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学園SP  作者: 見栄っ張りのジュリエット
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歓迎

第4話、side:弥佳紗です。


「つ、ついた……」

……やっと、やっと着いた。

結局のところ計4時間もの間鬼ごっこをさせられるはめになり、髪はボンバー、新品だった制服は1年以上着古したようにヨレヨレ。

校門の前には、まだ学校生活が始まってもいないというのにボロボロな私が立っていた。


「通学舐めてたわ」

ただ通学するということがこんなにも大変だとは……いくらイレギュラーな事態に慣れている私といえど予想外だ。

最後に寝床にしていた空き屋から最寄りの駅までは本来だったら徒歩10分しかかからない。ディストリクト6で電車に乗ったら、ディストリクト2で乗り換えて、学園のある1-24ステーション(駅)で降りるだけだ。

合わせて2時間弱。

もう一度言おう。


この時間は「本来だったら」の話だ。


鶏の鳴き声が聞こえる前から完全武装状態のお兄さんお姉さん方に百鬼夜行の如くゾロゾロと後を付けられ…というやむにやまない事情から所定の時刻には余裕で間に合わなかった。入学早々、期せずして重役出勤である。


「ようこそ、清蓮学園へ」

どこからか流れてくるアナウンス。

これが聞こえるということは大分学園に近づいたということであろう。

あまりの発汗量にさすがの制服様も降参したようで、布が萎れた葉のも野菜のようになっている。

「歴代最高にみすぼらしい首席様の誕生…か、」

思ったことをそのまま口に出してみると不思議と笑いがこみ上げてくる。

クククと口に手を当てながら門の前に立つと、突如として青い光が私を包み込んできた。

その間約1秒。

「!?」

突如として超ハイテク技術が出現したことに呆気にとられている私を尻目に、そのマシンは目的を果たしたようで、

「学籍番号順214S01黒羽弥佳紗、証認しました。次回からは自動的に入退場できます。I verify your student id number,Mikasa Kurohane.Your number is “214S01”.

So you can enter and leave from here freely for next time…….」

英語と日本語の入り混じった答えを返してくれた。

青い光を対象に当てただけでどうやって識別しているのか…、

恐らくはMRI技術をソースとして日常的に使用しても人体に影響しないように改善し、肉体構造から人間の識別及び人体検査をしている――のだと思うが、プログラムの構成式のコマンド部分など気になるところがある。

早急に図書室に籠って調べたいところだが…、今の私は大遅刻した身。故に後回しにするのが最適解だと心得た。

そしてシュッという音とともに荘厳かつ巨大な門のホログラムが消えたところで、清蓮学園の敷地に恐る恐る足を踏み入れると……、


私は固まった。


「……」


……。

……。

……。


清蓮学園の校舎が目に入った途端、自らの理性に反して関係なく固まる体。

ありとあらゆる非常事態に慣れきってしまった私でも顎が外れんばかりに大口を開けて滑稽な(こう)(がい)を晒していることだろう。

ここ数年、崩壊直前のコンクリートでできた建物やスラム街の粗末な掘っ建て小屋しか目にしてこなかった私にとって、眼前に広がる光景はあまりにも衝撃的過ぎた…というワケなので私の災害級に見苦しい顔は温かくスルーしてほしい。


――太陽の光を浴びてキラキラと反射するガラスの城。

見たこともないような形をした建物の数々。

碁盤の目のように整備された白磁の道と、それに区切られた青々とした芝生。

学園全体を覆うほどの巨大な電磁バリア。


「っ、」

そんな、まるでお伽噺のような世界に見惚れていた私の前髪を春風がフワリと浮かし、制服が靡く。敷地内のどこかで咲いている花の甘い薫りや芝生の瑞々しい薫りをめいいっぱいに吸い込み、思わず頬を緩ませる。

不意にまだ露がついた草木がキラリと日の光を反射する様が目に入り、無性に感動した。


校門の前で固まってからどれくらいが経っただろうか。


あまりにも美しい庭園に目が慣れてきた私が次に捉えたのは白磁の道のその先、ガラスの城。

1番高い真ん中の棟を他の4つの棟が囲むような造りになっているそれは、表面に区切りや凹凸を備えているもののガラス同士の継ぎ目はなく相も変わらずサンサンと照りつける太陽の光を跳ね返し、眩いばかりに輝く。


「…」

ずっと考えていた。


――初めて学園に行った時、私は何を思うのだろうか?


と。


過去への決別?

未来への覚悟?

はたまた両方?


でも不思議なことに、いざその時となると自分が今どんな気持ちかなんて分からないもので。ただ形容しがたい温かさと鋭さが混じり合った何かが心の内にあるのは何となく感知できた。


そして私は小さな声で「行こう」と呟き、校舎へと続く長い長い道を普段と変わらぬ足取りで歩き始めた。



「誰もいない…」

進み始めてから5分が経過した今、私は未だに誰ともすれ違っていない。

しかしそれも当然なのである。

事前に送られてきた「本日の予定」によると、今この時この瞬間、新入生はウェストドームという建物でオリエンテーリングを受けているはずなのである。先輩たちは……恐らく春休みなのだろう。

「新入生は必要書類を持参の上、ウェストドームに行ってください。Good morning . Congratulationson your entrance to this school.……」

道端に等間隔に立っている女型のアンドロイドが先程と同じアナウンスを繰り返す。

見た目は本物の人間と何ら変わりのない彼女たちの指示に従って、校内地図片手にやや右寄りに方向転換する。案内によると、その建物は旧ヨーロッパ諸国の大聖堂と似ているらしい。

…。

「…」

それにしても良くできてんな、このロボ。

さすがは日本一のセレブ学校。

…金の使いどころを間違えていない気もしないでもないが。


「ピーーー」


突如として響き渡った警報音。

それは確かに目の前のアンドロイドから発せられていて。

「ん?」

…何故警報が鳴ったのかさっぱり分からない。

もしかして近付き過ぎたとか?

……。

「どうしよ…」

…。

ゴチャゴチャと考える私を他所に、目の前のロボ姉さんから再度甲高い機械音が発される。

「学籍番号順214S01黒羽弥佳紗、証認しました。

緊急コード04より、黒羽弥佳紗を拘束します。

拘束モード及び捕縛モード作動」

そして喋り終えた彼女は再度甲高い警報音を鳴らすと、目を赤く光らせて私の方に手を伸ばしてきたきた。


「ちょいちょいちょい!!!!!!!!!!」

待て待て待て待て。

本格的に校内に足を踏み入れてまだ3分も経ってないのにこの仕打ち。

確かに遅刻したのは悪かった。

ふかーく反省している。

まことにもーしわけなく思ってもいる。

いくらのっ引きならない事情があったとしても。

…。

ハハハ。


「ディストリクト6のくせに調子のってんじゃないわよ!」

と、気の強そうな女子生徒に水ぶっかけられる。

又は

「このブス!」

などと罵られ撲られる。

などのケースは想定していたが、機械のお姉さま方に集団で取り囲まれるとは思わなかった。

そもそも、

「こんな数のロボット、何処から出てきたんだ?」

中学三年間で不本意ながら鍛え上げられてしまった私の逃走力を駆使する間も無く敷かれた包囲網。

手から害獣捕獲用の金網らしきものが出てきているところからして嫌な予感しかしない。

…恐るべし。日本一の学園。


「学籍番号214S01、黒羽弥佳紗、あなたはただいま排除対象として認識されました。

よってフェーズ2に移らせていただきます。

カウントダウン開始。5、4、3……」

理由は分からないが私を完全に敵認定し、ヤバそうなカウントダウンを始めた女型アンドロイドの群れ。

にっこり上品に笑っている彼女たちだが、表情を変えるという機能を付け加えた方がいいと思う。これから人を捕縛しようというのに笑顔なのはもはやホラーだ。

「カウントダウン終了。フェーズ2に移行します」

現状へのツッコミをツラツラと並べていたらカウントダウンとやらが勝手に終わっちゃったよ。

とりあえず私の無実は証明しないと。

「あー、ちょっと、鬼ごっこやってたら遅刻しちゃって……。ワザとじゃないんですよ。ワザとじゃ。勝手に参加させられただけで」

あ。

失敗した。

緊張からお国言葉が出てしまい、何とか伝えたいことを喋り切るも瞬時に己の失敗を悟った。…彼女たちを逆に怒らせてしまったようだ。

私はなおも両手を上げて説明を試みる。

「あー、まー、遅刻してスミマセンでした。おとなしくついてきますので、あの……」

とーどーと彼女たちをなだめようとする私。

…機械相手に自分は何をやっているのだろうか。

まあ、結果は当然…

「……ゼロ」

ものの見事に襲撃されました。


『バシュッ』

『バシュ』

『バシュッ』

『ヒュン』


「私、生徒。大事な日に遅刻しちゃったちょっとおバカな普通の生徒だから!」

私のイマイチなツッコミに反応したのかしてないのか、10体のお姉さま方がシュッという音とともに手をウォーライド専用武具に変形させた。

あっ、ちなみにウォーライドっていうのはね

今から約100年前に始まった、空飛ぶボード=フラボーを使ってやる世界的競技のこと。

来年のロンドンオリンピックから正式種目になるらしい。

スゴいよねー。

競技内容は至って簡単。

フラボーに12人の人間がそれぞれウォーライド専用の疑似武具(切っ先が特殊な電磁波でできている為、実際に痛みは感じるが死傷はない)を使って、疑似戦争をする。

ただそれだけ。

でもこれが超オモロいんだよなー。

興味を持つものなどほとんどない私でさえも、たまーにプロの試合をコッソリ観に行くくらいに。

で。

ウォーライドのルールは簡単。

主に2つだけ。


1、殺すな

2、フラボーに乗れ。


これだけだ。

地面に足をつくか戦闘不能になった時点でそのゲーマーは失格。

チームメイトが全員失格になるか、「フラッグ」と呼ばれる相手チームの戦旗を3つ全部奪って自陣に戻ってくればゲーム終了。

でね、専用の競技場である”フィールド”には色んなタイプがあってね、

例えば、マグマフィールド、ブリザードフィールド、マウンテンフィールド、市街地形、学園形などなど……。


「捕獲失敗。プランβに移ります。

黒羽弥佳紗対策に新たにナンバー11から20まで追加」

――オヨヨ。

私がウォーライドについて熱く語っている間にロボねーさん達がまた物騒なコト言い始めちゃったよ。

どうしましょ。

心なしか、機体の数がさっきの倍になってる気がするよ。

ヤバそうだよ。

もはやキャラ崩壊を起こしながら冷静でいようと努める…も、無駄だった。

「全機ポジショニング完了。プランβを開始します」

「えっ、ちょっ!!」

私を取り囲んでいた10体が一斉に私の方へ突進してくるのを見た私はすっかりパニック状態。

私のささやかな抵抗も虚しく、本日二度目の鬼ごっこの火蓋が切って落とされたのだった。




この鬼ごっこが本物の鬼を呼んじゃうんですよ…はい。

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