兄の闘い 3
1時間後続けて投稿します
写映機に新しい写真機をセットし、金額の変動がわかる折れ線グラフ資料を映した。
領地に対する経緯として、
・復興支援金を減らされていること
・給金を減らされていること
・領税優遇を撤廃されていること
・討伐部隊の前衛を領民にさせること
などを説明し、写映機の操作をして 領地別討伐隊数の折れ線グラフ資料を映し、
他領地からの対応・認識として、
・近隣の領地以外は討伐部隊を派遣しないこと
・遠方の領地になるにつれ、モンスタービートを軽んじていること
などの説明をした。
耳が痛くなりそうな静寂の中で、僕は怒りをあらわに壮絶な笑みを浮かべながら、手を握りしめた。説明の最中、イラルド国王の左手が僕と同じように握りしめられているのがチラリと見えた。各国の代表者たちは怒りを通り越して無表情になり、目だけがギラギラとしていた。
「以上が、我がマルナ領の現状です。これに対して、ゴアナ国は先程質問にお答えになった国王様や宰相様、公爵様の様子から解るように、ご自分達のなさっていることが理解できていないようなのです。ですから、各国の皆様から智恵をお借りし、対策を立てていただきたいのです。」
1番始めに映した条約の写真に戻し、刺すような視線を国王・宰相に向け、説明を続ける。
「200年前に結ばれた通称モンスタービート条約は、大規模なモンスタービートにより、壊滅的な打撃を受けた『アマルナ国』に周辺国が恩を返すために、そして、今後大規模モンスタービートが発生しないように対策を立てるために結ばれた契約です。」
「契約当初までの約1700年間、南の『魔の森』で発生するモンスタービートから、イラルド国やゴアナ国、その周辺国に位置した国々は『アマルナ国』に守ってもらっていたのです。」
「大国のイラルド国とゴアナ国を中心にその周辺国が恩を返しやすい環境を整えるために、条約会議で議論され、結果、『アルナ領』『マルナ領』に分けて大国の領地とみなすことになりました。そして、治外法権をもたせることで、『国』と同じ扱いをするように釘も刺されています。」
憤怒で言葉が震えそうになるのを抑え、怒鳴り散らすような声量にならないように調整し、荒くなりそうな息遣いを整え、ゆっくりと言葉を発し、文章が長くなりそうな時には一呼吸してから続きを話した。
僕がしゃべるたび、各国の代表者たちは重く頷かれていた。
さあ、仕上げだ。声に抑揚をつけ、1番言いたいことを効果的に伝えなければ。
「条約に挙げられていた具体的な内容として、モンスタービートへの支援、モンスタービート後の復興支援、アルナ領地・マルナ領への治外法権の許可等がありますが・・・」
一端言葉を切り、挑むようにゴアナ国側の人間を見回し、冷笑と侮蔑が入り交じった表情を浮かべ、きつい口調で続けた。
「ゴアナ国の方々へお聞きします。あなた方の恩とは、恩人の手助けもせず、恩人にモンスタービートの処理を押し付け、恩人を犠牲にして生活していることを当たり前とし、感謝の気持ちも態度も言葉も行動もない事ですか?」
言ってやった!!これまで先祖達が言ってやりたかったことだろう。父を見ると、晴れやかに笑っていた。目線は冷たくゴアナ国王に向けられ、穴が開きそうだったが。
ゴアナ国側の人間は誰1人として身動きもせず、下を向いたまま言葉を発しようとしなかった。
「皆さん、お答えにならないんですか?」
冷ややかな声で、イラルド国王が発言を促した。口を動かそうとするものの、言葉に出来ないのか、ゴアナ国王も宰相も言葉を口にすることはなかった。
「なぜ、契約があると思われているのですか?」
イラルド国王がゴアナ国側に続けて質問を始めた。言いたいことを言えたスッキリ感から、僕はその様子を傍観者のように、第3者目線で落ち着いて見ることができた。
「マルナ領地やアルナ領地がそれまでと同じように機能しなければ、結局イラルド国・ゴアナ国・周辺国にモンスタービートの被害が広がり、果てはモンスタービートの仕組みによって北側の国々にも影響が出るからです。」
「そうですね。条約に参加した北側の国々はアルナ領地・マルナ領地を手厚く支援するように求めています。その対価として 我がラハト帝国は、イラルド国・ゴアナ国には、ある程度の国交的優遇措置をしているはずですが、まさか、ゴアナ国ではマルナ領地に還元されていないとは・・・」
イラルド国王に賛同するように、ラハト帝国の代表者が見下すように呆れた声で言った。ゴアナ国側は、青ざめている者・眉をしかめて考えている者・イライラしている者など烏合の集団になり、何を言われても言葉を返せない状態になった。




