〜虎狼ト生龍〜
〜愛ヲ歌ウ雀 宇宙ノ彼方へ 弐〜
「は?仕事ってったって、あたし達、前回の〘黒鴉本拠地殲滅事件〙で暴れすぎたのよ?」
少女は呆れ顔で云う
「確かに我らは暴れすぎた。社長と蒼き燕からの仕事は黒鴉の人数を半数へ減らすこと。」
紳士的な老人は、髭をつまみ目を瞑り云った。
「確かに、魅音と朔良さんは命令に背き、半数へ減らすだけでなく人数に3分の1に減らしたに並び本拠地を一瞬で廃墟にしたからねぇ。」
こちらもまた呆れ顔で云った。
「いいじゃない別に。本拠地を失くした黒鴉は今頃そこらを歩き回ってるでしょう。そこを潰せば」
「あァ!忘れてた!仕事だ!そろそろ時間だ早く行こう!」
魅音という少女の言葉は男の叫び声にかき消された。
「あんたねぇ、人の話を最後まで…」
「ほら早く!2人とも〜!」
またも、かき消された。少女の中で何かがプツン。と音を立て切れた。許さないと言わんばかりの雰囲気を漂わせた。
「まぁまぁ。外くんはいつもこうじゃあないか」
「…何も言えない…」
「…」
「…」
2人だけの空間は重い沈黙に潰されそうになった。玄関から元気の良い男の声が聞こえる。
「早くぅー!遅い遅い!」
2人は溜息をつき、朔良はかなり使っている無地の大きな黒マント。魅音はオレンジの生地に赤い文字で「Love Story」と書かれ大袈裟に飾られているパーカーを来た。
リアルで見れば誰しもが仕事に行く服装じゃ無いと感じるであろうその姿は、ドアの向こうへ消えていった。
〜目覚メノ蛍ハ 明日ノ星二 参〜
「黒虎と銀狼!」
「黒生龍!」
1人の少年の体は黒と銀の輪に包まれ、シャンという鈴の音と共に手足が虎に。耳や目は狼となった。
また1人の少年の体は黒い炎と黒い稲妻に包まれ、ゴーッという暴風の音と共に両手は黒龍となり。背中や髪からは黒龍が生えてきた。
右腕龍は物凄い攻撃を。左腕龍は八坂の後ろの壁にめり込み、龍を縮めて八坂に急接近する。も、八坂は歪魅の右腕を掴み自分へ近ずけた。
自身から突っ込む速さに、物凄い腕力で引っ張られた歪魅の体は、砲弾となり八坂へ突っ込む。引っ張られたことに驚きがある歪魅は、八坂の狙いに気がついた。咄嗟に背中の龍を空中で放射状に広げ、壁に刺し込んだ。赤レンガ壁を抉りながら、歪魅はスピードを全く落とさず、いや、落とせず、八坂へ向かって飛んだ。
目の前まで歪魅が来た時、八坂は右手以外の虎化を解除した。狼の目は歪魅の動きを予測しており、耳は歪魅の心拍数をも読み取っていた。
ここぞというタイミングで、八坂は右手に虎の力を集中させ、歪魅の腹へ放った。
歪魅は口から血を吐き、骨は軋む音がしっかり聞こえる程の大きな音を立てて、後方へ吹き飛んだ。明らかに八坂へ近づくときより速かった。
路地裏奥の壁に体は深く突き刺さり、また血を吐く。
水が跳ねる音を立てコンクリ道路は紅く染まった。
だが歪魅も負けていない。肺の空気を必死の思いで絞り出し、掠れた小さな声で言葉を吐く。
「血華赤龍…」
歪魅の目の前のコンクリ道路に溜まった血。そして、八坂の、顔へかかった血は、龍となり華のように、紅く。華麗に八坂へ突き刺さった。
続いて歪魅は深く吸った息をまた肺から絞り出し言葉を吐く。
「華炎龍…」
八坂へ刺さった龍は、体内で華を咲かせた。
「ガッ!グハァッ!!」
痛みに苦しむ鋭い声が響いた。
最初は針のようだった龍は、花より華麗な「華」に。纏う赤い火は、火より巨大な炎となり体内で花火のように咲き、破裂した。花火は八坂を襲った。
互いが傷に苦しむ中、互いが睨み合う中。その2人以外の大人は全て死体になり、転がっていた。互いの力を。座席を譲れない戦いは、たった一人の男の手によって終わる