夜襲
真夜中という程ではないが、夕食の後の弛緩した隙を突いた夜襲によって首長国軍は混乱の渦にあった。
その中にあってエリスティアの周辺は連合軍の断末魔だけが響く。
「はぁああ」
鋭い呼気ととも振るわれた横凪ぎの斬擊が連合軍兵士の首をはね飛ばす。
闇を切り裂いて飛んできた3本の矢ーー嫌らしいことに狙いをずらし絶妙にタイミングを変えているーーは、俺が操る糸によって全て叩き落とした。
ふふん、動揺しているな
『エリスティア、あそこの茂みの中だ。最低3人』
エリスティアは無言で頷くと茂みに飛び込む。
慌てて剣に持ち替えようとしている連合兵の弓弦を次々に切断。
返す刃で1人の喉を切り裂いた。
「早い!」
「くそっ同時にいくぞ!」
エリスティアは躊躇なく手前にいた兵士に剣を振るう。
背後に回った兵士は無視だ。
まぁ後ろに回ったところで無駄なんだけどね。
「がぁ、ぐふ」
エリスティアの剣を2擊耐えた兵は3擊目を防げず、右の首筋から左の鎖骨までを絶ち割られる。
隙を突いて背後から斬りかかった兵士は俺の糸に斬擊を逸らされ、エリスティアの振り向き様の一撃で脇下を突かれ崩れ落ちた。
「ふぅ、今ので21人目ね。大分悲鳴が収まってきたみたい」
『そうだな。夜に無理やり渡河したんだ。そう多くはない筈。それにある程度目的は達してるだろうし引き際だろうな』
「どういうこと?」
『こちらを休ませないつもりなんだよ。夜襲があった以上、今日はまともに寝れないだろう?』
「そして明日止めを刺すということ…」
『とりあえず、剣戟のする方に行って見よう』
「そうね。まだ余裕あるし」
俺達は未だ剣戟の止まない方へ駆け出した。
その後、連合軍はすぐに引いた。
エリスティアが助けに割って入って3人、追撃で6人を仕留めエリオットの天幕に帰ってくる。
「エリスティア!?無事だったか」
「敵は引きました。ある程度仕留めましたが半数以上に逃げられてしまいました」
「お前は…まぁいい。怪我は?被害はどの程度だ?」
「怪我はしていません。被害はざっと死者15名、負傷者30名といったところでしょうか」
『俺がエリスティアに怪我なんかさせるわけないだろ』
「…奇襲を許した割りに被害は少ないな。嫌がらせか?」
『無視かよ!?まぁ嫌がらせなのはそうだろうけどさ。エリスティアも頑張ったんだぜ?』
「モレロ!」
『まぁまぁ、ここはきちんと成果をアピールしないと。これで明日の強襲の件、認めて貰おうじゃないの。ねぇ?』