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新しい住人が増えるらしいですよ。

 勇者襲来から数年後のことである。


 『死者の国』の少女は相変わらず『死者の国』でのんびりと暮らしていた。

 その姿は勇者襲来時と全く変わっていない。

 これは推測でしかないが、おそらく少女は老化さえも他人に押し付けているのだと思われる。

 人に自身の死をすべて押し付けることによる疑似的な不死者。少女はまさにそんな状態であった。

 しかしこの老化の押し付けに関しては少女はどうにかして自分の力をある程度制御し、できる限り広域に広がるようにした。もしも世界中の人間が均等に少女の老化を肩代わりするとなれば、一人あたりの肩代わりする時間はほんの数瞬である。正直世界の人には悪いなと思うが、これなら誤差の範囲といえるはずと本人なりの一応の納得をするようにした。

また少女は、この調子で自分の力を完全に制御できるようになり、いつか人ともう一度お話しできたりしたらいいのになと夢想したりしていた。


 さて、この数年間にいろんなことが起こったわけだが、中でも1番大きなニュースと言えば、スケルトンのメアリさんに旦那さん(スケルトン)ができたこと!……ではなく『勇者』によって『魔王』が倒されたというものであるだろう。


 このニュースはかなり大きなこととして人の世で取り上げられており、完全に閉鎖空間であった『死者の国』にさえその情報が届いたほどだ。


 別に『魔王』も『勇者』もどちらも応援していたというわけではない。どちらが勝とうが正直知ったことではないというのが本音ではあるのだが、自分の知り合いが偉業を成し遂げたというのになんだかうれしくなったものだ。


 ……そう、だというのに、だというのに!


「今日からこの国に住まわせてもらうことになったカインだ。勇者時代に会った顔もちらほら見かけるが仲よくしてくれるとうれしい」


 この『勇者』さん、なんか『死者の国』に移住してきました!


「……なぜあなたがここに?」


「お、姫じゃないか。久しぶりだな」


「はい、久しぶりです。……じゃなくて!なんであなたここにいるんですか!」


「ああ、それはだな。俺は『魔王』と戦ったわけだ。めんどくさいから詳細は省くが、勝つには勝ったんだが、実際のところほとんど引き分けでな。それからほどなくして俺の方も死んでしまったというわけだ」


「それで、勇者ほどの人がどうして『上位霊(レイス)』なんかになってるんですか!」


「そりゃもちろん、まだ現世に未練があったしな。あとは気合と根性」


「……なんですか、その超理論」


 『死者の国』に住むための条件はただひとつ。死者であること。なんとこの人、元勇者の癖に、アンデットの魔物になって姿を現したのである。


「まあ気合と根性は置いておいても、まだ俺は姫の名前を聞いていないし、姫の願いもかなえていない。女の子ひとり助けられなくて『勇者』が死んでられるか!」


「えぇー、じゃあカインがここにいるのって私のせいなの……」


 カインの言葉に少女は思わずげんなりする。


「まあ突き詰めるとそうなるな。俺はお前が忘れられなかった」


 その言葉とともにカインはニカッと笑う。この人そんな顔もできたんだなぁと少女が思わず現実逃避をしていると―。


「貴様、とうとう化けの皮がはがれたなロリコン野郎!」


 なんだかものすごい形相のノワールが現れる。


「誰がロリコンか!」


 ノワールの言葉に無駄に応戦するカイン。


「こんな小さな姫のことを忘れられず、幽霊になってまで付きまとう。これがロリコンじゃなかったら、何がロリコンか!」


「ほぉ。おい貴様。表に出ろ!」


「上等だ!もはや『勇者』でもなく幽霊になったことで聖魔法も使えない貴様など、恐れるに値せんわ!」


「おーい、ノワール。何さりげなくわたしをディスってるんだ」


 しかし少女の言葉ノワールに届かない。そうしているうちに争いは激化していく。


「カタカタッ、カタカタカタッ(あいつら、いきなりやってるのか)」


「ヴォヴォッ、ヴォヴォヴォヴォヴォ(姫様、こんな奴らほっといて向こうに行きましょう)」


「うーん、そうだね。ボーさんの意見に一票かな」


「ヴォヴォッ!(よしっ!)」


 そうして少女がノワールとカインに背を向けたちょうどそのときである。


「おいこらボーさん。なぜおまえは姫と一緒にこの場を離れようとしている?」


「ヴォヴォヴォッ!(貴様この金縛りを説きやがれ!)」


「おいそこのゾンビ。貴様とも話し合わないといけないようだな」


「ヴォヴォヴォヴォヴォッ!(話し合いならテメーらだけでやってろ!)」


 しかしボーさんの健闘むなしく、ゾンビは二人の幽霊に連行されていった。


「ええっと、あんまり大騒ぎはしないでね」


 ボーさんが連行されてしまったため仕方なくひとりでこの場を離れることにした少女。

 正直あんなバカげた争いにかかわっていられない。

 一言だけ注意をして少女はそっとその場を離れた。


「はぁ、なんか疲れた。まあこれも日常と言えば日常だけど」


 思わずため息が出る少女。しかしその顔はほんの少し楽しそうでもある。


 ここは『死者の国』。『命無き者たちの楽園』。

 そんな物騒な名前とは裏腹に、よく晴れた明るい道を姫と呼ばれる少女は歩いて行った。

そんなわけ完結です。とりあえず一安心。

まあ落ちらしい落ちはなかったですけど…。それと思い付きのネタだったのに意外と長くなってしまった…。

それでは最後にここまでお付き合いいただきありがとうございました。

感想等ありましたらよろしくお願いします。

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