ターレス川防衛戦 中編
前後左右すべて敵、敵、敵。
まぁ当然だな。6百の本陣に単騎で飛び込んだ訳だし?
普通なら圧倒的な物量の前に磨り潰されるとこだけどもエリスティアに傷ひとつない。
俺は半径1.5メートル程を鳥籠のように糸で覆い、エリスティアの死角から襲ってくる攻撃を防いでいた。
隙間に入り込む突きや矢なんかは本体で防ぐ。
こう取り囲まれるとひとつひとつの攻撃に糸で対処するのは無理だ。ちょっと不恰好だけど許して?
「やっ!はっ!とうっ!」
次々に繰り出される斬擊に連合軍兵がバタバタと倒れていく。
既に4、50人は倒している。
『エリスティア、あと20メートルくらいだ』
「流石にキツイわね!」
徐々に敵兵を倒す速度が落ちてきている。
これは疲れが原因ではなかった。敵兵の実力があがってきているのだ。
『確実に大将までは近付いている。焦らずいくぞ』
「わかった」
エリスティアはまだ大丈夫そうだな。
足元を狙った突きを余っている糸で弾きながら密度が減ってきた敵兵の動きを観察する。
この辺りの兵士は装備品が明らかに豪華で、俺程ではなくても何らかの強化効果が付与されていそうだった。
現にエリスティアの剣速に及ばずとも食い下がってくる強者が増えている。
「ノリス様、お逃げください」
「あの女は異常です!悪魔が憑いているとしか思えない!」
「くそっ!勝利は目前と言うに…」
「ここでノリス様を失えば敗戦も同然。何とぞ…」
どうやら敵軍の大将はノリスと言うようだな。
焦って逃げようとしているが逃がす訳にはいかんのよ。
『エリスティア、大将が右に逃げる。回り込め!騎馬隊に合流されると厄介だぞ』
「無茶言うわ、ねっ!」
エリスティアが敵兵の鳩尾に突き刺さった剣を強引に引き抜くと先端の3分の1が欠けてしまった。
「もう! これで3本目よ。モレロ、あなたの一部で剣が作れないの?」
『造ることは出来る。けど、衝撃吸収能力のせいで上手く斬れないんだよ』
エリスティアは予備として3本の片手剣を持って来ていたが、今ので全部使いきったことになる。
衝撃吸収能力は防具としては優秀な能力なんだけども武器としては致命的なのよね。
お陰で糸操って無双とか出来ないし。
「このままじゃ逃げられる。ちょっと時間稼いで!」
『おうよ。任せとけ』
俺は開けていた前面もすべて糸で覆いシェルター状態に移行する。
エリスティアは折れた剣を投げ捨てると目を瞑って集中し始めた。
おおっ魔法か!
前線の方で爆音が響いて来ていたので気にはなっていたんだ。
エルフ達が少数で戦ってこられたのも魔法の力が大きい。
と言っても万能ではなく、殺傷力がある規模の魔法は優秀な者で1発か2発が限界らしいが。
「開けて!」
『おっけー』
俺が前面を開けた瞬間、切り裂く突風が紫電を纏って大将目掛け迸った。