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勇者さんとの対話。これが私の本気です!

「ぐわーーーーーーーーー」


 最初に部屋に飛び込んできたのはノワールだった。

 いや、この表現は正確ではない。ノワールは何者かに吹き飛ばされてきた。

 そしてノワールが吹き飛ばされたのに間を置かず、数人の足音も部屋の中に入ってきた。少女に正確な数はわからないが、おそらく足音の数的に4人程度ではないかと思われる。


「女の子?」


 誰が発したのかはわからないが男の声が聞こえた。だから少女はあらかじめ用意していた紙を取り出す。


【あなたが勇者ですか?】


「ああ、そうだ」


 先ほどと同じ声が返ってくる。


「もしかして君はしゃべれないのか?」


【正確なところは少し違いますが、あなたたちとしゃべれないという点に関しては肯定します】


「君はここにずっといるのか?」


【はい】


「君は何者なんだ?」


【一応人間ですよ。ただこの国においては姫などと呼ばれていますが】


 少女はその答えとともに優しい笑みをつくる。

 しかしそれとは勇者たちは驚愕をあらわにする。


「なぜ人間の君がここに?」


 勇者の問い。それに少女は答えようとしたが―。


「姫様!これ以上この者たちに語ることなどありません!」


 ノワールの怒気混じりの声によってさえぎられてしまう。

 ノワールの声に勇者たちは一気に臨戦態勢をとる。

 しかし少女はノワールの方を向くと首を横に振る。もういいよと。


「姫様……」


【あとはわたしがどうにかするよ。というよりしないといけないことだから】


 そう書いた紙をノワールに見せた後、再び少女は勇者たちの方を向く。

 勇者たちはいまだ臨戦態勢のようであったが少女は構わず文字をつづる。


【長い話になるけど聞きます?】


「……ああ、お願いする」


【では説明しましょう。でも私が説明するとホントに長い時間かかっちゃうのでここはノワールにお願いします】


 少女は再び文字を記すと、それを勇者たちとノワールに見せる。


 ノワールは最初ものすごい渋っていたが、少女がじーっとノワールの方に向ける視線に耐えきれず、本当にしぶしぶながらも自分が姫と呼ぶ少女について語った。


 少女は死をまき散らす。


 少女と目があったから。

 少女の声を聴いたから。

 少女に触れたから。

 少女を殺そうとしたから。

 少女が死にそうだから。


 そんな理由で少女の周りの人間は死ぬ。


 そこに善悪はなく。ただ平等に死だけが訪れると。


 ノワールの説明にたまに少女自身が注釈を入れつつ、説明は終わり、


【だからわたしはここにいます。『死者の国』なら誰も死ぬことはありませんから】


と、少女が紙に書いて話を締めくくった。


 話の終わりと同時に場が静寂に包まれる。そうしてしばし静寂の時間が続いた時である。


「にわかには信じがたいな」


 勇者がその静寂を打ち破る。


「貴様、姫様の話を―」


 勇者の言葉にノワールが激昂する。しかしノワールのセリフはすべてを言い切る前に少女の視線によって黙殺される。


【信じられませんか?】


「ああ、にわかにはな」


【では試してみます?】


「……」


【まあ信じるも信じないもあなたたちの勝手です。それにそもそもの話ですが、わたしはわたしの友達を(ころ)しにきたあなたたちが好きではありません】


【だから、これ以上わたしの友達を(ころ)すというのなら、あなたたちはわたしの敵です。私が全力でもってあなたたちを殺します】


 その瞬間少女の周りから広がる猛烈な死の気配。

 瞬間『勇者』は理解する。この少女がその気になれば次の瞬間にも自分たちは死ぬと。


【願わくばこれ以上何もせずに帰ってください。わたしはできる限り人を殺したくありませんし、友達が(ころ)されるのもいやです】


 そう最後に少女は紙に記し、勇者たちに頭を下げた。


 それは横から見れば少女から勇者へお願いをしているようである。しかし実際のところ、それはお願いであると同時に脅迫でもある。「殺さないから(ころ)すなと」


「……わかった。俺たちはこの場を去ろう」


 勇者の言葉を聞き少女は頭を上げた。


【ありがとうございます】


「礼を言われる覚えはない。それに見逃されたのは俺たちの方だ」


 勇者の言葉に反論する者は誰もいない。


「それと最後にお前の名前は何というんだ?」


【どういうことです?】


「いやなに。少し知りたいと思っただけだ」


 少女は少し考えた後次のようにつづった。


【人と一緒にいた時の名前は確かにありますが、ここは秘密にしておきます。今のわたしは『死者の国』の姫です】


「……そうか。姫よ、いつかお前の人としての名を聞き出せるよう俺はこれから努力をする」


【そうですね、せめてわたしが人と話せるようになったら考えてあげてもいいですよ】


「わかった」


 そうして勇者一行は今度こそ去っていった。

 多大な被害を受けながらも『死者の国』は勇者一行を退けることに成功した。


 ……余談であるが、その後『死者の国』は勇者でさえ突破できなかったダンジョンとして名をはせることになるのだが、それはまた別の話である。

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