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うぉんと・えばー・ぎぶあっぷ
木々が軋み、鳥たちは激しく羽ばたく。
男の口の中が錆びた鉄の味に支配され、片目が赤くぼやけている。後方からまたしても、木々を倒しながら近づいてくる音が聞こえる。乱れた呼吸は整いきっていないが、立ち止まっている暇などなかった。
共に冒険している女は、既に意識はなく、呼吸が浅くなっている。肋骨が折れて肺を貫いているのだろうか。何にせよ、早く手当てをしなければならない。
残っている魔力に余裕はないが、ここで出し惜しみしている場合ではない。初級魔法に属する魔法であるが、先程よりは女の状態はましにはなっているだろう。
女を再び抱き抱え、木陰へと隠し、後ろから追ってきたもの───キング・アスプと呼ばれる体長4m級の大ゴリラ───へと向き直り、盾を構える。
「俺、何でこんなことしてんだよ……」
少しでも不安を和らげるとは言え悪態をつくとは。男は自嘲気味に笑みを浮かべた。