魔王転生 復活の魔王
魔王が復活して、前世勇者が転生してなんとか殺そうとする短編です
魔王転生 。復活の魔王
勇者の力は圧倒的だった。力の差に驚きながら前の男を見る。年齢は20歳前後、珍しい漆黒の髪に、漆黒の目をしている。それ以外の特徴は特になく、装備も一般的なものだ。しかし力が異常で、これは女神からの祝福だけではないだろう。女幹部のマキュベリアが私の前にでる。
「魔王様、ご無礼を致します」
マキュベリアは振り向くと同時に私に魔法をかける。裏切りか、普段の力の差であればマキュベリア程度の魔法は効かない。しかし、満身創痍の今、私にそれを止める事はできない。
「魔族でありながら魔王を裏切るか」
小馬鹿にしたように、勇者の仲間がつぶやく。
最後はこれか、あまりにバカバカしい結論に自然と笑いがこみ上げてくる。魔族の王でありながら勇者の足元にも及ばず、最後は配下に殺されるのだ。
「や、やめさせろ!」
誰の声だ?眼前が歪み、その声の主がわからない。
「どうしたんだ、勇者?」
慌てた人間の声。先程の声は勇者か、なぜ? なぜ、止める。これは配下のマキュベリアから私に対する攻撃魔法だ。
狂ったかのような高笑いが聞こえる。これはマキュベリア…?
「勇者、あなたは確かに強かった。でもあなたは人間。わたくし達のように長くは生きられない」
「封印の魔法だ!異世界に封印、いや逃げられたら!」
なるほど力の差で勝てないから、逃げて、寿命の長さという人間と魔族の違いで勝とうというのか、なんと情けない事だ。こんな情けない事があるか、配下を殺され自分だけ逃げる。言えば私に止められると思いマキュベリアは強行したのか。
「そう、異世界!この世界に戻って来るのはいつになるかね?100年後?200年?それとも300年かしら?どちらにせよお前はその時に生きてはいない!」
マキュベリアの声と、
「殺してやる!例え100年、200年経とうと死んでも転生して必ず俺がお前たちを殺してやる!」
勇者の声を最後に私は死んだ。
1話あなたは勇者
「あなたは勇者様です。一緒に復活した魔王を倒しましょう!」
この女は頭がおかしいのだろうか、初対面の俺にこんな事を言ってくる。
「アホか、お前。俺はただの戦士でレベル14だ。他を当たってくれ」
「いーえ、あなたは勇者様です!まだ目覚められていないだけです!」
勘弁してくれ、女の叫びに近い大声に冒険者ギルドにいた人間の視線が集まる。
「もう一度言おう。俺はゲイル。18歳、レベル14の戦士だ!勇者ってのはもう少しレベルが高いんじゃないのか?」
女はにっこりと微笑んでまた返す。
「確かにレベルは低いですがまだ目覚められていないだけです」
「魔力ゼロなんだけど」
「まだ目覚められていないだけです」
これはあかんやつや。どうやったら逃げられるかと頭を抱える俺に女は言った。
「隣町にドラゴンが出たそうです」
「聞いているランクAの冒険者チームのラインハルトが向かったはずだ」
「負けます」
女は断言する。たかがドラゴン一頭に、Aランクのラインハルトとその仲間たちが負けるというのだ。
「そうか」
「はい。ただのドラゴンではございません。復活した魔王の魔力を背後に持つ巨大な力のドラゴンです。ゲイル様には援護に行っていただきたいのです」
春だから仕方がない。かなり可愛いに近い美人なだけに残念だと思いながら言う。
「そうかレベル55。漆黒の戦士ラインハルトで勝てないなら、世界の終わりだな。魔王の天下だ」
「悔しくないんですか?勇者なのに!殺してやりたくないんですか?前世で負けたのに!」
勇者と魔王の対決の伝説は知っている。勇者は殺されかけたが魔王を封印した。だが、年老いた勇者の前に封印の解けた魔王が現れて勇者を殺したのだ。全盛期の力が老人になった勇者には残ってはいなかった。
しかしあくまで伝説だ。
一応、事実であり、歴史として伝えられるがこんな事を信じている国民はいない。魔王は勇者を殺した。なら魔王はどこにいる?なぜ世界統一なり、国に戦争を仕掛けるなりしないのだ?
あー春だな。
何も言わない俺に、あっそれは黄金のお饅頭。
「助けてください!その町は私の故郷なんです!金貨3枚、前金で金貨1枚払います!」
金貨1枚!10日は普通に暮らせる!しかも町につけばラインハルトがドラゴンを殺している。なんて美味しい仕事なんだ。
春だし、仕方ないか。
「乗った!」
金貨1枚を手に、俺は依頼を受けるのであった。
2話 転生魔王
町に着くと、ドラゴンがいて、ラインハルトと戦っていた。うん、負けそうだね。
「よし、帰るか」
ドラゴンに見つからないように、俺は依頼人に声をかける。
一流の戦士、魔法使い、僧侶の集まりであるラインハルトチームが負けそうなドラゴンだ。俺1人では無理だろう。
あれ?なにしているの、依頼人。
「とりゃあ!」
依頼人の女はドラゴンに石を投げつけて、しかも当たる。
うん、完全にドラゴン、こっちを向いているね。
「なにしてんの?!」
俺の叫びと、
「バカ、逃げろ!」
ラインハルトの叫びと、
「大丈夫です!この人は勇者様ですから!」
依頼人の叫びが重なる。
俺は全力で逃げ出した。
「なんで逃げるんですか?!」
依頼人が走って俺に追いつく。なにこの速さ、魔族か?
依頼人にタックルをかまされて、俺は地面に叩きつけられる。なんか悪い事した?ねえ、俺なんか悪い事した?
涙目の俺に、ドラゴンが追いつく。
「さあ!勇者の力を発揮して、あいつを殺してください!」
「俺は勇者ではない!あるか、そんな力!」
こうなったら仕方がない。俺は依頼人を捕まえるとドラゴンの方に投げ捨てて逃げだした。依頼人が食われている間になんとか逃げられないだろうか?つうかラインハルトはなにをしている?俺を助けてくれ。
ドラゴンは依頼人を無視してこっちに向かってくる。
ドラゴンもあいつは食いたくなかったのか。
しかしどうすればいいんだ、これ。詰んだ。
ドラゴンはその鋭い爪で、俺の首をはねようと襲いかかる。
ラインハルトが追いついて、俺を助けよう剣をドラゴンに投げつけたが間に合いそうにない。完全に俺は死ぬ。
次の瞬間、ドラゴンの首が落ちた。
こんな事が出来る可能性があるのは、1番の高レベル者のラインハルトだけだ。
「ありがとうございます!ラインハルト様
!!」
思わず様づけになる。命が助かった俺はラインハルトに大声で叫ぶ!俺が助かったのはあなたのおかげです!
「いや、俺は間に合わなかったと思ったんだが」
超イケメンのラインハルトが言うが、
「いーえ、この辺り最強の戦士ラインハルト様に出来なくて、誰がこんなマネができるというのですか?!」
そうお前以外いないのだ。
「それは勇者様です!やりましたね!やっぱり勇者様!力が目覚めたのですね!」
うるさいよ、依頼人。俺は勇者ではないと何回言わせたらいいんだ?
ドラゴンを殺したのはラインハルト。俺を巻き込もうとするな!
「勇者様、勇者様、勇者」
依頼人は俺の心を読んだのか、勇者を連呼する。
文句を言ってやろうと思ったら、空に浮かぶ3人。その後ろに魔族の群れ。500くらいかな?総勢。
「やはり、使い魔のドラゴンを倒したから、復活した魔王直々にやってきましたね!」
魔王?そんなわけがないだろう。しかし、パワーはかなり感じる。かなり強い相手だな、顔はフードで3人ともわからない。
「さあ、勇者様、魔王を倒してください!」
依頼人は大声で、相手に聞かせるかのように言う。いったいなんなんだ、こいつは?
「お前が勇者だと?」
フードの3人の中の1人の声は高く、まるで女のようだった。
笑い声、どこかで聞いたかのような笑い声で。
「お前が勇者なわけがなかろう。それにもし勇者の転生なら殺してやるだけの話」
なぜか考え込むような仕草を取り、
「いや、勇者の転生ももはやありえないか」
などと言う。
「勇者様!目覚めてください。ドラゴンを倒したその力を発揮しないと殺されますよ?」
もうやだ、依頼人。ってラインハルトの野郎いつのまにか、逃げている。
いつのまにか、ここには俺と依頼人。3人のフードをかぶったやつらとその後ろに多数の魔族だけになっていた。
「魔王さま。確かに力を感じられます。勇者ではありませんが」
違うフードが声を出す、低くて、しかし聞き覚えのある声。
「勇者様、勇者様、力は目覚めましたか?」
依頼人の声に、なるほどはめられたわけか。
「勇者ってのはあっちじゃないのか?」
と、魔王を僭称するフードの方を指差す。
「えーそうなんですか?あっちが勇者様?」
フードを取りさった姿は想像通りで、
「違う、私は魔王だ」
そう言うマキュベリアに、
「マキュベリア、なぜ、お前は私を殺した?」
俺は言った。
「それは勇者様だからじゃないんですか?魔王は勇者を殺す者。伝説でも勇者は魔王に殺されましたし」
依頼人は言う。こいつの正体もだいたいが想像がついた。哀れな者だが、俺とこいつ。よく似ている。
無言でマキュベリアは俺に攻撃を仕掛けてくる。それと同時に魔族の群れは消えて、フードをかぶった残りの2人も消える。人気払いをして口封じのつもりか。
「誰だ?お前!」
マキュベリアの攻撃は一撃、一撃が鋭いが勇者にやられ、満身創痍の状態でなければ私を倒す事は出来ない。
俺を封印に見せかけて殺した後、マキュベリアは自分自身と多数の魔族を封印し、そして自分だけ勇者が老衰するあたりで封印を解いて勇者を殺すと言う大金星をあげて魔王の地位についた。
魔王はどうやったかは不明だが勇者に殺された事にして。
転生した俺は魔王の地位にいるマキュベリアにどっと疲れて魔族なんかどーでも良くなった。唯一怖かったのは勇者だ。マキュベリアが殺して死んでいる事は知っていたが私と同様に転生の可能性がある。
そこで良く考えてみるとマキュベリアは影武者だ。マキュベリアが転生した勇者に殺されたら俺は逃げたらいい。しかしいつまでたってもマキュベリアは死ななかった。俺は転生できたが勇者は転生できなかったのかもしれない。
そう思っていた。
マキュベリアは完全に力負けし、俺の眼前にひれ伏す。少し力を入れるだけで彼女は簡単に砕け散った。
これが本来の私と彼女の力の差だ。私が勇者に負けかけて、寿命と言う人間特有の弱点を魔族のプライドを捨ててつくと言う事を思いつき、彼女はかけたのかもしれない。魔王と言う地位がそんなに欲しかったのかな?
砂となり、風とともに去りゆく彼女は私の問いに答えてはくれない。
そのかわりに、私は依頼人の方を向き、久々に会う彼に声をかけた。今の姿は女装なのか、それとも女に転生したのか、
「久々だな、勇者」
私は依頼人に声をかけるのであった。
エピローグ
私の声に、恥ずかしそうに勇者は言う。
「久しぶりだね、魔王」
「想定外の姿に転生したものだな。私はずっと君に怯えて、魔王を名乗らず逃げていた」
その言葉に無力の勇者が言う。
「光栄な事だね。でも前世で僕は君を殺す為に力を使い切った。使われる事のない力だったけどね」
勇者は過去の女神、現在の女神、そして未来の女神の保護を得て魔王に挑んだのだと言う。
しかし、肝心の魔王は異世界に封印と言う形で逃げ(実際には死んでおり)、使われることはなかった。
「私は怯える必要のない、転生した君に怯えていたのかまるで、ピエロだな」
「殺したかったよ、魔王、あなたを。魔王を名乗らずこんな所にいるんだから、ひょっとして目覚めてないのかと思ったよ」
なるほど、それで私に成り代わっていたマキュベリアに私を勇者だと言って、けしかけたのか。魔王の力に目覚めていなければマキュベリアに私は殺されていた。非力な彼にできる唯一、私を殺せる方法だったのだろう。
勇者は私の顔をじっと見つめると、
「そろそろいいよ、魔王。覚悟は出来ている。次にもし転生できたら頭が良くて、力強く転生したいな。次こそあなたを殺してあげる」
「……」
「前世の私は死ぬまで復活はないと油断している時に、さっきの自称魔王に襲われて死んだわ。例え老衰していても油断してなければ倒せた。あいつが前世の全盛期の私から逃げるために言った言葉をそのまま信じなければもっと頭が良ければ」
キッと私を睨みつけて、
「そして、転生した先がこんなに非力でなければ!きっと、あなたを殺せたのにね」
前世の、自分自身を僕と言う勇者と、今の自分自身を私と言う勇者が私を睨みつける。前世の自分自身を私と言う魔王と、今の自分自身を俺と言う戦士の俺がちょっとびびる。
でも、睨みつける勇者のその顔の裏には笑顔があるような気がする。勝つにせよ、負けるにせよ。魔王と勇者の戦いに始めて不戦勝や不戦敗ではない勝利と敗北が刻まれるのだ。
「殺さないよ」
勇者は甘い。私はマキュベリアから学んだのだ。人間の寿命は短い。それは人間に転生した私も同様だ。
「えっ?」
「自殺しても必ず治す。天寿を全うさせる。転生なんて絶対にさせない」
勇者を転生させず、天寿を全うさせ、私、いや俺、冒険者ゲイルは天寿を全うする!
もう勇者に怯えなくてええんや。
そういい、最良の今日に俺は感謝するのであった。