王城 2
読んで頂きありがとうございますm(__)m
いつもより長くなっています。
父の視点です。
王城で一番広い部屋である「祭場の間」にゴアナ国中の貴族が呼び集められた。
壇上には、ゴアナ国の上層部とモンスタービート会議参加国の代表者達が並び、「祭場の間」全体の壁際には各国の調査団やその護衛という名目の騎士が立ち並んでいる。
集められたゴアナ国の貴族たちは、それぞれの派閥で固まり情報交換を行っているようで、ざわついている。
壇上にいる我々に怒りの眼差しを向ける者。
一見穏やかに見えるが、目の奥に欲望を滲ませている者。
顔面を蒼白にし、絶望に囚われている者。
事態を静観し、覚悟を決めた眼差しを向ける者。
キョロキョロと周囲を見回し縮こまっている者。
この状況を正しく理解できている者がどれだけいることだろうな‥‥‥
呆れるばかりだ‥‥‥
つい、顔に呆れが出そうになり、気を引き締めて壇下を見下ろす。
この発表の場では、私は発言をしない。
各国の皆様が気を遣って下さったのだ。
怒りの矛先が少しでもマルナ領地から逸れるように。
本当に有り難いことだ‥‥‥
ゴアナ国からされた対応と皆様にして頂いている対応の差に、ため息が出る。
そんな私の姿を横目に、壇上の中心からある方が一歩前へ出て、皆の視線を集め、発表の場を開会する。
「お集まりの皆様。お忙しい中ご足労頂き、感謝と略式ではあるが、ご挨拶申し上げる。
我らはモンスタービート会議参加国の者じゃ。此度の緊急召集は、我らが申請した。」
ホザ王国の代表者であるモルト侯爵が、会議に続き進行役としてこの場を仕切る。
白い髭を蓄えたおっとりとした爺に見えるが、ホザ王国では武闘派で有名な方だ。
内政干渉だと騒ぎだす貴族がいるが、壇上にいる我らから侮蔑の目線を一斉に浴びると直ぐに黙る。
「先だって行ったモンスタービート会議で、重大な条約違反が発覚した。」
集められた貴族たちの中で、下位で国政に通じていない者や領地から出てこない者たちから、驚愕の声が上がる。
その声に負けない気迫のある低い音でモルト侯爵は続ける。
「詳細は省くが、処罰対象は『ゴアナ国』そのものじゃ。
そのため、ゴアナ国の存続が危うい。
南側の大国の1つであるゴアナ国を無くせば、周辺国にも影響が出るじゃろう。
我らとて大国を潰して大陸中に混乱を招く事態は避けたい。
よって、我ら会議参加国は条約違反に関わっている者のみに相応の処分を下し、この国を背負う皆様に誓約をして頂く。」
祭場の間は一瞬にして重たい雰囲気に包まれ、ざわめきが増す。
議会で決定したことは、「自国で勝手にやってくれ」だ。
こちらもある程度の慈悲として待ってはいたが、罪の擦り付け合いやなかなか決まらない次期国王に、各国ともサジを投げた。
我らとて、王妃一派を中心とした国作りをしてもらいたい。
しかし、表だって手を貸せば政治的干渉になる。
今回の処罰が実行されれば、自ずと王妃一派の力が強くなるだろう。
それまでは国内がゴタゴタするだろうが、自国内の勢力だけでのし上がらねば後々国の維持に響くと 各国とも考えたのだ。
何よりも、国の混乱により難民が移動してきたり救済を求めてきたりする事の方が面倒だと、各国とも暗に思っている。
ゴアナ国内の『常識』が他国では通用しない現状の中で、自分達の国に入国されれば、ゴアナ国民と自国民とで争いが起こる。
王城や各領地から上がってくる調査報告から、ラハト帝国・ホザ王国・イラルド国王の3大国は、領土拡大や優秀な人材確保で動く様子もなく、ゴアナ国に関わりたくない態度をとっている。
ゴアナ国を取り込む事を考えた小国もあったが、こんなプライドの塊を取り込めばゴアナ派閥が出来、上手くいかないと判断したようで、こちらも動く気配は無くなった。
つまり、旨味がないのでチョッカイ掛けないし手出しもしないが、好んで助けもしないということだ。
他国の思惑が見え隠れしているが、私は「新たなゴアナ国」が出来るまで静観し、その「新たなゴアナ国」と国交契約をする態勢を取ることにした。
壇上では、モルト侯爵がゴアナ国貴族たちの名を呼び、立ち位置の並べ替えを指示している。
モンスタービート討伐に参加している領地としていない領地に、まず分けられる。
そこから、今回の会議に参加したかどうかでまた分ける。
「まず、モンスタービート条約に挙げられている支援及び対価について、全領地に相応の額の罰金が課せられる。
そして、――――――――――」
会議では処罰の軽重をどうやってつけるのか、また、混乱に乗じて負債を支払わない可能性を鑑みて、どうやって負債を支払わせるかが一番の議題となった。
そこで、討伐参加を基準にし、今回の会議への参加不参加で区切ることにした。
モンスタービートから領地を守ってもらっているとして、全領地に200年分の対価を領地の大きさにより換算。
そこに、討伐不参加の領地は、不参加の年数だけ罰金を上乗せ。
ここまでは、マルナ領地から提出された資料も参考に出来たので、話は早かった。
そして、モンスタービート会議参加者には、全員同額の罰金を上乗せ。
これで、負債の 1/3は確保が出来た。
いや、まだ1/3‥‥‥
先は長い‥‥‥
遠い目をしていると、
「そのような金額は払えません!」
「なぜ我らがこのような罰金を払わなくてはいけないのですか!」
と、顔を真っ青にして叫ぶ者や不満をあらわにする者の声がそこかしこで上がる。
壇上の右端にいたイラルド国代表者が、発言を抑えようと前に出る。
バァーン
大きな音をさせて手を打ち、怒りの形相を貴族たちに向ける。
「発言されている方々のうち、モンスタービート討伐に出向かれたことがある方はいますか?
それは毎回ですか?」
貴族たちは途端に黙りこむ。
「モンスタービート討伐 並びに 定期的な魔物討伐は、大陸中の国々の存続に関わります。
そのため、200年前にモンスタービート条約が締結されました。
その条約を自分達の都合の良いように歪曲し、安全な場所で高みの見物をして、恩人に苦労を押し付け、恩人が受けるはずの200年分の恩恵を掠め取っているあなた方に、罪がないとでも言うのですか?」
「それらは余りに罪深い行為じゃ。しかも、それを罪とも思っとらん。
じゃからこそ、我ら会議参加国はそなたらに自覚を促すためにも、各領地、各貴族に罰金を申しておる。ゴアナ国以外では有り得ん事態じゃからの。」
怒りの形相と侮蔑の鋭い視線を受け、顔を真っ青にしていく貴族たち。
静まったところでイラルド国の代表者はもとの位置に戻った。
それを横目で確認し、モルト侯爵は続ける。
「そして、会議での有り得ない返答を決定したこの壇上にいる上層部は、財産のすべてを罰金とする。国王は私財にあたるものすべてじゃ。」
広間の貴族たちが一斉に壇上の上層部に顔を向ける。
顔面蒼白で立っている上層部の隣には、各々 他国の調査員もしくは護衛騎士が立っている。
その言われるがままの上層部に、事情を知らない貴族達は呆然としている。
「何故なのか」「どうしてなのか」「どういうことなのか」と疑問を口にしている。
確かに、会議に参加していなければ、訳が解らないだろうな。
貴族達の方へ、モルト侯爵から威圧感が溢れだした。
「我ら会議参加国はマルナ領地の扱いに大変怒りを覚えておる。
モンスタービート条約の正式名称は『モンスタービート及び「アマルナ国」についての契約』と言うがそなたらは知っておるかの?
マルナ領地とアルナ領地の扱いについて、各国で契約しておるのじゃ。
それを独断でゴアナ国のみが破っておる。このような国政を執った上層部の責任は重い。
此度のモンスタービート会議で罪が明らかになった各貴族の爵位の降格及び剥奪は、ゴアナ国で決めてもらい、今後の覚悟を問うこととする。」
壇上にいる上層部は没落確定。しかも、爵位の降格もしくは剥奪つきで。
自分達が成り代わると目に力が戻っていく貴族が点々といる。
「それから、この契約には国交的優遇措置なども関係しておる。
とくに、輸出入などの関税などじゃ。
よって、ゴアナ国内の登録商人すべてに監査を入れ、輸出入に関係している年数や、商店の規模で罰金を徴収する。」
驚愕の声でまた騒がしくなる。
貴族の中には商売で財産を築いている者もいるからだろう。
「すでに宝物庫半分と特務団の装備品が負債にあてられておるが、そなたらの罰金を合わせても、負債金額の半分ほどにしか到達せぬであろう。
残りの負債は、これから1年間で4回に分けて国から支払われることが決定しておる。」
期限つきの国の負債や負債額面の大きさに、ざわめきが起こる。
「それから、此度のゴアナ国の条約違反発覚により、マルナ領地は『暫定的独立領地』となり、条約締結国を後見に『一独立国』として扱われる事が決定しておる。
そして、次回モンスタービート後までのゴアナ国の対応により、身の振り方が決定されることとなっておるので、注意するようにの。」
領地の独立という、今までに無い事に貴族たちから視線が飛んでくる。
罰金がマルナ領地のせいであると睨んでくる者や助けてもらおうと媚びてくる者など、様々だ。
(―――――煩わしい‥‥‥)
眉間にシワを寄せないよう気を付けていると、目に力がこもった無表情になってしまった。
「他、言いたいことは多々あるが『国』に言わねばならぬことじゃて、割愛いたす。
我ら会議参加国は、罰金徴収 並びに 処罰を見届けねばならぬ。
それに、新たな『国王』と国交契約を確認せねばならぬため、このまま王城に滞在させていただく。」
壇上からそれぞれの貴族の顔を見渡した後、モルト侯爵は後ろに下がり、代わりにラハト帝国の代表者が前へ出る。
「我はラハト帝国の代表者で、罰金徴収の責任者だ。
ホザ王国の代表者が上げた罰金の他に、国の役職に就いている方々にも、給金に応じて罰金をお支払頂く。
各領地別の罰金資料、並びに、個人の罰金資料を作成してあるので、これからお渡しする。」
ラハト帝国の調査団員4人が、資料を沢山持って代表者の横に並ぶ。
罰金の追加に貴族たちの目の色も顔色も、様々に変化していく。
「注意事項を先に説明いたす。
1つ、ゴアナ国籍の者は此度の負債を全額返済するまで、議会が認証する許可証無く他国に出国することを禁ずる。
これに違反した場合、命の保証は約束できぬ。
2つ、個人の罰金支払いは今日より1週間後とする。
これに違反した場合、強制徴収 並びに 拘束後、処罰追加とする。
3つ、領地の罰金支払いは、今日より1ヶ月後とする。
これに違反した場合、全財産強制徴収 並びに 領主一家拘束後、処罰追加とする。
4つ、上層部の罰金支払いは即刻行い、国内処罰決定まで拘束とする。
これに違反した場合、一族全員拘束後、処罰追加とする。
5つ、商人の罰金は今日より1週間を監査期間とし、支払いを1週間後から1ヶ月以内とする。
これに違反した場合、強制徴収 並びに 拘束後、処罰追加とする。
以上の5つだ。
最後に、この場で発表されたことは、ゴアナ国内はもちろんだが、モンスタービート条約締結国 並びに 周辺の中小国に報告いたす。」
逃げ道の無い状況にいきり立つ者が出始めた。
「祭場の間」から退室しようとする者や壇上に向かってくる者は、各国の護衛騎士達に押さえられる。
それを見て、幾つかの小集団になり相談を始める他の者達。
収拾がつかなくなりそうな雰囲気になりかけた時、ラハト帝国の代表者がキレのある声で号令をかけた。
「総員、構え!抵抗する者は捕らえてよい!」
壁際に立ち並んでいた調査員達と護衛騎士達が手に魔道具を構える。
扉や壇上に向かっていた者達は近くの護衛騎士によって、声を上げる間もなく次々に床に沈められていく。
それを見た者達は後退りし、もとの場所に戻り始めた。
ざわつきはあるものの、恐怖と怯えでおとなしくなった面々に冷たい眼差しを向けるラハト帝国の代表。
「我ら会議参加国は、身体的刑罰ではなく、罰金を処罰としておる。
客観的に申し上げて、軽すぎる処分だ。
処罰対象が『国』であるため、このような軽い処罰になっておるが、抵抗するなら容赦はせぬ。」
そう言い放ち、罰金資料を貴族たちに渡していく。
その際、同じ内容が書かれている誓約書に血を1滴垂らさせる。
これは、血を垂らした者の居場所を示す魔道具でもあるのだ。
会議参加国の本気が垣間見える。
各領地、各個人に資料を渡し誓約書を結ばせた後、給金からの罰金資料は 拘束される上層部を除いた各部署のトップにまとめて渡していた。
商人の罰金資料は、この後調査員達が一斉に商業ギルドに向かい会議で決定された換算式を用いて作成される。
「罰金支払い場所は、この広間とする。
また、我ら会議参加国の待機場所は、移動魔方陣近くの部屋とする。
移動魔方陣はゴアナ国の物であるが、負債を全額返済するまでは管理を会議参加国が行う。
以上だ。」
終始冷たい眼差しをゴアナ国側に向け、表情をピクリともさせなかったラハト帝国の代表。
この場での役目を終えたとばかりに、サッと壇上の後方に下がった。
そして、再度ホザ王国の代表であるモルト侯爵が前に出る。
手に通話機魔道具を持って。
「では、この場を終らせるにあたり、モンスタービート条約締結国から各地に宣言いたす。
此度のモンスタービート会議において、ゴアナ国の条約違反が発覚した。
それにより、マルナ領地は『暫定的独立領地』となったため、国と同じ扱いとする。
また、ゴアナ国には条約違反により、多額の負債が発生した。
これにより、財産の流出を防ぐため、無許可でのゴアナ国籍者の出国を禁ずる。
無許可の出国の場合、命の保証は無い。
そして、負債返済のため条約違反に関係している者達に罰金を科せる。
その罰金を期限迄に支払わなければ、強制徴収 及び拘束後、処罰追加とする。
以上が、モンスタービート会議で決定された。
ゴアナ国の信用が回復するか、負債を全額返済するまで、モンスタービート会議参加国は実行及び見届けをする。
以上じゃ。」
まさかの各地への宣言に、貴族から罵声が飛ぶ。
「領税を取り立てるのに抵抗される」「各地で反乱が起こる」と。
その騒ぐ様子を、壇上の各国代表や 壁際の調査員・護衛騎士達は 侮蔑の眼差しで見つめる。
「それぐらいのことをお前らはしてるのに、解らないのか」と。
冷気と威圧に気付いた者から段々と口を閉ざし、数分で広間に静寂が戻る。
「では、処罰発表を終わりとする。」
モルト侯爵の言葉を合図に、「祭場の間」の扉が開かれた。
懇意にしている貴族の方々を探して目線を動かす。
私なりの彼らへのエールに気付かれているだろうか。
通話機魔道具まで使って国内に現状を広めたのは、彼等なら市井を味方につけられると踏んだからだ。
我先にと扉から退室しようとする者達のなかで、こちらをじっと見つめる視線を幾つか見つけた。
(―――――後はあなた方の腕次第ですよ)
5秒程視線を合わせた後、相手は背を向け退室していく。
一時間後に最終話をまたアップします。
その後は、小話などを挟んで、第二部的な話を書きたいと思っています。
話の終着点を見失って迷走してしまい、「関係無い内容」「繰返しの内容」「説明文」など、メリハリがない話になってしまってすみませんm(__)m
強引かもしれませんが、何とか作者の中で終着点が見つかったので、ダッシュで到着しようと思います。




