キリの中を歩く
前話「襲撃」の事後処理に学園SPの面々が出てきます!
「至急応援を頼む!!対象が意識不明、低体温、心肺半停止の重症だ」
鳴海からのコネクト。
いつも無駄によく喋るアイツには珍しく、たった一言で終わったそれに俺は自分の失策を悟った。
対象――黒羽弥佳紗はいつ“消され”てもおかしくなかったからこちらも監視していたというのに、このザマだ。
俺が現場に着いた時には学園の森林の約二十分の一が焼失しており、おまけに3つの死体…否、死体は2体だけで1体は仮死状態だった…が、転がっていた。
…3体のうち2体が血溜まりの中に転がっていれば誰でも勘違いするだろう。
「鳴海、」
電磁バリアを張った後、残りの1体に心肺蘇生処置を行っている鳴海に自動蘇生器を見せながら声をかける。
そしてそれを視界に納めた鳴海は素早く退き、無言で俺の後ろに立った。
俺は機械から発されるアナウンスに従って部品を取り付けながら、鳴海には警備用ドロイドと各種映像機器の統制を、テオには引き続き不審者の監視を、本部にいる薬袋には薬袋の兄である叶さんにコネクトを頼み体制を整える。
そしてしばらくして黒羽弥佳紗が心肺半停止状態から持ち直したのを確認し、鳴海に向き直る。
「鳴海、報告を」
「……対象を監視中、不審者に襲撃された。その隙に電磁バリア張られて対象と隔離され、急いで”片付けた”ものの、対象を再度見つけたときにはこの状態になっていた。以上」
「ではもう1人ないしは2人、襲撃者がいたということか?」
「たぶん。でも、もういない」
「……そうか」
完全に仕事モードの鳴海。
いつもの語尾の伸びが消えている。
任務に失敗し、悔しいのだろう。
鳴海家の次期頭領でもある鳴海は仕事に限っては真面目で、一里たりとも失敗を許さない。
騒がしいと思うこともあるこそすれ、こうもアイツが黙りこむと調子が狂う。
「傷口、」
「何だ?」
「対象の傷口見て」
「?」
顔から一切の表情が削げ落ちた状態の鳴海が指差す先には黒羽弥佳紗の右足がダラリと横たえられていた。
到着時に巻いた止血帯は既に深紅に染まってきており、かなりの出血をしているであろうことが想像できた。そして何よりも、
「紫色……か」
傷口が紫色に変色しているのだ。
「たぶん連中は最初に麻痺系の毒を使ったはず。それがこの右ふくらはぎの紫色。
で、次。首見てもらうと分かるんだけど、今時珍しい注射痕。しかもその周りなんて赤く腫れ上がってるでしょ。だから最低2種類は毒が使われてる」
「……『2つのうち1つは致死性の毒だった』と言いたいのか?」
「当たり。傷口の血の乾き方からして先に右ふくらはぎをやったはず。その時点で肌を紫色に変色させるほど強い毒を使っているのに、新たに毒を使ってる」
「ただ2番手に1番手よりも弱い毒を使ったところで何の意味もないから、首から入れられた毒は右ふくらはぎのものよりも致死性が高かったと」
「首の方の毒が実は毒じゃなかったとか、もっと一杯毒盛られてるとかってケースも考えられるけどね」
「それは考えにくいな」
「でも死んでない。てことは誰かが僕が到着する前に黒羽弥佳紗に最低限の手当てを施したんじゃないかって思ったんだ。そしたらこの子が今も生きてる説明がしやすくなる」
鳴海がそう言ったのを最後に叶さんが到着したことで話が途切れる。
叶さんと一言二言交わした後、鳴海と叶さんはSP 本部に向かい、俺とテオは後片付けをするために現場に残った。
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学園校舎の真下。
地図上には存在しない地下階。
ズラリと無機質な鉄製の扉が並ぶヒンヤリとした廊下を男子が1人。
彼はラフミディアムの艶やかな黒髪に、彫りが深く鼻筋が通った端麗な顔と恵まれた容姿を持ち主だ。
その男子は『医務室』と書かれたプレートが取り付けられたドアの前で止まると、その部屋のスキャナーに手を当てた。
「アクセスレベル5:一青煌冴、認証しました」
2秒後にアナウンスと共にドアが開く。
そして一青煌冴と呼ばれた男子が中に入るとまた扉はガチャリと閉まった。
彼が足を踏み入れたテニスコート2面分の広さのそこでは、先客が椅子に深く腰掛けながら苛立たしげに深緑色の長髪をグシャグシャと掻いていた。
白衣を着た彼女は一青の存在に気づき、視線を彼に向けて口を開いた。
「そっちは上手く片付いたのかい?」
「現場の血痕は消せた。手懸かりは無し。後でミーティングを開いた時に言うつもりだが、この一件には黒椿という裏で有名な暗殺集団が関わっている可能性が高い。それは薬袋も鳴海から聞いているだろう」
「まぁある程度はね。…っにしても、今回の解毒剤生成は骨が折れたね」
「そんなに使われた毒は特殊だったのか?」
「いいや。特殊は特殊だけど、2種類混ざったのがマズかったんだ」
「…斗一にも叶さんにも迷惑かけたな」
「べつにカナ兄が医療カプセルの使用記録の書き換えとか諸々やってくれたから大してあたいは動いてないよ」
「あとで叶さんのところに顔を出しに行く」
「恐らくこれからの時間だったらラボにいると思うよ。…そもそも煌冴は黒羽さんの様子を見にきたんだろう、違うかい?」
主語が抜けた会話。
しかし2人にとってそれは当たり前。
互いの頭脳と幼馴染みという関係が成し得る技だった。
そしてどこに行くという予告もなく突然立ち上がった薬袋は、点々とシミがついた白衣をヒラヒラと揺らしながら部屋のさらに奥へと向かう。
そんな彼女の後を追う一青。
「ほら、着いたよ」
薬袋の赤茶色の瞳が向けられた先には人工呼吸器を取り付けられて眠る女子の姿があった。
布団からのぞく点滴の管が繋がれた腕には痛々しいほど沢山の切り傷や白くふくれた水膨れ。
今は見えない胸から下にも所々刺し傷などがあり、特に右ふくらはぎの刀傷は毒も手伝って本当に酷いものだった。
そんな満身創痍の少女を2人は顔を歪めながら見つめた。
ピッピッピッ……。
目の前で横たわる少女の心臓が動いていることを示す音が病室に響く。
奇跡に近い確率で生き残った少女。
黒髪の彼の碧い双眸が向く先を辿り、女は落ち着かなそうな様子でソワソワしながら白衣のポケットに手を突っ込むと唐突に口を開いた。
「で?何でこの子は黒椿なんかに狙われてるんだい?
私は逆怨みとか、ただ単に目障りだったからとかかと思ってたけどねぇ」
「俺もそう思う。黒羽弥佳紗はいい意味でも悪い意味でも今、注目を集め過ぎている。
昨日なんて、あの花雅寮寮長が個別入寮試験の実施を告げにワザワザ一年S組まで出向いたらしいからな」
「…あーあ、それかもしれないね」
「花押寮寮長の信者が黙って無いだろうな」
そして一端会話が途切れた直後、薬袋のコネクトに着信が入り彼女は入り口の方に歩いていった。
しばらくコネクターで会話した後、戻ってきた彼女。
どうやら兄からのコネクトで、伝言を頼まれたらしい。
「煌冴、カナ兄が私のラボにあるBBに黒羽弥佳紗の検査結果、それに黒羽さんと鳴海に付着した血を分析して割り出された人物に関するデータを送ってくれたってさ。
…まぁ黒羽弥佳紗はあと何時間かは目が覚めないだろうから、あたいのラボで検査結果でも見てればいいんじゃないかな?」
「そうさせてもらう」
一青は寄りかかっていた壁から背を剥がすと、先に出口に向かう。
そして薬袋も医療機器をいくつか操作したのち、彼を追って病室を後にしたのだった。
p.s.
一度この文章の投稿作業をしているときに分が飛びました。けっこう焦りましたw
ちなみに今回、弥佳紗ちゃんの応急手当てをした人、察しのいいひとはお気づきかもしれませんが、「ある人物」が職務内容の一環として(私情挟んでる)行ったことですw




