21 顔合わせ
遅くなりました。m(__)m
さあ! 朝がやって来た!
今日から待ちに待った野営訓練だ♪
スッキリとした目覚めと共に気分はアゲアゲ!
ミアンに着替えを手伝ってもらい、革鎧と細剣―――いつの間に新しい革鎧と細剣用意したんだろう?―――を装備して準備万端で玄関へ行くと、同じように武装したニール達が待機していた。
「おはようございます、レミー様。ご準備はよろしいですか?」
「おはよう、ニール。ええ。私なりの準備はきちんとしたわ」
「では、ご出発の前に少しご説明をいたします」
「説明?」
昨日の手紙に書かれてない事があったのかな?
「今回の野営訓練はレミー様の生存確率を高めるため、なるべくレミー様ご自身のお力で野営をして頂く事を目的にしております」
うん。魔の森で放置されても1週間は自力で生き残れと指令があった。
「しかし、いきなり自力でというのは危険すぎますので、段階を設けました。また、あまり領都外に出た事のないレミー様に、他の街や村、マルナ領内の地理を実際に見て勉強して頂くようにとも言われております」
え? 他の街にも行けるの?
「ですので、今回は回り道をしながら魔の森へ向かいます。もちろん道中は全て野営をして頂きます」
あ、うん……。お泊り観光とかは出来ない感じなのね……。
がっくり……。
「観光はまた今度行きましょう」
ニールに苦笑いをされました。
「日程は7日間を予定していますが、何があるか分かりませんので長くなるかもしれませんし短くなるかもしれません。ですが、レミー様が楽しみにしていらっしゃったのは皆が知っておりますので、しっかりとサポートはさせて頂きます」
ニールはそう言うと、後を振り向いて誰かを呼んだ。
前に出て来たのは、……え? 赤鬼?!
青鬼も?!
「私達臣下は、地理・領土の説明と緊急時の対応をいたします。こちらの冒険者の方々は、草原や森での過ごし方やサバイバル方法のサポート・伝授をして下さいます」
冒険者?!
この人達冒険者なの?!
マジで?!
って、じゃあ、冒険者に教えて貰えるの?!
やったぁ~♪
色々訊けるじゃん!
内心、小躍りして喜んでいると、赤鬼……もとい、赤髪短髪で小さな耳の上に角がある、がっちりした躰の人が口を開いた。
「初めまして。Aランクパーティー『イェネオミナス』のリーダーのトゥーンです。個人ランクはAです」
Aランクぅ?!
Aランクって達人級じゃないですか!
そんなすごい人が、10歳の野営訓練に付き合ってくれるの?!
首が痛くなるほど勢い良く見上げると、優しい瞳と会った。
ここは丁寧にご挨拶せねば。
「初めまして。バルフェ家長女、レミーナです。お手数をおかけすると思いますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いいたします」
邸宅に居るんだから貴族ってバレてるし、カテーシーをして私なりに最上級の挨拶を。
「レミーナ様……っと、レミーナ様と呼んでもよろしいですか?」
こら、ニール睨んじゃダメだよ。
「はい。レミーナと呼んで頂いて構いません」
よし。睨みが止まった。
……そんな『もっともったいぶって下さいよ!』って目で訴えてこないでよ、ニール。
「レミーナ様、頭を下げるなんて止してください。むしろレミーナ様の訓練にお供させて頂ける事が、我々にとって最高の栄誉なのですから」
「そうです! バルフェ家のお手伝いが出来ると聞いたら、そこらじゅうの人が集まって来ますから!」
トゥーンさんの後ろから、薄い金髪長髪で体がすらっとした耳が尖っている人―――エルフかな?―――が興奮して言ってきた。
「えっと……」
私としては、貴族らしくないかもしれないけど、命を預けるというかお世話になるからって理由と、将来への打算(冒険者になれた時に彼らは先輩なので)で挨拶したんだけど。
栄誉って何?
そこらじゅうの人が集まって来るってどういう事?
頭の中が疑問符でいっぱいになる。
「このようにレミーナ様はお優しく、分け隔て無く接して下さいますので、特に人物への警戒はして下さい。皆様の振る舞いについては、レミーナ様がお気になさらないのであれば我々は何も言う事はありませんが、行き過ぎる場合は忠告いたします」
「分かりました。人物には注意します。言動は……気を付けます」
ニールが会話に入ってきて、話題を変えてしまった。
ねえ、10歳の子の子守が栄誉って何さ?
考えてみるけどよく分かんない。
……うむむ……ああ、領主の娘だからか。うん、身分的に偉いな。納得。
「レミー様、初めは彼等に教わりながら野営をして下さい。野営に関して私達は口を挟む事はいたしません。彼等の方がプロだからです。そして、6日目は必ずレミー様お一人で野営を行って頂きます」
「え“?」
おいおい。最終日の前日って事は、魔の森で?!
かなりの無茶振りに唖然とするが、決めたのはニールじゃないな。こりゃ。
父か兄……いや、フィアルさんあたりかな……。
フィアルさんは父の弟ハキルさんの奥さんで、子供たちの魔法訓練とか武術訓練とかの指導をしてくれている人だ。
私も6歳から訓練を受けているが、これがまあ厳しかった。
初めての魔法訓練は、石の礫をみぞおちに受け、悶えている時に水攻めで溺れかけ、必死に水から離れた所で灼熱に照らされ、暑さから逃げようとした所に突風で転がされて一緒に訓練を受けていた子達とぶつかり合った。
マジで死ぬかと思った。
これは魔法がいかに危険かという事を体験させて、いたずらに使わないようにさせるためだったと後から聞いたが、子供相手になんてことをするんだ! とあの時は思ったよ。
確かに納得する理由だとは思うけど、あれホントに鬼畜過ぎる。
でも、あの体験をした事で、いかに魔法が危険なのか身を持って知ったし、周りの人の動きを見ておく事の大切さを実感した。
……隣の子と思いっきりぶつかって、でっかいタンコブできたもん。
そんな厳しいフィアルさんだからこそ、『訓練なら助けてもらえる。助けがあるならぶっ倒れるくらいの無茶をしろ』と、色々やらされたなぁ……。
……うん、今回のこれもフィアルさんの無茶振りな気がする。
「行程ですが、こちらで予め決めておりますのでご了承下さい」
死んだ魚の目になっているだろう私を見ても、サクサク話を進めていくニール。
でも、ニールもスーさん達も目の奥が心配そうに揺れていた。
ニール達は一人での野営は反対したのかも。
でも、うちの領はスパルタだからね~。
いきなり魔の森に放り込まれなかった事を感謝するべき? ……だね。
「では、トゥーンさん以外のメンバーの方、自己紹介をお願いします」
おっと。気持ちを切り替えましょう。
トゥーンさんの方に目を向けると、1人ずつ前に出てきて挨拶をしてくれた。
さっき興奮して会話に入ってきた人は、バーデンさん。エルフだって。
青鬼こと、青髪短髪のがっちりした躰でトゥーンさんと同じように角がある人がベーマーさん。トゥーンさんと2人、牛の獣人だそうだ。だから角があったんだ。
茶髪長髪髭もじゃで身長が低めのがっちり体形がアラスさん。予想道理のドワーフでした。
ランクは、バーデンさんがA、ベーマーさんがB、アラスさんがBとの事。
うわ~、こんな高ランクの冒険者に、本当に付き合ってもらっていいのかな。
そう考えている間に、トゥーンさんが口を開いた。
「街の外はいつ魔物に遭遇するか分かりません。ですから、パーティーを組む場合は、お互いの得物・魔法の確認が必要になります。しかし、信用が薄い相手に全てを言ってはいけません。隠し手の一つや二つは持っておいた方が身の安全に繋がります」
「私達の得物ですが、簡単に。トゥーンが大剣、ベーマーが盾と剣、アラスが盾と槌、私が弓と魔法です」
バーデンさんがパーティーメンバーの得物をサラッと言い、ニール達を見た。
それを受けて、ニール達が一人一人自分の得物を言っていく。
ニールは双剣。……あれ? 魔法は言わないの?
スーさんは魔法。……得意属性風って申告してるけど、水の方が得意だよね?
ジョンは剣。え? 大剣だよね?
エドワードは剣と火魔法。うん。正直だ。でも支援魔法も出来たよね?
アルバートは短剣と弓。こら。アンタ剣の実力者でしょうが。土魔法も使えたよね?
ウェルナは剣と土魔法。……水魔法の方が得意でしょうが。
それぞれ嘘の申告……一応扱えるから嘘ではないけど、本当の事を言わない臣下達に、若干呆れていると、最後にミアンが頭を下げて言った。
「あの! ごめんなさい! 私は戦闘が得意ではありません!」
「「「「は(え)?」」」」
『イェネオミナス』の4人が固まった。
ミアン、スッキリしたみたいな顔をしてるけど、戦闘能力ないのに魔の森に行くって自殺行為だよ?
確かに、戦闘は苦手だけど、まあ、逃げ足だけは誰よりも早いもんね、ミアンは。
生温い視線でミアンを見ると、ジト目を返された。
「あー……ミアンは気にしないでください。私達は私達で何とかしますので、『イェネオミナス』の皆さんはレミー様を一番に考えて下さい」
固まった4人が元に戻った。
ニール、ナイスフォロー。
「では、レミーナ様は?」
トゥーンさんに視線を向けられ、答えようと口を開きかけて、はたと思った。
魔法の事はどこまで言っていいの?
私、全属性だけど。
しかも、結界魔法や空間魔法とかの特殊魔法も普通に使えますが?
チロリとニールに視線を送ってみる。
ちょっと黒そうな笑みを返された。
うん。自分で考えて申告しろってか。
戦闘や野営の事を考えると、火や水が出せる方が便利だけど、私の荷物は全て『亜空間倉庫』の中だからね。
どうせバレるんだからコレ一択だね。
「私は細剣と空間魔法です」
「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」
言葉は同じだけど、ニール達とイェネオミナスの反応が違った。
ニール達は『それを言っちゃったんですか?』と吃驚顔。
イェネオミナスは、キョトンとした後に悲哀に満ちた視線をくれた。
なんでだ?
―――――その理由は後から知る事に。
読んで下さりありがとうございます。
そして、更新が飛んでしまってごめんなさい。m(__)m
詳しいことは活動報告に書いてありますので、そちらをご覧ください。
次回の更新は、大変申し訳ないのですが、はっきりと明言出来ません。
ですが、出来るだけ早く更新するように頑張ります。




