〜電子機器ト電波ト暴力ト〜
〜中国黑手党老大 壱〜
大戦闘の後に何故かカフェに寄ろうとなったボクら3人は昼下がりの静かな喫茶店。喫茶、燕の子安外にて戦後とは思えないような有意義な時間を過ごしていた。
静かな喫茶店の中には鳩時計の針の音、珈琲の入れる音、入口ドアが開く音、綺麗な鈴の音が響いた。
入ってきたのは金髪の少女に、紳士的な男。そして1人の少年。
「あれ?朔良さんに魅音!电王君まで!」
外さんが立ち上がる。
嫌いな男子と買い物中にばったり遭遇した時の女子クラスメートのような表情でうわっと声を漏らした魅音さんを見て笑う朔良さんと少年。
「お久しぶりです〜、覡さン!外さン!」
会うのが久しぶりな様でかなりテンションが上がっている少年はボクより年下かと思うほど小さく、小柄で幼い顔だった。
ガンガンに飾られたキャップにパーカー、大きな靴。キャップの上からフードを被り、ジーパンからはチェーンが垂れ、ヘッドホンを首につけ、スマホ片手にスターバックスの珈琲を飲む姿は今時の若者という雰囲気を醸し出し、見た目はボクより年上の青年のようにも見えた。が小さい。
「貴方が八坂さんですか?話は聞いています!ボクの名前は、凛 电王、中国生まれです!気軽に电王とか、凛とかで呼んでください!」
テンションが上がっているのでは無く、元からこのテンションだということを今確信した。
自己紹介をしようとするが、かなりお喋りらしい。
「日本に来たのは1年前、14歳のときで、半年前から荒覇吐に、外さンに負けて日本に来て、半年間日本でもグレてたんですが、社長と外さンにまたボッコボコに、それで…」
「ほらほらそこまで。早速だけど电王君、仕事だよ。」
話を遮り、書類を电王さんの前へ出した。
「えーマジッすかー。じゃあ、八坂さんも一緒に行きませン?」
初対面で馴れ馴れしいが、正直こんな感じの方が接しやすいが、流石に共に仕事というのは中々気が進まない。初対面で、1歳年下。さらに入社初日にして2つ目の仕事。先程死を目の当たりにしたばかりだ。
「安心しろ小僧。今回は聞き込み調査だけだ。戦闘になる可能性は低い。万一戦闘になっても、电王に任せろ。」
覡さんが珈琲を飲みながら云った。
なんとか説得された結果、电王さん、ボク。そして何故か外さんの3人で担当することになった。
何を考えているのかよく分からない外さんと、一つ年下にも関わらず、ボクより大人びたファッションの电王さん。面子がおかしい。加え、この仕事も海外で言うマフィアである白鴉と関連しているという。
「电王さん、今回の仕事の詳細は…」
「くん。でいいです。今回は白鴉の敵対組織が白鴉に、テロを仕掛けたと。しかも路上で爆破テロです。何人も死にましたが、一般人の方は軽傷で済ンだので。死ンだのは、どれも白鴉の人間ですね。」
先程とは比べ物にならないほど冷静な目をしていた。まるでこの事件の全てを見透しているような。
「着きました。此処です。」
着いたのは、商店街。何処にでもある商店街だ。強いて違うところと言えば、建物だろう。商店街にも関わらず、大きな建物もあり、活気もそこそこある。小さな子供が駄菓子屋で菓子を買い、喜んでいる。互いを知らない初対面の老人同士が楽しそうに話している。泣き止まぬ赤子に可愛らしい兎のストラップをあげ、泣き止ませる、何人かの女子高校生。ゲームセンターから部活やらテストやらの話を楽しそうにする中学生。
きっと此処は誰もが馴染め、そして皆が皆仲の良い、故郷のような場所なのだろう。「華野樹商店街」。色褪せた大きな看板に書かれた古びた文字。五月蝿いシブヤの中でも静かなこの場所は、記憶の無い昔を思い出させた。
「どうしたンです?」
ボクは商店街の入口に立ったまま、外さんと电王君はいつの間にか先へと進んでいた。
「疲れたかい?無理しなくてもいいんだよ?」
外さんが問う。此処まで来ておいて、帰るなど申し訳ない。それにこの事件には興味があった。白鴉の敵対組織が荒覇吐だけではないということ。白鴉とは一体何なのか。
「否、行かせてください」
やっと出てきた太陽も沈み明かりが消えたいく。静かな風が髪を靡かせ服を揺らす。一瞬の風。
―――それはまるで電波のように―――
〜常闇の蝟〜
「ったくよォ。人を牧羊犬みたいに、こき使いやがって。アイツにそっくりだ。」
「何を言いよる。お主を拾った男ではないか。それに首領に彼奴が似たのじゃ。」
「俺は拾われたんじゃないですよ。姐さん。俺は自ら組織に入ったんです。」
「何が姐さんじゃ。全く。お主にそう呼ばれるほど親しくはないぞ?」
「何いってんですか。俺がガキの頃、真っ先に俺といてくれたのは姐さんじゃあないですか。」
「確かにそうだったのぅ。懐かしいわ。お主がまだ幼き頃が。」
「やめてくださいよ。そんな話」
薄暗い道を話しながら歩く1人の洋風お洒落な男と1人の和装の女。
「彼奴は首領の懐刀だったからのぅ。首領も空きを作っておる」
「本当ですよ。首領側近五大幹部官なのに4人ですよ。まだまだいい犯罪異能者は沢山いるのに。」
「そういうお主も相棒を作らぬではないか。今も1人で、蝟の異名を通しておる。お主も奥底では彼奴の帰りを待っておるのじゃ。」
「そんなこと…」
男はそう言って黙り込んだ。
女は和装には似合わぬ黒い靴を履き、カツカツと廊下に音が響き渡った。所々規則正しく置いてある赤い消化器。薄暗く点滅する蛍光灯。2人は静かに歩いていた。時々話し、靴の音を響かせては、また静まり返る。
カツカツと響く――。2人のものでは無い無数の足音――。
「姐さん……」
確かめるように男は云う。
「あぁ。ざっと数え20と言ったところか」
男は机に手を置くように空中に手を置いた。
女は持っていた桜柄の和傘の柄をしっかりと握り、先程とは違う妙な威圧を放っていた。
突然に向こうの足音が止み、廊下は台風がすぎた朝のような静かさに包まれた。
――全ては同時にして一瞬だった――
突如2人目掛け無数の弾丸が飛んできた。女は和傘に見立てた仕込み刀を物凄い速さで抜刀する。日本刀は空中で弾丸を全て真っ二つに切り落とした。そして男は切り落とした弾丸を空中で蹴り、向こう目掛け飛んだ。男は5本の鋭利な刃物を投げつけた。約時速180km。風を切る音が聞こえると同時に、何人かの男の呻き声が聞こえた。
「お主だけが敵兵を刺殺するのも良いが、私も混ぜてくれんかのう?異能力 塚原卜伝。」
女が刀を和傘へしまった時。響く金属音と共に、背後に巨大な影が現れた。
武士の服に日本の刀を腰に巻き、異様なオーラを放つソレはゆらりゆらりと揺れていた。
その顔は鬼の面にて隠されており、威圧を放っていた。
「さぁ。卜伝よ。殺しの時間じゃ…」
女目掛け飛来する弾丸をソレはいとも簡単に切り落とした。
約10人が一斉に撃った暗殺銃器の弾丸を生身の人間が躱すと言うものは、簡単に言えば降り注ぐ雨を避けろというようなもの。女はその弾丸の雨の中を静かに一歩一歩と歩み寄っていく。ソレは女の体を囲うように無数の刀を踊らせた。踊る刃は弾丸を斬り、弾丸として機能させなくした。
「安心しろ。嬲る趣味は無い。――死ね――」
女とソレは簡単に武装した男等の首を切り落とした。
噴水のように湧き出る血は一瞬で辺りを血の海へと変えた。
「うわぁ…コレはグロいねぇ」
後ろから覗き込むように男は云った。
「腕慣らしとしては満足いかなかったがのぉ…」
女は着ていた振袖の長く、鮮やかな袖で口元を隠した。
「この威力。規模。速さに腕力。攻撃の通用しない姐さんの異能力。流石ですね。流石、白鴉の歯車だ。」
男は笑った。男にしては高いその声は、薄暗く長い廊下な響き渡った。女は溜め息をつき口を開く。
「私の異能力は1対1の勝負をすれば勝るものはおらんであろう。だがしかし、並ぶ異能者は存在する。奴の名は。針ヶ谷。異能力 針ヶ谷 夕雲。刀の刃で大勢を叩き殺した異形の怪物。今は地下牢に閉じ込めてあるがな。奴は危険じゃ。裏社会では名の通った暗殺。いや殺し屋。僅か10歳にして約60人切り殺した少女。」
「でも技術的にも、殺した数も姐さんの方が…」
恐る恐る男は尋ねた。
「あの子はまだ10じゃ。私はもう26じゃ。私が10の時は血すら恐れ、泣き叫んでいたろう」
笑いながら、恐ろしき子じゃ。とだけ言い捨てた。
「ところで、こいつらどうしますか。このままにしていては邪魔でしょうし。」
男は首を傾げる。刃物によって首を刺され死んだ遺体5体。首を刎ねられた遺体15体。計20人は、約1分にして遺体とされた。
「そうじゃのぅ。殲滅班に任せれば良いであろう。」
女はそう言うと懐から携帯を取り出した。右耳に髪をかけ、携帯をあてる。静かな廊下に携帯独自の電話音が鳴り響く。
突然電話の向こうから声が聞こえた。
「もしもし。桜華さんからのお電話ということは仕事ですかな?」
元気な男の声が聞こえる。普段からハイテンションなのかはたまた、何かいいことでもあったのか。定かだはないが、テンションが高いことに変わりはない。
「あぁ。殲滅班の中の遺体処分課に仕事での。20体じゃ。場所は白鴉本拠地、鴉の首領の隠し地下通路、Bの8 FF2だ。頼むぞ」
1度で全ての要件と最も必要なことを話した桜華という女は電話を切った。
「早く首領の元へ行くぞ。」
女は歩き出した。血の海に足が入り、ぴちゃん、という音が聞こえた。男は5本の刃物を手に取り、黒いタオルで血を拭った。赤黒く染まったタオルはその場に投げ捨てられ、血の海へと消えた。
―――首領側近五大幹部官の2人は闇の奥へと消えていった―――
〜中国黑手党老大 弐〜
商店街を歩き約5分。この5分で色々な情報を得ることができた。
「ここら辺は不審者がよく出る。」「おかしな連中をよく見かける。」「ここでストーカー被害に。」
最も気になったのは1人の女性の言ったことだ。
「最近噂の白鴉がここら辺に小さな拠点を組んでいる」
という言葉だった。スーツ姿に頬にかかるくらいに程よく短い綺麗な黒髪。小柄で綺麗な瞳を持つその女性は野原に咲く1輪の秋桜の様に華麗に咲いていた。
「あの。私はこれで…」
気まづそうに小さな声で言う女性は一礼して歩いていった。
「これだから情報収集は嫌なんだ。一人一人に聞いていくなんて面倒くさいこと。」
溜め息をつき、外さんは欠伸をした。首を鳴らし、うーんと唸る。
「そうだね…3手に別れるかその方が早い。10分後、ここに集合だ。电王君は防犯カメラを。八坂くんは、人に聞いて回ってくれ。私は怪しいところを探す。何かあれば。」
外さんは急に黙り込んで笑を零す。ボクら2人は言いたいことに気づき揃って笑を零す。そして3人揃って言った。
『ぶっ飛ばす』
そう言ってボクらは3方向へ別れた。
―――――アレから10分後―――――
ボクらはまた集まり、コロッケを食べながら情報を教えあった。
「ボクが聞き込みをしたところ、新たな情報は特に。強いていえば、監視カメラになにか映っていうかもという話でしたが、何故か見られずに終わりました。」
ボクが取り敢えずこの10分間のことを話すと、电王君はあぁ!と叫んだ。
「監視カメラのことですが、この10分間、ボクが入り込ンでハッキングしてたので!」
これは果たして異能力なのか。はたまた実力なのか。よく分からなかった。电王君は残りのコロッケを一口で食べ、飲み込むと、云った。
「改めまして!ボクの異能力は、電力之魔王。辺りの電波にのり、周囲の電子機器に入り込むことが出来、尚且ツ、辺りの電力をリアルで操ることができる異能力です!電波にのり、監視カメラをハッキングしてデータを覗いてきました!」
元気よく言うがかなりやばい事だということは分かった。电王君は指先についたコロッケの衣を舐め、子猫のような可愛らしい表情を見せた。だが、ここら一帯の監視カメラは政府軍が管理しており、情報を盗んだことが分かれば相当大事になると思う。
「安心した前。荒覇吐と政府軍は借りを作り作られの仲だ。カメラを覗き見されただけで切れるようなアホじゃあない」
外さんはコロッケを食べ終え、次は焼き鳥を取り出した。
よく見ると外さんの手には沢山のビニール袋がかかっており、中には飲み物から食べ物、アイスやデザァトまで入っている。
外さんはそれを物凄い速さで次々と片付けて行く。
「あのー。その飲食物、どうしたんです?」
外さんに尋ねると、あぁ、これ?と言い、ニコッと笑った。
「買ったんだよ」
思っていたのと予想外の答えがかえってき、驚きはしたものの、コレが外さんだ。
「それを買うお金、どうしたんです?」
今度はできるだけ詳しく尋ねた。外さんにもそれが伝わったらしく、更にニコッとし、口を開ける。
「さっき路地裏やらなんやらを漁っていたら、縄張りにしてるのか、飢えた狂犬の如く不良に絡まれてねぇ。黙らせたらお金くれた。」
サラッと怖いことを笑顔で言う彼はいわゆるサイコパスと言うやつだろう。
「あのそれ。犯罪じゃ…」
言い終わる前に电王君が元気に声を響かせた。
「ココです!外さンの証言と、八坂さンが集めてくれた情報、そして監視カメラの映像からして、犯人のアジトはココです!」
ビシッと指で指し示したのは1つの家らしきもの。一階建ての小さな古い家。商店街をぬけ、すぐの所にある小さな林を抜けた先。開けた場所に佇む家は御伽噺に出てくるようなものだった。足元の草を揺らす小さな風。
突然、家のドアが開き、何人かの男が出てきた。
「あっ?なんだてめぇら?」
ガラの悪い男が言う。気づけば男は电王君の頭部を思い切り鉄パイプで殴っていた。頭から血を流し、倒れ込む电王君を目の当たりにしたボクの頭の中で何かが吹っ切れた。「ユルサナイ」ただただその感情が頭を走り抜ける。
「異能力! 黒虎銀…」
腕を虎化させようとすると、外さんが手首を掴んだ。
「いいから。見てな?」
外さんはもう片方の手で向こう側を指さす。
そこにいたのはいつの間にか立ち上がり、不気味な笑を浮かべた电王君だった。アハッっと甲高い声がその場を支配し、そして静寂へと導く。
「異能力。電力之魔王 电子炸弹。」
电王君は指を鳴らすとその音を伝うかのように、先程の男の持つ鉄パイプへと青い稲妻が走り、そして破裂した。電気が弾ける音と共に、当たりは白色に包まれた。
光の向こうからは電気が流れる音。男の叫び声。何かが倒れ込んでいく音。そして、笑い声が聞こえた。約30秒。光が消え、目が慣れてきた頃にはその場にいた大人数全てが倒れていた。
息はある。ただ、気絶しているだけだ。その異変に気づき、家の中から倍近くの男等が出てきた。その建物は一階建てにしてはかなり大きく、簡単に100人は入るだろうと思わせる。家と言うよりは巨大な倉庫に近かった。
「よぉ。アンタが首領かぁ?」
明らかに先程とは口調が変わっている。掌に電流を流し、鬼のような目、尖る犬歯。フードと帽子が風で飛び、クリムゾンと黒が混ざる程よく長い髪が揺れた。高く飛び、帽子をキャッチした外さんは、ドヤ顔で着地したが、そんなことは視界に入らなかった。その悍ましい表情は一瞬にして隠された。紅白の狐面で。何処からか出てきたのか面を付けたその姿は少年ではなくもはや化け物。人間ならぬ人間。怪物ならぬ怪物だった。何もが恐れ、退くその威圧。放つ殺気と電力。藍色の瞳は全てを見透かしているようだった。ソレは笑いながら云った。
「異能力 電力之魔王 唤醒能量。」
ソレの背からは電気でできた稲妻の羽が4枚。面の右目部分から出る黄色い電気。両掌に球体の電塊を持ち、身体中に電力を纏うその姿。ソレは神に近かった。神は云った。
「異能力 電力之魔王 破坏电力」
ソレは右手を地面に叩きつけ、電気の衝撃波を円形に飛ばした。勿論此方にも飛んできた衝撃波は、当たり前のように外さんの爪先に触れ、そして避けるように消えた。
明らかに当たれば命に関わるだろうその衝撃波は、明らかに奴に当たった。はずだった―――
男は衝撃波を受けても諸共せず、平然と立っていた。
电王君はその反応に冷静さを取り戻したようだった。
男は相変わらずの無表情で云った。
「アンタの攻撃は効かないよ。アンタが1番知っているだろう?」
男は云ったのではない。問うたのだ。答えたのは电王君だった。
先程より落ち着いているが、面を外しただけ。羽も、気の電力もそのままだった。
「もちろン。なんにせよ、僕は君の元ボスだろう?」
答えた电王君は静かに座り込み、目を閉じた。
「懐かしのやり方で行こうか。」
「勿論。」
男も同じ姿勢をとる。电王君は異能力を解除した。
1つ。2つと風が通り過ぎ、3つ目の風。勢いが強く、木々が大きく揺らされた。その時何かが同時にぶつかりあった。
「異能力! 電力之魔王 电龙!」
「異能力 橡胶树」
ゴムのように伸びる木々。走る電流。互いがぶつかり、そして散る。
「あの二人は過去に繋がりがあるんだ。」
2人にはね。と呟き外さんは口を閉じた。
―――全てはいつの間にか終わるものだった。目に見えず流れる「電」のように―――