仕掛けられるのだ。こんな状態で戦えるのか?
「ちょっと今は言い争ってる場合じゃないわ。それで被害状況はどうなのです?」
エリオットは睨む先もなく咳払いすると状況を説明し始めた。
「詳細は確認させているが、百程の被害が出ている。川を渡る前に撃退出来たからこれだけで済んだ。追撃したいところだが流石にその余裕はないな…」
百だって!?おいおい3割近い被害がじゃないか。普通の軍なら壊滅状態と判断するレベルだぞ?
いきなり戦いに巻き込まれたから情勢がわからないな。もし周辺国すべてが敵対的だったらもう詰んでるぞ。
「失礼します」
どうやら伝令が来たようだ。
一度口をつぐんだエリオットは俺達を一瞥すると首を振り伝令に入るよう促す。
「被害状況が確認できました。死者32名、重軽傷者86名。内復帰の見込みがあるものは17名です」
エリオットは眉間を揉むと死者を丁重に弔うよう指示を出す。
「エリオット様、もうひとつご報告が」
「なにか?」
「物見の兵が敵軍が少なすぎると言っているのです」
伝令の報告はこうだ。
元々連合軍は7千の大軍だった。その内トートレス砦に1千の兵を割いているが、今日の戦いで確認出来たのはおよそ4千5百。
バレン渓谷での戦いで数を減らしたのだとしても少なすぎる。
『まずいぞ。別動隊がいる』
エリオットも顔色を変えた。
「すぐに周辺へ斥候を放て!怪我人を中央へ集め周囲を警戒するよう伝えよ!」
しかし解せない。ここは川周辺を除いて森に囲まれている。
行軍出来そうなのは俺達も通った道が1本だけだ。
少数に分ければ通れないこともないが…
『周辺の地図はないか?』
俺は天幕に残った2人に問いかけた。