ターレス川防衛戦 後編
おおーすげー
思わず棒読みになってしまった。
エリスティアが放った突風は、一直線に敵軍の大将に向かい更にその先50メートルくらいを貫いた。
突風の通った後は血と焦げた臭いが立ち込め、人体の一部が散乱する地獄絵図と化している。
「ふぅ、大将を確認しないと」
『…そうだな。原形を留めてるといいが』
拓いた進路を走り大将が居た辺りにたどり着く。
「えっと、取り敢えず勝利宣言したらいいかな?」
『説得力を持たせるにも大将首が必要なんだが…たぶん、これじゃないか?』
俺は一際豪華な鎧を纏った胴体を指す。
突風に切り裂かれたのか鎧で覆われていなかった間接部分がバラバラになっている。
周辺を探すがこれにくっついていただろう頭がどれなのかサッパリわからない。
『あの状況じゃまず生きてないだろ。取り敢えずその辺の首を掲げて勝利の名乗りを挙げるか』
エリスティアは適当な槍を拾い上げ躊躇なく槍の先端に首を刺し高く掲げる。
まぁ散々同朋を殺し捲った相手だしね。慈悲はない。
「ワールブ族族長が一子、エリスティアが敵将を討ち取った!降伏せよ!」
エリスティアの勝ち名乗りが戦場に響く。しかし…
「おのれ、ノリス将軍の仇を討て!褒美は望みのままだ!」
あぁ面倒なことになった。
連合軍だけに指揮官クラスの人間が複数いるようだ。
『エリスティア、指揮官を潰していくぞ。3、4人仕止めれば怖くて声をあげられなくなるだろ』
俺はどさくさに紛れて拾っておいた剣を差し出す。
ついでに2、3本頂いておくか。
落ちている剣をなるだけ立派な物から順に拾い上げる。
「これ、なかなか良いわね」
試しに素振りしてみたエリスティアは指揮官に向かって突撃を開始した。
エリスティアは横凪ぎの一撃を受け止め弾き返す。
「何!そんな細腕で!?」
剣を弾かれがら空きになった男の胴体にエリスティアは渾身の突きを放った。
この男は中々の腕だ。エリスティアと言えど鎧の隙間を狙うなんて芸当は出来ない。
男は剣の引き戻しが間に合わないと悟ると、鎧を信じて突きを受け流すように体を傾ける。
「くっ」
エリスティアの突きは鎧の表面を滑って上体が泳いだ。
「もらった!!」
袈裟懸けの斬擊がエリスティアの肩口を捉えるが…そんな攻撃じゃ俺はびくともしない。
「なんだとっ!?」
驚いているな?
まぁ見た目は布みたいな感じだしね。
そんな隙を見逃す程エリスティアは甘くない。
「覚悟!」
呆然としていた男の顔面に切っ先が突き刺さる。
男はぶるりと痙攣するとそのまま崩れ落ちた。
「はぁはぁ、次はどこ?」
『こいつで最後だ』
そろそろエリスティアも限界だ。
これで駄目なら撤退も考えないとまずい。
連合軍は陣を乱し混乱状態にある。
あと一押しあれば…
そこに3発の火球が飛び込んでくる。
魔術隊の魔法だ。
『おいおい、俺達まで巻き込むつもりかよ!?』
「モレロ覆って!」
エリスティアは咄嗟に両腕で顔をガードする。
次の瞬間、俺達は爆風で吹き飛ばされた。
『エリスティア!エリスティア!』
「うっうぅ…」
『エリスティア、大丈夫か?』
俺達は何度も転がりながら10メートル近く吹き飛ばされていた。
連合軍は完全に瓦解。
最高のタイミングだったと言えるが当然怒りは沸く。
『エリオットの野郎!赦さん!』
「う、私達、勝ったの?」
『そうだ!俺達の勝ちだ!どこか痛いところはないか?』
「大丈夫、ちょっと驚いただけよ。あれに捲き込まれて無傷なんて…やっぱりモレロは凄いのね」
エリスティアは胸元を撫でながら言った。
『ま、まぁな。俺にかかればこんなもんよ!』
俺は熱くなっている胸を意識してドキドキしてしまった。
「きっとモレロなら私を守れると思って兄様もやったんだと思う。だから赦してあげて?」
『エリスティアがそう言うなら赦してやろう。でも今回だけ、今回だけだからな!』
こうしてターレス川を巡る攻防戦の幕は閉じたのだった。