ターレス川防衛線
現在俺達一行、ーー俺とエリスティア、捜索隊30人、ロンディウス族長直属の精鋭6人の総勢37人+鎧ーーはターレス川への道を赤鹿に乗って駆けていた。
その間も微調整は続いている。
「顔に髪がかからないように髪止めになって、後は糸の数をもっと増やして髪みたいに後ろに流しましょう」
『こんな感じか?』
「あら、花の装飾も良かったけど、羽根飾りも良いわね」
『ヘアバンドみたいなとこは蔦の装飾にして、後ろの糸はもう髪と同じ感じにしてみたぞ』
「折角だからロングヘアにして。その方が映えるし邪魔だから切っていたけど憧れていたのよね」
『了解』
「エリスティア様…余裕ですね」
「入念に調整してるのよ。それに派手な方が士気が上がるでしょう?」
「それはそうですが…」
そんな会話をしつつも俺達はろくに整備されていない獣道を駆け続けていた。
平地ならば馬が勝るが、このような足場の悪い道では赤鹿の方が優れているらしい。
鐙もないのによく落ちないもんだ。
「見えたぞ!」
走り続けて半日、辺りが薄闇に包まれる頃に俺達はターレス川の前線に辿り着いた。
私、ワールブ族族長が長子 エリオット・ワールブはアレイスタ首長国軍の再編を終え、その被害状況に暗澹たるため息を吐いた。
3百の魔術師隊を連れて援軍に駆け付けた私は、副将待遇で8百に膨れ上がったアレイスタ首長国軍に迎えられた。
しかし、人間達の連合軍5千の前に為す術なく磨り潰され、既に5百を切っている。
その内、負傷者を除いた戦える者は4百に満たない。
今は橋を落とし川を挟んで睨み合っているが、川は精々胸元くらいの深さで無理をすれば渡れないこともない。
明朝には連合軍が攻め込んでくる公算が高い。
「ここまでなのか…」
先の戦いで大将であったペリオット族長が討たれ士気は最悪。
援軍が来る見通しもない。
父から魔王の遺物を捜索する話は聞いているが、そこに望みをかけるのは愚かだろう。
「失礼します! エリスティア様が援軍を連れて到着されました」
「援軍だと?守りに割いた兵員を前線に送ったと言うのか」
馬鹿な…そんなことをすれば里が無防備になる。
最悪逃げるにも護衛は必要だと言うのに…
「兄様、エリスティア以下36名、到着致しました」
「エリスティア、お前まで前線に…いや、ご苦労。それで36名だと? 俺は援軍と聞いたが…」
「はい、私は一騎当千の力を手にしました」