乳幼児期 3
五才時、ちょっと続きます
五才時―――――――
いつもと同じように、兄や母に構われながら歴史の勉強や魔道具の開発、頑張りました。
そして、音声レコーダーができちゃいました。母と兄よ、そんなに欲しかったか・・・
キャッキャッしながら音声レコーダーの性能を語り合っている兄と母を横目に、黙々と歴史書を読んでいると、バタバタと屋敷の中を走り回る音が。
いつも冷静で、キビキビと働いている屋敷の人達にしては珍しい行動でした。
母もそれに気付き、様子を見に部屋を出て行きましたが、夕食まで顔を合わせることはありませんでした。
「『魔の森』の魔物暴走の前触れが起こっている」
夕食時に厳しい顔をした父が、重たく口を開きました。この大陸でなぜか定期的に起こるモンスタービート。しかも、スパンが8~15年置き。前回はちょうど10年前に起こったらしい。
これまでの傾向から対策を練っているが、絶対大丈夫という保証はどこにもない。すでに王都への連絡の手配は済んでいるが、援軍が間に合わない場合もあるとのこと。
次の日から、領民にもすぐに警戒体制を宣言し、一気に領内は物々しい雰囲気に。隣の他領地とも協力し合ってモンスタービートに備える準備が始まった。
「レミーナは、領民の子供たちを要塞へ連れて行って、彼らを守るのが仕事だ」
「そうよ。一人も怪我のないように、外へ出ていかないように、まとめあげるのよ」
父と母は、沈んだ顔をした私に発破をかけるが、父母兄は討伐に参加するのだ。幼いから、討伐組について行けないことは十分理解しているが、気分は晴れない。
とにかく、考えるよりも体を動かすことに集中し、準備を手伝った。
―――――そして、2か月後モンスタービート発生―――――
見たことのない数の魔物が『魔の森』から放射されるように国内に向かって走り出す。迎え撃つ討伐隊の決意を表す怒号と 魔獣達の悲鳴にも似た鳴き声で、他の音が聞こえない。
恐怖でガタガタと体が震える。この建物の中には入ってこないと理解しているにもかかわらず。周りの子供たちも同じように震えながら、泣いて身を寄せ合っていた。私はみんなを守る立場だから泣くんじゃないと自分を叱咤し、涙を流すのは耐えた。
何時間経ったのかはわからないが、剣を弾く音や爆発音、落下音、魔獣の鳴き声が少なくなってきた。周りの子供たちもそれに気付き、ソワソワしだした。
「まだ魔獣がいるから、出ちゃダメだよ」
扉の前に立って外への道を塞ぎ、優しく聞こえるように細心の注意をはらい、困ったような怯えたような表情で、子供たちが外へ出ないように説得した。今、私に出来ることはこれだけだった。
それから1日後、要塞にノック音が響いた。
終わったのだ。
そして、扉から見えたのは、涙を流す父だった。
モンスタービートが終わっても、なに一つ嬉しそうじゃない、むしろ、哀しみ涙する父を見て、目の前が真っ暗になった。そして、胸によぎる嫌な予感。
誰か死んだの?母?兄?
戦ったあとには、敗者の亡骸、怪我、領地の整備など、対処しなくてはならないことがたくさんある。しかも、この死闘の傷あとが残るこの地で、領民は生活していかなくてはいけない。
怪我で動けなくなった人達はどうやって生活するの?
両親が亡くなった子供たちはどうやって生活していくの?
家が無くなった人はどこに住むの?
まだ、何も終わっていない。
むしろ、スタートなんだ。次のモンスタービートへの・・・