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おっさんと女子高生、異世界を行く ~手にした能力は微妙だったけど、組み合わせたら凄いことになった~  作者: 青山 有
第二部

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第21話 続会談、キース男爵

「協力をするとお約束いたしましたが、どのような形で協力すればよろしいのでしょうか?」


「今日、採掘場を見学してきたそうだね? 君の目から見た率直な感想を聞かせてもらおうか」


 キース男爵の力強い視線が蔵之介を正面から見据える。

 昨夜の晩餐会でキース男爵から協力を求められ、彼に協力することとなったが具体的にどのように協力するのかは何も聞かされていなかった。


 採掘場の見学はいわば自主的な事前準備の一つにしか過ぎない。

 確かに採掘場が大きな懸案事項ではあったが、突然、その話題を切りだしたことに蔵之介たちも驚いた。


 しかし、驚いたことなど微塵みじんも感じさせずに話しだす。


「作業環境はとても衛生的でした。周囲の設備も日常生活に必要なものだけでなく、娯楽設備まで揃っていて労働環境としては理想的と言えるでしょう」


 この世界の平均的な労働環境を知らないが、地球の歴史を振り返って比較しても中世ヨーロッパ基準で考えれば十分と言える環境だった。


 とは言え、日常生活に必要な雑貨屋や食堂、衣服や工具などの修復をする店、諸々の娯楽施設も、そこに店をだせば儲かると判断して自主的に集まってきた者たちである。


 責任者のジョシュアが誘致したわけではなかった。

 それでも責任者であるジョシュアの手柄のように話す。


「過酷な労働を強いていないと知って私も嬉しいよ」


「採掘場の案内も傭兵団のイグナーツ・クライゼン団長が直々にしてくれました」


 キース男爵が一瞬顔を曇らせた。

 その様子からジョシュアに協力しているイグナーツ・クライゼンを快く思っていないのだろう、と彼に関する情報を修正する。


 しかし、蔵之介はそのことに気付かない振りをして話を続けた。


「午前中は坑道こうどうの奥まで一緒に潜ってくださいましたし、午後も周辺施設を一つ一つ説明をしながら案内をしてくださいました」


 とても親切に対応してもらった、とキース男爵に向けて感謝の言葉を述べた。


「皮肉はやめてくれ。イグナーツはジョシュアの付けた監視なのだろう?」


「部外者の素人が余計な場所に入り込んでは、どんな危険があるか分かりません。監視を付けるのは当然だと思います」


「まあいい」


 キース男爵は納得していない様子で先をうながす。


「それで、不審な点は見付けたのか?」


「不審な点?」


「ジョシュアが私に隠れてコソコソと動いていることは知っている。闘病中と言うことで信頼していた者たちも随分と離れていったが、それでも未だに忠誠を誓う者はいるのだよ」


 キース男爵が自虐的な笑みを浮かべた。


 嫡男であるジョシュアが家督を継ぐ、或いは実権を握るのがそう遠くないと思うものが多いと言うことか、と彼の言葉と表情から読み取る。

 しかし、それと同時にキース男爵がジョシュアにまだ任せるつもりがないことも伝わってきた。


「隠していたわけではありません。どこからお話をしていいものか迷っていたのと、どこまでお話するかを決めかねていたので」


「どこまで?」


 鋭い眼光が蔵之介を射貫く。


「何れはすべてをご報告するつもりですが、不確かな情報のまま果たしてお伝えして良いものか決めかねていました」


「間違った情報を伝えては自身の評価を下げると考えたのかね? そんなことで評価を下げたりはせんよ。勿論、報酬を値切るつもりもない」


 雇う側の視点だな、と。

 蔵之介は眼前の相手が貴族の当主であることを改めて実感した。


 キース男爵がうながす。


「どんな些細なことでも構わん。、いや、違和感や憶測でも構わん。少しでも多くの情報が欲しいのだ」


 後は自分が取捨選択すると力強く言い切った。


「巧妙に隠された採掘場が少なくとも二つありました」


「隠された採掘場?」


「表からは採掘場とは分からないようにカモフラージュされています。気付かぬ振りをして近付こうと試みましたが、やはり巧妙に阻まれました」


「鉄鉱石の採掘量が他よりも多いと言ったところか……」


 当初の蔵之介たちと同様の憶測である。


「見付けられたのは二ヶ所だけで、どちらもお世継ぎ様の管轄かんかつでした」


「二ヶ所でも見付けたのは大したものだ。しかし、その口振りだと他にもあると思っているようだな」


 不意に違和感を覚えた。

 他にもある可能性を示すような口振りもなければ、それらしい単語を口にしたつもりはなかった。


 それにも関わらず、まるで蔵之介が隠し採掘場が他にもあると疑っているように話を誘導している。

 キース男爵の下に集まっている情報の量と精度が、自分の考えている以上であることを想定して言葉を選ぶ。


「我々が見付けた隠し採掘場もご報告した二ヶ所だけです。それ以上あるかどうかは現段階ではなんとも申し上げられません」


「他に隠し採掘場がないか、発見した二ヶ所の採掘場の正確な採掘量の調査、これらを引き続き頼む」


 予想通りの反応だった。


「夜中に忍び込むことになるかも知れません」


「私が欲する情報を持ってくるのが貴殿の役割だ。どのような手段で入手するかは任せる。但し、隠し採掘場に関しては憶測を交えるのは控えてくれ」


 隠し採掘場に忍び込んで自分の目で確認しろ、と暗に仄かした。


難儀なんぎな仕事ですね」


「楽な仕事に高額な報酬を用意しはしないよ」


 力強い眼光がさらに厳しさを増す。

 蔵之介にはその瞳が、今更後に引くなどと言い出すなよ、と語っているように思えた。


「乗り掛かった船です、双方が納得のいくところで決着を付けるつもりです」


 今更降りるつもりはないと、一方的に利用されるつもりもないと、蔵之介が正面から言い切った。


「頼もしいな……」


 キース男爵が蔵之介の迫力に怯んだ。

 絞り出した言葉も虚勢を張っているのが蔵之介に伝わる。


 キース男爵が落ち着いたところを見計らって蔵之介が言う。


「他にも気になることがあります。しかし、それをお話しする前に、今夜もう一度お会いする約束をお願いいたします」


「良いだろう」


 蔵之介はゆっくりとうなずいて言う。


「この会談の後、ご息女とお会いすることになっています。会談を準備したのはダルトン卿。会談の目的は知らされていませんし、お二方の意図も図りかねています」


「二人の目的と意図を確認してから私に報告したいと言うことか……」


「端的に言うとそうなります」


「ミルドレッドとの会談後に会おう」


 どこか思案するような様子で二回目の会談を了承したときには、あの鋭い眼光は消えていた。

 そしてゆっくりと頭を下げる。


「不憫な思いをさせてはいるが、私も娘は可愛い……。頼む、ダルトンの真意を探ってくれ」


「そのつもりです」


 蔵之介が穏やかな口調で告げた。

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[気になる点] 不意に違和感を覚えた。 他にもある可能性を示すような口振りもなければ、それらしい単語を口にしたつもりはなかった。 →下の2ヶ所で「少なくとも」や「見つけられたのは」という他にあるかも知…
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