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学園SP  作者: 見栄っ張りのジュリエット
26/29

みかさちゃんがほーしい。

お久しぶりです、USBメモリから今まで書き溜めていた250ページと他の9作品(未発表)が消えてから少し経ち、やっと続きを書き始められました。読んでいただければ光栄です。※詳しくは活動報告へ。

ちなみに、この話はside:弥佳紗です。



「あら、どちら様かしら?」

薬袋医師の研究室を辞してからどこに寄るでもなく自分の病室に戻ると、まさかの花押先輩とのエンカウント。

見舞客用の簡易椅子に優雅に腰掛ける女性はまさに、一連の事件の元凶である花雅寮寮長だった。

――表面上は聖母の如き微笑みを見せているが、腹の中では何を思っているのやら。

変装を解いている今、正直勘弁してほしい展開だが幸いなことに私の素をあちら側は知らない。

だったらこの一言で済むはずなのだ。

「…すみません、間違えました」

「…」

わざと取り乱したように後ずさり急いで病室から出る私に彼女が一瞬目を眇めた気がしたが、出てしまえばこちらのものだ。

病室から少し離れたところで歩く速度を速める。追いつかれてあれこれ確認されては面倒だ。最悪「変装」を「身分詐称」と称して退学処分に追い込んでくるかもしれない。…彼女ほどの狸ならやりかねない。そもそも顔はあんな「純粋無垢ですぅー」みたいななりしといて実は「腹にブラックホール抱えてます」な先輩の方が正真正銘の詐欺だと思うのだが、それを言ったところで誰一人として信じてはくれないだろう。それくらい彼女の情報統制はしっかりしている。

あの試験の前に彼女の情報も集めてみようとしたのだが、気持ち悪いくらいにいい噂しかでてこなかった。…あれは虫唾が走った。

「新鮮…」

オフィシャルな「黒羽弥佳紗」の格好をしていない今、人々は私に無関心そのもので、いつもなら感じる嫌悪や侮蔑の眼差しは皆無。

先程からふわふわと宙に浮いたような感覚を味わっていたが、視線が無いだけでこんなにも感覚が違うとは驚きだ。それだけじゃない。看護師さんにテラスに出る出入り口を聞いても嫌な顔一つされなかったし、売店で飲み物を買ったらおまけに「うまか棒」までもらえた。

…普通にうれしい。

おそらくその気持ちが前面に出ていたのだろう。

道行く人が私に微笑んでくれた。

…これはすこしビックリする。


「…これから、変装止めようかな」

色々な意味で慣れないシチュエーションに晒され続けた私は、先程手に入れたカップドリンク片手に木の下にあるベンチに座ってボーっとしていた。

太陽がもうすぐ頂点に届こうかというところ。

新発売かつ期間限定らしい味、「天使のキス味」と称された、実際のところホワイトチョコのような味のそれをチューチューと音を立てて啜る。

木の葉が風に揺れる音を聞きながら、天然の日光を浴び、ほぼ目を閉じながら飲み物を飲む。

それはいささか無防備過ぎではあるが心が癒しで満たされる。

…そう。

束の間の安息を味わっていたというのに。この空間をいきなりぶち壊した人物がいた。

「みぃーかーさーちゃぁーーーん、どこかしらぁーーーーーーーーーー」

死ね。去ね。

率直にそう思った。

だがしかし顔には出さず、予てからの無表情を貫く。

呼吸も何もかも空気に合わせる。

こちらに来てから久しぶりに観た映画で、主人公が犯人に追い詰められ息を殺して隠れるというシーンがあったが、あれは間違いだと思う。あれでは逆に気付かれてしまう…と私は実体験からして知っている。何せ、緊張状態にある時に呼吸を止めようとすればするほど息は荒くなる。

こういう動作は俗に「気配を消す」というのだそうだ。

初めからそこに存在していたかのように、かつ何も存在していないようにただそこにある。

「あらぁ、いないわねぇ」

女だと思ってた。

女にしては声が低くいと感じたのも、叫んでいるからだとばかり思っていたがどうやら完全なる男だったらしい。

今、私の目には確かに、ガングロ顔の筋肉達磨が写っている。

――キャラ濃すぎだろ。

腹黒乙女な花雅寮寮長に、オネエの…確かあれは……風牙寮寮長。

残りの紫月寮寮長は女誑しのマッドサイエンティストだと聞いているし、飛鳥寮寮長はあの一青先輩だって言うし。

「どこかしらぁー、こまったわぁ」

ゴリゴリのオネエ言葉を吐く強面というのはやはり精神衛生上あまりよろしくなかったようで。自分の心に草が生えていくのを感じた。

「…あらまぁ、」

「…」

若干死んだ目で景色を眺めていると目の前を巨体がのっしのっしと通り過ぎていった…、筈なのに。

――バシッ。

という音と共に受け止めたのはオネエの拳。

彼?彼女は普通に通り過ぎるかと思えばいきなり殺人級のジャブを入れてきたのだ。

――あー、何発か殴られとけばよかった。

後悔先にたたず。

時すでに遅し。

気付いた時には乱闘にまで発展していた。

「うらぁっ!」

「…」

「はっ!!」

「…」

「突きぃーーーーー!」

「…」

ビュンッビュンッと風を切る音が耳を流れていく。

拳も蹴りも絶え間なく飛んでくる為に避けるだけで精一杯で、逃げる糸口が見つからない。

下手したら騒ぎを聞きつけた花押寮長が飛んでくるかもしれない…が、それは流石に勘弁被りたい。

普通の生徒なら彼女に声を掛けられて感謝感激歓待するのだろうが、あの底の見えない腹黒さを見てまでそうは思えない。寧ろ一生彼女の視界に入らずに過ごしていきたいとすら考えている。

――バキッ。

渾身の蹴りを躱すと、その蹴りは背後にあったベンチに入り、大きな破壊音と共に木っ端微塵になった。

ボルトで固定してあるはずのそれが紙のように吹き飛ぶのを見るとさすがに笑えない。

そして、段々と技の精度が上がってきているのも洒落にならない。さっきまで掠ってはいなかった打撃も髪の毛一本分すれすれでしか躱せなくなり、何回かに一回のペースで擦過傷ができていってしまっているザマだ。

「…校内で襲われるとかないわー」

はぁ。

病み上がりなのにも関わらず、こうして命懸けの後輩いびり?を仕掛けられているのだから溜息の一つや二つ付きたくもなる。

…ほんと、何なのこの学校。

聞くところによると日本一、というより世界一の高校なのに入ってみれば襲われるわ襲われるわ襲われるわ…兎にも角にも襲撃されてしかない。

まともな友人とか一人もいないじゃないか。

そんな今更なことに気付き、また溜息が出る。

「おいゴラ、尻ばっか向けてんじゃねーぞ!!」

うわー、急にガラ悪くなった。

辛うじてオネエ口調を保っていた彼も遂に不良のような言葉しか発さなくなってきた頃。

遠くから地響きのような鈍い音が聞こえてきた。

そしてそれは徐々にこちらに近付いてくる。

地響きに野太い鬨の声のようなものが混じり、視認できるギリギリの距離で窓ガラスが割れ、他にも多くのものを破壊しているであろう音と共にそいつらは現れた。

「りょーちょぉーーーーーー」

「他所もんに稽古付けてるってマジっすか?!」

「俺達もおなしゃっす!」

「兄貴ぃーーーーー」

「てめぇーら、言葉に気を付けろっつってるだろーが!!」

「ッつ!!殴ることないじゃないすかっ!」

「誰だ!今、俺に蹴り入れたヤツ?!」

「やんのかゴラ?」

「あ“ん?」

「…」

もう、カオスだ。

何が何だか分からない。

風牙寮寮長は未だに私を探しているようだが、筋肉の海に埋もれた私をそう簡単には見つけられないだろう。

身体能力に優れた生徒が入る寮なだけはあって、目の前で繰り広げられている戦いは人間を辞めたような動きをしているものが多い。

ある男子は病院の二階の高さまで飛びながらドロップキックを繰り出していたり、また別の男子は拳一つで人間を数メートルブッ飛ばしている。

「私よりもこの人たちの方が人外でしょ…」

もしかしたら私のように、人とも完璧な人外とも言えない存在は認知されてないだけで結構な数いるのかもしれない。

そしてこれはまた別の話だが、この風牙寮は花雅寮とは違って階級というものをあまり気にしていないように見えた。逆に、弱い者は虐げられる武力が全ての世界でもあるようだ。

そう“視えた”。

「黒羽ぇーーーーーー、出てこい!俺の寮に入れ!!」

院内に避難し終えた頃、遠く後ろで風牙寮寮長が吠えた声が聞こえた…気がした。

…これは聞こえなかったことにしてもいいだろうか。

――正式に入寮要請が来てから考えればいいか。

「これで何も言わずにいたら入寮を了承したことにならないか?」などと難しいことは考えずに後回し。

今度こそ私は病室に戻り手早く支度を整えると、つい先程知り合いになった薬袋医師から退院許可をもぎ取り、病院を後にした。

…紫月寮から個別入寮試験への招待状が届いていることも知らずに――。





p.s.

風牙寮寮長、キャラ設定。

name:鶴菱剛士つるひしごうし

性別:男

身長体重:188cm。94kg。

特徴:筋肉達磨。浅黒い肌。

素はオネエ口調だが、いつもは隠している…つもり。

武家の名門鶴菱家の次男。一通りの格闘術は修めている霊長類最強系男子?だが、素手格闘を得意としている。怪力。

意外と乙女な趣味とガラスのハートの持ち主(非公開情報)。


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