説得
「連合軍が渡河を始めたら私が単騎で敵軍後方を強襲します。兄様は私が作った混乱に乗じて渡河中の連合軍を漸減してください」
「何を馬鹿な…単騎で突っ込むのは強襲とは言わん。ただの蛮勇だ。その自信は魔王の遺産にあるのかも知れんが、もしそうならばお前は騙されている!」
「兄様、確かに信じられないのも無理はありませんが、それだけの力を魔王の鎧は持っています」
「だとしてもお前をたった一人で敵軍に突っ込ませるなど許容できる話ではない」
「私達に選択肢はもうないのです。それに私一人なら例え失敗したとしても立て直せます!」
「いや、お前には幼子達を護衛して里に戻ってもらう。これは命令だ。お前に未来を託す」
「そんな…兄様…」
『狡い言い方だな、エリオット殿』
「何者だ!?」
『俺はエリスティアの鎧モレロだよ』
「鎧だと?貴様がエリスティアを唆した元凶か!」
『待ってくれよ、兄様。エリスティアは俺のもんだ。傷ひとつ付けさせやしねぇよ』
「馬脚を現したな!この悪魔め!」
「ちょっとモレロ!何煽ってるの!兄様も冷静になって」
その時、突然外が騒がしくなった。
上流方向から悲鳴も聞こえてくる。
遅れて鐘が連打され始めた。
「てっ敵襲!敵襲です!」
「くそっ、先手を打たれたか!敵の規模は?」
「不明です、何分混乱しておりまして…」
「見張りは何をやっていた!篝火を増やせ!同士討ちに注意せよ!」
「兄様!」
「後にしろ。お前に構っている暇はない」
「私が殲滅してみせましょう。いける?モレロ」
『当然だ』
「待て、何処へ行くつもりだ!」
俺達はエリオットの静止の声を無視して悲鳴の元に向かう。
そこには暗朱色の革鎧に身を包んだ敵部隊に次々に切り伏せられるエルフ兵の姿があった。
「おのれ人間共め!モレの敵今こそ討ってみせる」
エリスティアは今にも幼子に振るわれようとしていた長剣を弾き返し名乗りをあげた。
「我こそはワールブ族族長エルピリオが子エリスティア・ワールブ! 侵略者共を悉く打ち倒す者よ!」