01 お外に出れない理由
大変お待たせいたしましたm(__)m
更新を再開いたします。
モンスタービート会議での『ゴアナ国条約違反暴露事件(笑)』から早5か月が経ちました。
法の整備や国境警備の強化、他国との貿易の調整等々、マルナ領上層部がてんてこ舞いだった一か月目。
その新しい法や貿易協定の周知の為に、商人や庶民が混乱した2か月目。
他国から商人を受け入れだし、その対応に警備隊や庶民が動揺した3か月目。
他国の民と交流する機会が増えて、お互いの習慣の違いに驚いた4か月目。
そして、我が領の取り込みに動き出した各国から色々なモノが入り込み始めた現在。
第一回目のゴアナ国の賠償金の支払いが行われ、うちの領は金持ちになりました。
そのお金は、今までのモンスタービート討伐報奨の補填として、全ての領民に支払われました。
どんな配分で配るのか揉めるかと思ったけど、そんな事はなかった。
どうやら、既に話し合っていたようで、すんなりと配分は決まった。
おかげで、懐が暖かくなった庶民は他国の商人が増えた市場や商店街で買い物を楽しみ、国交的優遇措置で税金が低くなった商人は沢山の仕入れをすることが出来、領民の雰囲気は楽しそうである。
ちょっと浮き足立ってる感じはするけど、活気があっていいと思うし、賑やかな商店街とか覗いてみたい!
そう思うのは当然の流れなんだけど、父には止められている。
他国の商人さんとかが入り乱れてて、ちょっと混乱中らしい。
商店の場所や規制の見直しとか、人で混雑してるとかあって、何か起こったりしたら危ないから少し待ちなさいと言われちゃった‥‥‥。
はぁ‥‥‥他国の食材とか、武器とか、道具とか、魔道具とか‥‥‥。
私も直に見たい!
野営の心得とか、剣術の練習とか、魔道具の作成とか、邸宅の敷地内ってどういう事―!
なぜ遊びに外へ出られないのー!
商店街とか商店街とか商店街とか……商店街に行きたーい!!
というわけで、今日は、スーさん・ニール・ジョンのお土産3人組は、情報収集のため街へ芝刈りに……じゃなかった、街に来ている他国の商人さんの事とか領民の様子を見に行ってもらった。
混乱中って、どういうこと? ってことで。
で、+4(幼馴染兼使用人)のエドワード(護衛)・アルバート(護衛)・ミアン(侍女)・ウェルナ(従者)が私のお守りで最近は一緒にいる。
エドワードは子爵家の次男で、身長205㎝のマッチョ。20才。
顔はフツメンで、父親がお父様の護衛をしている関係で私の護衛に選ばれた。
灰色の瞳で、赤黒色(さび色)の肩の長さの髪をいつもおさげにしている、真面目なお兄さん。
アルバートは狐の獣人で、身長185㎝の細マッチョ。19才。
垂れ目のフツメンで、元々警備隊に所属していたのを私の護衛に引っこ抜かれた。
茶色の瞳で、明るい茶色のフワフワなボブと緩い口調でチャラ男に見える、面白い事が好きなお兄さん。
ミアンは兎の獣人で、身長170㎝の能天気。17才。
つぶらな瞳で、見つめられると吸い込まれそうになる天然侍女。
薄い水色の瞳で、薄い緑色のストレートボブの天然お姉さん。
ウェルナは文官の子供で、身長175㎝。17才。
童顔だけど、努力は人の2倍も3倍もする努力家で、勤勉。
濃い茶色の瞳で、薄い水色の肩の長さの髪をおさげにしている、大人しいお兄さん。
そんな4人に苦笑いされながら対応される私っていったい……。
でも、まだ見ぬ魔道具や生活道具が目と鼻の先にあるのに……。
鬱々してると、ミアンが「これはどうでしょう?」って色々手を変え品を変え、私が退屈しない話題や内容にしてくれてるけどね……。
私は外に遊びに行きたいんだもん。
気を遣ってくれてるのは分かるから話には乗るけど、気分はあんまり変わらない。
そんな感じでポツリポツリと話をしながら、ギルドのお勉強をしてると、兄からお茶の誘いがあった。
もちろん、お茶しますとも!
私は暇だもの!
あれ?兄は時間があるの?
よくお客様が来てるみたいだけど……。
侍女のミアンが「お茶の準備をしてきます」っていそいそと部屋から出ていって、従者のウェルナが「準備をいたしましょう」って勉強道具を片付けてくれた。
私が散らかしていた目の前の机は、あらまあ綺麗スッキリになりました。
コンコン
「レミーナ、入るよ?」
丁度いいタイミングで兄も登場。
ドアから一直線に椅子に座っている私のところへきて、そのままぎゅうっとハグしてホッと息を吐いた兄。
王都から帰ってきた直後みたいにやつれている感じはしないけど、ちょっと疲れてる様子。領政もだいぶ落ち着いてきたって聞いてるけど、何かあったのかな?
「お兄様、大丈夫?」
「ああ、今大丈夫になった」
‥‥‥さいですか‥‥‥それはようございました。
まあ、何時ものことなので、+4も動じてないしいいけど、つい呆れた視線を兄に向けてしまった。
何時もより短めにハグを終えると、兄は向かいの席にドスンと座った。
「はあ、ホントに面倒臭い」
「お兄様、マナーが悪いですわ」
「ごめんごめん」
悪いと一つも思って無さそうに笑顔で軽く兄は返してきた。
そんなに疲れてるの? と思っていたら、私たちの会話の間にミアンが淹れてくれたお茶を一口飲んで、兄はまたホッと息を吐いた。
緩んだ兄の顔を見て、ミアンの耳がピクピクと動く。
……ミアンの耳は感情が良く出るよね。もしゃもしゃしてもいいかな?
「いやー、他国の貴族からの面会や夜会の申込がねー。ほんっとに面倒臭いんだよね」
「え? そうなんですか?」
「まあ、レミーは未成年だから直接手紙は来ないだろうけど、家にはレミーの分も来てるよ?」
衝・撃・的・新・事・実!
そんなこと誰も教えてくれなかった!
目を丸くして驚いてると、兄の表情が冷たい目をして口元を歪め、ニヒルな笑みに変わった。
……兄よ怖いです。
「もうさ、僕に奥さんが居ないからすごいんだ。元々、留学してたときから誘いや申込はあったんだけどね。その時の5倍以上は来てるんだ。ほら、今マルナ領地は『国』の扱いだから次期王妃になれるって感じで。モンスタービート会議で僕が発言したものだから、各国に存在が知られて調べられたみたいなんだよね」
「そ……そうなんですか」
「でね、僕は年齢的に仕方ないとしても、レミーにも送って来るって……ねぇ?」
いやいや、その黒いオーラをしまって! しまって! すんごい溢れてる!
そんな冷たい目で同意を求められても、こえぇよ。
ほら、+4が怯えてる!
「レミーが未成年って解ってて申込んで来るって……どういう魂胆があるんだろうねぇ?」
ああああ兄からブリザードが吹き荒れてる……。
どどどどどどどんな内容だったんだろう……。
「まあ、レミーのはバッサリ断ってるんだけどね。マルナ・アルナ両領地のしきたりを出せば、向こうは何も言えないからね。ただ……」
ブリザードが弱まって、ちょっと困った顔になった兄。
「ただ?」
「うん……。父や僕も忙しいからって、今は蹴ってるんだけどね。期間が長過ぎると領政が上手くいってないんじゃないかって勘繰られるから、目処がついたら結局受けないといけないんだ」
「まあ……、そうですね」
「でね、国王を他国の貴族が招待するって無理があるでしょう? だから、代わりに僕やレミーにみんな打診するんだ」
「……でも、それってアリなんでしょうか?」
うーん。ちょっと置き換えてみると、他国の王子や王女を一貴族が招待するってこと?
無理がない? 貴族が何かやらかしたら外交問題だよね?
はっ! 自分を王女なんて、痛い! せいぜい重要人物がいいところよね!
でも、国王が許可を出せばイケる……?
うんうん悩んでると、兄が“ああもう、この子はなんて賢いんだ!”とキラキラした目で私を見ながら教えてくれた。
(……兄よ、キラキラで目がつぶれそう……)
「そうなんだ。普通は下の位の者から声を掛けるのは失礼になるだろう? だから、もしかして僕やレミーナの立場は、そのまま辺境伯爵の子息子女じゃないかと思うんだ。父上は国王と同じような扱いを受けているけど、次に起こるモンスタービート後には結局何処かの国の一部としてやっていくなら、代表者―――この場合は父上だね―――以外は今までと同じ扱いじゃないのかなってね」
「成る程」
「一応父上に聞いてみたら、国によるって返答が返ってきた。そのまま属国にならずに『特別独立領地』としてやっていくと予想・希望している国は、僕らを王子王女の扱いにしてて、属国になるって予想・希望している国は、辺境伯爵の子息子女の扱いにしているんじゃないかって」
「ん? では、招待状を個人で送って来る方々は要注意ってことですか?」
権力にものを言わせてそのまま属国にもっていくってこと?
「ん~、一概に言えないところなんだよね……」
兄曰く、仲良くなっておきたいとか、自国の良さをアピールしたいとか、で招待状を送って来ている人もいるだろうって。
ただし、私が思ったように、今のうちに取り込んで自国の属国にしようと企んでいることは何処も思っているはずで、それが好意的なのか威圧的なのかは今のところ解らないのだ。
ただここで、辺境伯爵子息子女宛に招待状を送ってきている人は、侯爵以上だとわかった。確かに、上位貴族からの誘いになるから、失礼にはならない。
けど、どういった理由なんだろう?
兄は、嫁候補として見てくれっていう誘いなのはわかるけど、私は?
「でね、レミーは今聞いてどう思った?」
ビューティフルフェイスを傾けて尋ねてくる兄。
うん、こりゃあ色々寄ってくるよね。美男子・金持ち・権力者の兄は、超優良物件だわ。性格は……まあ、目を瞑ればいいとし……いいのか?!
ちょっぴり目を見開いて動きの止まった私に、何かを察したのか兄がニッコリと笑った。
いわゆる、威圧のこもった微笑み……黒いよ! 兄!
「ん? どうしたの?」
はうっ! ばっバレてないよね?
「えっと、えっとね、お父様とお兄様にお任せする。私では判断しにくいし、思惑が何であれ、招待状を送って来る行為は当たり前かと思います。特に、お兄様はお年頃ですし、しょうがないとしか……」
「うん、まあ、そうだろうね」
「それに、お誘いってある意味マルナ領地にとってもチャンスだと思います。うちの領地を知ってもらえますし、アピールもできます。属国に……と思っている国と良い関係が築けるか探ることも出来ますよね?」
「ああ、レミーはよく考えてるね」
「でも、私へのお誘いは……」
「うん?」
「お兄様へのお誘いが、友好的関係性構築や嫁候補、マルナ領の取り込みということは解りますが、私へのお誘いが良く解りません。今のうちに嫁に予約ということでしょうか?」
10歳の幼女を婚約者にというのは、貴族社会なら当たり前なので解る。
その年なら婚約者が居てもおかしくないからね。
要は、バルフェ家と繋がりを持ちたいっていうこと?
しきたりで無理だと知ってるからこそ、顔合わせをしてアピールということなのかな?
んで、後々嫁に来て欲しいって感じかな?
“嫁に来てくれればバルフェ家と親戚、やったー”ってこと?
でも、5年後のモンスタービートで死んじゃうかも知れないのに、今から?
んー、他の理由があるのかな?
「そう、そこなんだよね」
兄は目をギラギラさせて何故か好戦的。
「僕らの可愛いレミーを嫁に貰おうなんて百年早いと思うんだ」
えっ?そこ?
「もしかしたら、僕や父上がレミーを溺愛してる事を知って、レミーを先に落とそうとしてるのかもしれない。レミーが人質に取られたら、僕も父上も手が出せないしね」
ああ、それはあり得る。結構威力のある脅迫材料ですもんね、私。
うんうんと納得してると、一段と低い声で兄が言った。
「あとは、レミーが魔道具を作っているって知って、利用したいのかもしれない」
……なんって面倒な!
そう言われると、私も優良物件だわ。辺境伯爵令嬢だから家柄は良いし、父や兄と仲が良いから頼み事もできるし、魔道具で稼ぎも良いし……はぁ……マジ面倒……。
目に見えて萎れていく私の様子に、兄は苦笑いをして頭をヨシヨシしてくれた。
「レミーも、狙われてるんだよ。僕と同じようにね。ただ、レミーの場合は養女にしたり、共同開発者になったりして、儲けを自分のものにようとしている意味合いも含まれてくるんだ」
まあ、10才の幼女なんて、普通口で丸め込めるもんね。幼女を働かせて、稼ぎは自分にガッポリって。確かに、旨みがたっぷりだよねぇ……。
「最近、魔道具に対する問い合わせが、商人ギルドに沢山あるらしいんだ。そこから開発者が割れているかもしれない可能性があるんだよね……」
制止がかからないことに気を良くした兄は、デレデレの顔をして私の頭を撫でる。
落ち込んでいる私を元気付けようとしてくれているんだろうけど、顔がっ! 締まりがないよ!
「では、外に遊びに出られないのは誘拐を警戒してですか?」
「うん」
「え~! お兄様、ちょっとだけ! ちょっとだけだから、行きたいの!」
必殺上目遣い! アーンド、ウルウル目!
どうだ!
「………………レミーからぎゅうってしてくれる?」
滅多にない私のおねだりに、兄堕ちた♪
「お兄様、だいすき~♪」
と、両手を広げた兄に突進した。
感激のあまり、腕に力を入れ過ぎた兄に背骨を折られそうになったけど、デレッデレの顔をした兄が、手配すると約束してくれた。
取りあえず、領都の見物だー!!
読んで下さりありがとうございます(* ̄∇ ̄*)
お待ちくださった方々、本当にありがとうございますm(__)m
執筆停滞などに色々と思い悩みましたが、楽しく書いていこうという気持ちになり、何とか更新の目処が立ちました。
お待たせして、本当にすみませんでした。
また、有り難いことに、今月22日に書籍化されます。
よろしかったら、お手にとっていただけると嬉しいです。
作品の削除はありませんが、見直した第二章は新しいものになっております。
以前の話をベースにしていますので同じような話もあるかと思いますが、ご了承下さい。
初めましての方も応援してくださっている方も、これからもどうぞよろしくお願いいたします




