過去はセピアではなく赤色に染まる
本日投稿2話目。
side弥佳紗で、特に過去の弥佳紗の視点から物語が語られます。
この話はかなりシリアスな要素が入ってくるので、シリアスが苦手な方は飛ばしてくださいませm( ..)m
「お前なんかこの世に必要無いんだよ!」
「目障りだから、早く消えてくんないかな?」
罵声と共にバットが振り上げられる。
あぁ、早く終わんないかな。
私、何でこんな所にいるんだろ?
……。
恐怖という感情はまた恐怖という感情を呼び寄せるらしい。
不意に浮かんだ記憶にそう思わずにはいられない。
これは確か私がまだ中学1年生だった頃、授業中に教室で拉致られたときのこと。
今でこそ「先生、私が明らかにガラの悪い生徒に連れてかれるの見ていたはずなのに止めてもくれなかったなー」「少し前までは友達だったあの子、私のこと指差して笑ってたなー」などと思い出話風に語れるが、当時はけっこう怖い思いをした覚えがある。
これは後で知ったが、この一件を裏で指揮していたのは私の“友人”を名乗っていた女子だったそうだ。
トイレで本人たちが話しているのを聞いた――。
「ハハハ」
思わず乾いた笑い声を洩らす。
それが気にくわなかったのか私を取り囲む先輩達の内、一人がノコギリを持って近づいてくる。
ここは講堂の下にあるボイラー室。
止めどなく流れてくる涙で殆んど見えない目で部屋を見渡せば、厚い鉄の扉にコンクリートの壁に這う何本ものダクト、更には要らなくなった机や看板、工具など様々な不用品が見えた。
なるほど。
防音機能もついているこの部屋はリンチにはもってこいだ。
「おい。何ヘラヘラ笑ってンだ?」
肉厚な男がノコギリを肩に担いで凄む。
「……」
でも私はその問いに答えない。答えられない。
だって、自分でも何で自分がこんな時にまで笑っているのか分からないから。
私の無言を無視ととったのか男がノコギリで私の肌を撫で始める。
「お前のせいでオレのダチがポリ公にパクられたんだよ!糞がっ!」
ノコギリを引く手に力が籠り、その時に刃が当たっていた左腕の上部がザクリと切れる。
――あぁ、血だ。
私は他人事のように己の左腕から溢れ出す血を眺める。
「おいっ!流石に切るのは止めとけ」
私を拉致った集団のリーダーらしき人物が止めに入り、その人物から鋸を奪った。
恐らくは止めどなく流れる血にビビったのだろう。
切れたところが悪かったおかげで本来の痛みよりだいぶ重症に見えるようだ。
「ケッ。これくらいどうってことねーだろ」
そう言いつつもノコギリをバットに持ち代える男。
バットもノコギリも大して殺傷能力は変わらないと思うんだけどな。
でも、こいつら馬鹿だから「殴りは死なない」とでも思ってんだろーなー。
声を大にして教えてあげたい。
「”撲殺”っていう殺しの手段もあるんですよー」って。
絶え間なく打撃を与えられ続けること幾何か。
肋骨数本が折れ、体の至る所に擦過傷と打撲ができたであろうことを悟る。
痛覚が麻痺してきた頃、ふと思う。
「そろそろ死ぬのかな」と。
…良いかもしれない。
死んだら死んだで辛い日々から逃れられる。
実際、何度か自殺を試みたけが私の体は普通の人間より丈夫に出来ているらしく、毎度後一歩というところで死に至らない。
目が覚める度に自分でも驚く。
「なぁ、そろそろ止めないとコイツ死ぬんじゃね?」
酸素不足で遂には震えだした私の体を見た誰かが私の異変に気付いて警鐘を鳴らす。
その声に振り上げたバットを下に降ろす男達。
――よく気付きまちたねー…、私が死にかけてるってことに。
どうやらまだディストリクト6に染まり切ってない彼の中にとって、殺しはマズい部類に入るらしく、私を取り囲んでいた男達が一抜け二抜けと輪から抜けていく。
「スッ、ハァッ、スッ、ハァッ」
吸っても吸っても足りない酸素。
意識が朦朧としてきた。
電池が切れかけた蛍光灯のようにチカチカとついたり消えたりを繰り返す私の意識。
体が冷たい。
血が、震えが止まらない。
息を吸う度に大きく反る背中……。
そうやって動き続ける己の体。
いくら「死んでもいい」と思っても、生きようとする。
自分の意志では止まらない、止まってくれない呼吸に心臓の鼓動に一種の感動を覚える。
ガチャン。
部厚い鋼鉄性の扉が閉まる音が遠くに聞こえた。
「…」
苦しい。
息がデキ、ナ、イ……。
肺が締め付けられる感覚を最期に私の視界は暗転した。
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「っ!」
息苦しさに飛び起きるとそのせいで口についていた緑色のマスクが外れてしまい、ベッドサイドに転がる。
すると瞬く間に私の隣からけたたましいアラート音が鳴り響き、肩をビクリとさせながら素早く音源を確認するとそこには心拍数と血圧と思しき数値が表示されたモニターがあった。
p.s.
かなり思わせぶりな感じに話を切ってしまいましたが、それについては次話をご覧いただければ幸いです。




