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死者の国は今日も平和に始まります。

 少女の朝は早い。

 朝日が昇ってすぐ、少女は活動を始める。


「ふあぁ……、もうあさ?」


 寝ぼけまなこをこすりつつ少女はベッドから出る。窓の外を見れば、すでに太陽が半分以上顔を出していた。

 まだ少しばかり暗い外の景色を横目に少女はまず着替えをする。

 寝巻を脱げばそこに現れるのはきめ細かなシミひとつない肌。まるで白百合のように真っ白である。そんな真っ白な肌を彩るのは腰まで届く夜の闇ように真っ黒な髪。全体的に丸顔でかわいらしく、その瞳はまるで黒曜石のようだ。

 服を脱いだ少女は昨日のうちに準備されていた服を着る。鏡で自分の姿を確認すれば青を基調とした膝上丈の薄手のドレス風の服がよく似合っている。


「かわいいとは思うんだけど……派手なんだよね」


 似合っている、似合っているのだが、少女的にはもう少し地味な服が着たい。しかしすべての服を用意してもらっている身としてはわがままは言えない。


 着替えが終わると少女は食堂に向かう。廊下にはすでに朝食のいい匂いが漂っており、朝食を食べるのが待ち遠しくなる。そうして楽しい気持ちでいっぱいになりながら少女は食堂に到着した。食堂に到着してすぐ少女はいつもの席に座ろうとしたら食堂の奥の方から誰かがこちらに向かってくるような音がする。少女が音の方を向けばそこにはこの食堂の料理人さんがいた。


「あ、おはようございます、メアリさん」


「カタッ、カタカタ、カタッ」


「今日の朝食もとってもおいしそうなにおいがしますね」


「カタタッ、カタカタカタ、カタカタ、カタカタカタカタッ」


「へー、そうなんですか。とっても楽しみです!」


「カタカタカタカタッ」


 少女と料理人のメアリは会話をいったん止めると少女は席に、メアリは食堂の奥の方に戻っていった。



 ……うん、正直この会話を横で聞いているだけでは意味が分からないだろう。



 まずひとつ言っておくとメアリは骨である。

 注意しておくが別にこれは骨のような人相とか、やせすぎて骨が浮き出ているとかそう言った比喩ではない。正真正銘骨だ。

 一応もう少し詳しい説明をするなら、メアリと呼ばれた骨は魔物、中でもスケルトンと呼ばれる存在である。ではスケルトンとは何かと言われれば簡単に言えば死んだ人間の骨が動いている存在。大体そんな感じである。

 スケルトンは骨であるため当然発声器官など存在しない。そのため当然スケルトンの会話はすべてカタカタと口をならす音になる。はっきり言ってあのカタカタ音から何を言っているかわかるようになるにはよほどスケルトンに精通していないとムリだ。

 ちなみに先ほどの会話だがメアリ的には次のような会話のつもりである。



「あ、おはようございます、メアリさん」


「おはよう姫」


「今日の朝食もとってもおいしそうなにおいがしますね」


「わかるかい?実はいい鳥が手に入ってね、今日はタンドリーチキンにしてみたんだよ」


「へー、そうなんですか。とっても楽しみです!」


「楽しみにしておくといいよ」



 ……とてもではないが一般人では理解ができない。

 ちなみにではあるが実は少女もメアリの言葉を完全には理解していない。ただ何となく今日はいい感じの料理ができたというのを雰囲気的に感じ取っているだけだ。

骨に雰囲気も何もあるかと言いたいが、そこはメアリと少女の付き合いの長さでなんとなくわかるようになった。それにそのなんとなくで会話のほぼ100%がきちんと成り立つ。ゆえに少女にとって、なんとなくという実にあいまいな感覚だけでも全く問題がないのである。


 そうして待つことしばしば、少女のもとにメアリが朝食を運んでくる。メニューは白パンにサラダ、卵スープにメアリの自信作であるタンドリーチキンだ。どれもおいしそうだ。


「では、いただきます」


「カタ、カタカタカタッ(どうぞ、おかわりもあるからね)」


 こうして少女の一日は平和に始まる。

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