平安貴族との邂逅
久しぶりの更新です!
この回も日常系の話になってますが飽きずに見てくださると嬉しいです。
朝食をいつもより2分速く食べ終え、今日も今日とて始業までの時間を中央図書館で費やすことにした私は早々に食堂を後にした。
第1から第4小図書館に加え中央図書館と合計5つもの図書館を有する清蓮学園。
しかし、「小」と名を冠する図書館ですらショッピングモール一棟分ほどの規模はあるために、どんなに時間があっても全ての蔵書を読み切るのは難しいであろう。
「今日はどのジャンルにしようかな…」
中央図書館へと延びる自動通路に乗りながら考える。
昨日は家庭の医学書の最新版を読み終え改定個所を確認したし、一昨日は20世紀のフランス人哲学者サルトルの「嘔吐」と19世紀のドイツ人哲学者「人間的、あまりに人間的な」「ツァラトゥストラはこう語りき」の原本を読んだ。この3つの本の原本は世界に4冊しか存在しないらしく、閲覧するのにかなりの時間を有した。事前申請し当日にたくさんの書類を記入しやっと重要文化財閲覧書庫に入ることができた……どうしても読みたかったのである。
題名だけ羅列されてもよくわからないと思うが、ニーチェに関しては「神は死んだ」との格言を著書内で述べた人物として有名だったりする。最近話題になっているドラマの主人公がよく口にする決め台詞になっているあれだ。
ぜひ一度読んでみてほしい。…おすすめだ。
「足元にお気を付けください。Please watch your step.…」
途中で自動通路が途切れ、中央図書館に向かう方に乗る。
校内が広すぎる故にこうして主要地域には歩く歩道が張り巡らされていたりするのだ。
きっかけはどこぞのお坊ちゃんが歩き過ぎで足が折れたことが原因らしい。
…。
ともかく、紙媒体の物体のほとんどが消えてしまったこの世界において、こうしてわざわざ図書館まで出向く物好きな人間はほぼほぼいないだろう。何をするにもBB一つで事足りるのだから当然だ。
大量の本を読むのならば、寮の自室に籠ってBB片手にデータベースを漁った方が早いし、移動などの細々とした労働コストが省ける。
だが、紙の手触りや匂いはそう簡単に真似できるものではない。
好きなものは好きなのだ。
そう。
たとえ、今のようなことが起こるリスクがあったとしても――。
「……い!おい!聞いておるのか?」
「?!」
突然聞こえてきた癇に障る声に驚いて顔を上げると、目の前には中肉中背の男子が偉そうにふんぞり返って立っていた。
「服従」という21世紀初頭に発行された政治学的フィクションに熱中していると、いつの間にか目の前には腰に手を当てて、踏ん反り返った姿勢の男子がいた。若干顔を斜めに向けて私を見下ろしてくる彼はどうやら私に用があるらしい。
「おい」だの「そこもと」だの雑音が聞こえていたがまさか自分の如き人間に話しかける物好きはいないだろうと断定し流していたのだが…。
「面倒くさそ…」
今は別の理由で存在ごと無視したくなってきた。
変な、昔ながらの爺様口調も勘に障るし顔つきからして明らかに私に敵意を持っていた。
「…」
他に分かることと言えば彼が私と同じ高校1年生ということ。
高校1年生のトレードマークである深紅の袍に紺地に金と銀の刺繍が施されたの綬に足元が紺色で縁取られている白袴。蓮のマークの帯がないことからどうやら彼は階級無しの生徒のようだ。
――所謂、雑魚キャラだ。
またの名を「いちゃもん付け系当て馬」とも呼ぶ。
「…(可哀想に)」
彼に抱いている憐れみを悟られないように、顔をキツく引き締めて相手の出方を待っていると、私が予想外にも噛み付いてこなかったからか、地団駄を踏みながら口を開いた。
「貴殿が黒羽弥佳紗か?」
「……(こういうテンプレキャラ、小説の中だけの話かと思ってた。実際に見ると憐れすぎて笑えない)」
「早く答えよ!!」
男子生徒が癇癪を起こし怒鳴る。
先程から踏んでいた地団駄が激しくなったことから相当キレているご様子の彼。
――あー、麿眉だー。
しかも目も線をピーッて一直線に描いたみたいに細いし。
全く関係のないところに目を向けるとこれが意外と面白い。
げ、今の言動は面白くない。むしろ態度も一々上からで、常に「自分が世界の中心」っていいたそうな顔ていて不快だ。
「そうです。何かご用ですか?」
「貴殿のような下賤な者が清蓮学園に入学したというだけでも耐え難いというのに、首席だと?!ふざけるでない!!どんな手を使うたのだ!?」
「……(こんな感じの怒鳴り込みは来ると思ってた。思ってたけどさ、雑魚過ぎ、馬鹿過ぎ、麿マユ過ぎ。お金も権力もない最下層の小娘1人風情が汚い手なんかどんなにあがいても使えっこないだろ。少しは考えろよバーカ)」
「答えられまいか?」
ロクな人語を喋らない予想はついているのだがあえて聞いた。そうしないとあとで「名誉毀損だ!」とか言い掛かり着けてきそうで怖い。この人ならやりかねない(見た目判断)。
――ほんと面倒くさい。
「ほら、見ろ。大当たりだ」
「…(なにがでしょうか?)」
鼻の穴を広げて怒ってくる紫髪の男子。
「鼻くそが穴の手前でピロピロしてるよ」だとか「まだ何も言ってないんですけど」だとか、彼には色々とツッコミたい所が有るが、言わないで億。いや、言えない。
私の至福の時間である読書タイムを邪魔されたからと言って、彼のメンタルをボロボロにするつもりはない。
「…」
故に己のポーカーフェイスの下に眠らせて対応。
経験上こういうタイプには反撃するだけ長引いて面倒だと知っている。流すに限る。
「……」
「何か言うたらどうだ?」
「……」
「無視しておるのか?」
「……」
「馬鹿にしよって!」
うわー、超絶面倒クサいのキタぁーー。
黙って罵声を聞いてても満足してくれないタイプ。
心の中で頭を抱える。
ただし、対外的に何も言わなければこの場合、状況は改善しないと見た。
てなわけで、ここはプランB――「(用件なんて無さそうだけど)さっさと用件を聞いてお帰りいただく」の御登場かな。
はー、面倒クサ。
「何のご用ですか?」
「なに?」
「私に何のご用がおありですか?」
「……」
「……どうされました?」
「……はっ!な、生意気な!我が名は大覚寺家の跡継ぎ、大覚寺政嗣郎なるぞ!さすがにディストリクト6出身のお前でも大覚寺の名くらいは知っておろう?」
+αドヤ顔。
――でたー。
こういうところまで予想を裏切らない彼の殿様っぷり。
用件を聞いてるのにドヤ顔付きで自慢を始めるとか。お家の威光を笠に着て威張り倒しちゃうとか。で、実の所は大したこと無いとか。
テンプレすぎてもはやギャグの域だ。
ぷーくす。
――大覚寺?
何か聞いたことあるかもだけど、大覚寺政嗣郎なんて名前、初耳だし。
そんな個人名、私が知ってるはずないし。
ここは正直に答えよう。
「いえ。存じ上げておりません」
「っ!何だと!大覚寺の名を知らないというのか?」
「はい、残念ながら存じ上げておりませんでした」
キッパリ「知りません」と言うと、大覚寺は顔を真っ赤にして口をパクパクして固まった。
水から揚げられた魚の様だ。
そんなにショックだったのか?
なんか逆に可哀想になってくる。
ここは傷が浅い内に黙って立ち去ってあげよう。
「……では、ご用が無い様なので失礼しますね」
「まっ、待て!」
漸く我に帰った大覚寺とやらが横を通りすぎようととた私の腕をガシリと掴んだ。
まだ終わってなかったのかよ。
そう思いつつも、腕を捕まれたまま立ち止まる。
「ま、まだ麿の話は終わっていない」
「4度程ご用をお伺いしましたが返答がございませんでしたので、私にご用はないのだと判断させていただきましたがまだ何か?」
いいかげん鬱陶しい。
苛立ちを滲ませて振り替えると大覚寺はビクリと震えて口を開いたまま再び固まった。
両者の顔を図書館の入り口にはめ込まれたステンドグラスから朝日が差し込み照らし出す。
片や無表情。
片や……ヘンテコな顔。
二人の視線が交わる。
そして、場の静けさに耐えかねた大覚寺が先に口を開いた。
「た、ただ麿は、お前のような下賤な者が清蓮学園に入るなど間違えだと教えてやろうと……、そ、そうだ!ま、麿がお前との勝負に勝ったら、お前はこの学園から去……『お断りします』」
「っ!話も聞けぬのか、貴様はっ!」
「貴方は私に『俺との勝負に負けたら清蓮学園から去れ』と仰りたかったのでしょう」
「そ、そうだ」
「ですからお断りしました」
「そ、それはお前が勝負に負けたらと言ったであろう。勝てばお前には関係ない話ぞ」
「その勝負は受ける必要が無いものなのでお断りいたします」
「……そ、そうか、お前は麿と勝負するのが、負けるのがコワいのだな?」
「はい。コワいです。なので不必要なリスクは避けようと思いまして」
「何っ!」
挑発すれば私が乗ってくるとでも思った?
――甘い。
己の挑発をいとも容易くかわされたせいか閉口し、手をこっちに出したり引っ込めたりを繰り返す目の前の彼。
この様子では暫く突っかかってこないだろう。
「……(あーあ、当分この図書館はダメだなー。今日はどこで時間つぶそう……)」
挙動不審な彼に背を向けて今度こそ私は図書館から出たのだった。
色々なフラグが立ってきました!
これから話が起承転結でいう「起→承」に移ります。乞うご期待。
p.s.
ここまではこの物語に必要な人物を登場させる、謂わば「フラグ立て」のようなものです。
多少読みづらいとは思いますが、温かく見守ってくださいませ。




