界渡る扉守り ~愉快な仲間たちと過ごす休日~
雨雲ひとつない晴天の下。
敷地内に植えられた木々の中で最も高さがあり、幹もしっかりと している木に登り背を預けていると、そよそよと吹く風が頬を優しく撫でていく。
暖かな陽の光と木の葉がこすれる音が心地よくて眠ってしまいそうになる。私は抗うこともせずに身をまかせ『ちゅどーーーーーん!!』
……ようとすると、遠くの方から聞こえてきたのは特撮とかでよくあるような大きな爆発音と、少し遅れて響く数人の慌てた足音。
『ライキ様~、あれ程おやめ下さいとお願い致しましたのにぃっっ!!』
『何としても捕らえろ!今度こそ、今度こそあの方には反省していただかねばならん!!』
ふわっと欠伸を噛み殺しながらバタバタ走る音に混じる声に耳を澄ませると、聞き取りづらいものの悲壮感がたっぷりこもった従者たちの叫びが聞こえてきた。
今起こっていることは、私がこのお屋敷に来た時から……いや、聞いたところによればその前から変わらない(むしろ悪化している)らしいけれどね。
今頃、彼らのお説教から逃れるべく走り回っていると思われるその人は実はやんごとなきご身分の方だった(はず)なんだけど、本人は自由気ままに領地にこもっては秘薬から始まり、果ては空飛ぶ道具の開発研究などをしているらしい。(ただ、どれも成功したことはないとのウワサ)
「さぁて、そろそろこっちに来る頃かな?」
だんだん近付いてくる足音に1人笑うと、腰に提げたカバンからあるモノを取り出した。
私こと香月結葉がいるここは"彩黎 -サイレイ-"、異なる世界に存在している国の一つ。国の大きさとしてはオーストラリアと同じくらいで、326年と歴史は長くないけれど治安は安定している方で、人々も穏やかに過ごしている。
服装は和服だったり、和と洋が混在したようなものだったり。
どことなく時代を感じさせるけれど人々の生活は少し前の日本とほぼ変わらない。驚くことに世界共通の言葉とは別に"日本語"も話し、更には"漢字"、"ひらがな"や"カタカナ"も書ける。
でも、やっぱりここは異世界。
髪や目の色も元の世界では有り得ないような色だったりするし、森に行けば(元の世界でも見たことがない)妖魔に遭遇することだってあり、動物も犬と何かを足して2で割ったような不思議なものがたくさんいたりする。
そもそも何故異世界にいるかと言うと、話は3年程前に遡る。
当時 、中学校に上がったばかりの12歳だった私は、夏休みに母からの置き手紙に呼び出されて向かった山にある泉の前で久しぶりに見る母と実は異世界人だったという祖母から私が受け継ぐべき役目について端的に聞かされ、母と共にこの世界に送り込まれた。
我が家は代々【扉守り】という役目を継いでいるらしく、【扉】というのは香月家が所有する小さな山の中に顕れるもので、開けば異世界へ繋がる道がある。ただし、一般の人には視えない。
【扉守り】は主に異世界から来る、人に害を成す存在が【扉】に到達する前に排除したり、双方の【扉】に異常がないか確認したり、異世界に召喚されてしまった人を探して連れ戻すということをしたりする(召喚されると【扉】を介さず異世界へ行ける)。
そんなこんなで事態を理解出来ないまま【扉】を抜けた数十秒後、いきなり大勢の人に囲まれたことには驚いたけれど、母といたおかげで(何故か)捕らえられることなく城へ案内された。そこで会ったのがあの人だった。
「あの時はまさかこんな人だとは思わなかったなぁ。キリッとして格好よくて品があって、真面目そうで……。義父さまもとても素晴らしい方だと言っていたのに、はあぁ~」
あの時を思い出して溜め息をついていると、足下でモゾモゾ動くモノがこちらを向いた。
「こらこら、溜め息つくと幸せ逃げるよ?っと、それよりも私はこれから向かう所があるんだ。だから、ね?この縄を外しっ!」
「ライ様、大人しくお説教された方が案外早く終わるかもしれませんよ?それから、私もこれから人と待ち合わせしているので外すなんて事はしません。ここはまぁ安全ですし、従者の方が来るまでゆっくりなさって下さい。では」
逃走者もといライキ様を捕まえてから少し。
ヘラっと笑う本人はぐるぐる巻きにされた芋虫のまま懲りもせず逃げようとするので、面倒になった私は彼の側頭部に指の関節部分を立てて高速回転させて黙らせると(かなり痛いらしい)、うめく虫さんを無視して歩き出す。
ここには彼を護るために常に数人の影がいるから余程の事がない限り安心できるので、途中影たちと目が合った時に彼等が頷くのを確認すると私は待ち合わせ場所へ向かった。
「に~く~にく~、お肉食べるのね~♪」
「気が早いぞ、カゴメ。まだ主が来ていない。もう少し我慢だ」
「……つーか、お前は肉の前にもっと野菜を食べろ。じゃなきゃ、いつまでもちびちぇーままだぞ。あと変な歌ヤメロちびっこ」
「ムッキー!カキ氷のくせに生意気な!大体私の方が何年もな~ん十年もお姉さん。見た目で判断すると痛い目遭うね!!」
「誰がカキ氷だ、誰が!!」
太陽が真上に差し掛かるお昼時。
人気がない森の奥、側を川が流れる待ち合わせ場所に着いて早々、飛び込んできた光景に目を丸くする。
彼らはぱっと見、小さな子どもと少年たちにしか見えないけれど、完全なヒトでもない。
「お肉の歌(?)」を歌っていた12歳前後の少女は籠目、少女を嗜めていた15歳ほどの少年は綾人。2人はひいじい様が日本のとあるお屋敷で見つけて連れ帰ってきて以来、香月家に仕えてくれている付喪神であり、軽く数百年は生きている。
そして未だにカゴメにおちょくられ、勢いよくツッこむ青年は氷鬼。
本名は知らないけれど、彼は人間と鬼の間に生まれた者らしい。この世界に来たばかりの頃、初めて会った当時は荒れに荒れていた。本人は理由を言いたくないらしく、詳しくは知らないけれど私たちは彼が本当は凄く熱いヤツと知っている。
そういう私も先祖と祖母がヒトならざる者の血をひくひとで、能力は引き継いでいる。私自身の力もあるけれど、今は割愛することにして。
そんなこんなで、2人のケンカをBGMにひとりボーッとしていると、アヤトからじっと見られている事に気付く。
どうやら「これをどうにかしてくれ」と訴えているよう。身内の欲目か凄く可愛く、熱い視線につい絆されてゆっくりとカゴメたちに近付いていく。
「はぁい、2人とも。ケンカはそこまでですよっと!!」
「「いっっだ!!」」
向かい合う2人の後頭部に手を添えて勢いよく交差させると『ごづっ!!』とそれはまぁスバラシイ音がなった。
うん、痛そう。でも謝らない。(そのあと氷鬼からは文句の雨あられ)
2人が痛みから立ち直ってからは、4人で楽しくバーベキュー開始。
途中魔物に襲撃されたけれど、それは民間でよく食べられる種だったようで全員で倒して美味しく戴きました。(解体は男子たちにお任せ)
「うまうま。カキ氷、美味~~♪」
ご機嫌に歌いながらカキ氷を食べるのはカゴメ。勿論、制作者は氷鬼で本人は今グッタリと寝転んでいる。
私は氷鬼の近くでしゃがむと、彼の乱れた前髪を整えるために手を伸ばした。嫌ではないようでされるがまま、目を閉じている。
「お疲れ様。ごめんね、カゴメが余計な力使わせちゃって。おまけに私たちの分も作ってくれて。ありがと」
「そう思うんなら止めろよ主」
「ふふ、ヤダ。何だかんだ文句言いながら本当は嬉しいくせに。顔笑ってるよ?」
嬉しそうに笑っている顔を指摘すると、図星なのかごろっと背中を向けてしてしまった。
けれど、後ろからでも耳が真っ赤なのが見えて思わず笑ってしまう。
口が悪くてぶっきらぼうな氷鬼は本来、とても面倒見が良いひとだ。アヤトもカゴメもそんな彼の事が大好きで、会うたびに引っ付いたりしている。
からかうと反応が面白いから……とかではないと思いたいけど。
ふと顔をあげてみると、徐々に色を変えていく空を見て少しの寂しさを覚える。
元の世界では何気なく出来ることも、この世界で難しいことがある。大陸の中央にある国ではなにやらきな臭い動きがあるらしく、これから皆で集まって休日を過ごすのは少なくなるかもしれない。
「主さま~、遊びましょ~~」
「そだねぇ、だったら氷鬼くん鬼にしてかくれんぼしようか」
「何でだ。そこは公平にじゃんけんだろがよ!」
「それではちゃんと数えてくれ、氷鬼殿。では、我らは隠れる」 「うぉい!!」
疲れを感じさせないくらい元気に飛び起き突っ込んだ彼に笑いつつ、カキ氷を食べて満足げなカゴメに誘われて立ち上がる。
これからどうなるかは誰にも分からない。けれど、今はまだこんな穏やかな日を彼らといられるだけでいい。
そう思いながら私は走り出した。
初投稿作品、見て頂いてありがとうございました!




