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8話:始末

※グロ表現にご注意ください



 騎士の男は、剣をこちらに構えたまま言葉を吐き捨てた。


「どうなってやがる! なぜ!?」


「は? 俺の言葉が聞こえなかったのか? お前らが騙していた『小石召喚』なんかじゃなくて、本当の能力を使えたからだよ」


「くっ、もうバレたのか! じゃあ、いまここでなんとしても」


 そこに女騎士が呟いた。


「あなたはこの世界の文字が読めないはず! ステータスさえ見れないのに……」

「おいおい、わからないのか? 俺の『物質支配』があればそんなこと簡単に……」


 (……できる)と言いかけた時に、騎士の男が蜃気楼のように消え、俺へと一瞬で距離を詰めた。

 何かのスキルだろうか?

 がら空きの首に切りかかった。


 が、剣は俺の皮膚に触れたまま動きが止まる。


「けっ、『斬撃無効』は見間違いじゃなかったか」


 一瞬で下がった騎士が呟くのが聞こえた。

 こいつら、本気で命を取りに来たな。

 剣なんて俺に効かないけどさ。


 でも、やっちゃったよこいつ。

 ちょっと拷問してやろうくらいだったが、死亡確定だな。


 さらに続けざま、男は手から火魔法を打ち出した。


「火球!」


 巨大な火の弾丸が熱気をまとって、俺に迫ってきた。


 俺はその光景を見てこれは小石じゃ無理だなと、

 とりあえず気体を操作してかき消してやった


 ――内部から乱気流が巻き起こり、火の弧は内側から周囲に散ってしまったのだ。


「気が済んだか?」


 その常識外の現象を見た騎士の男は、驚愕の声をあげた。


「な、にが……。LV.8の火魔法が、かき消された!?」


 にしても、この騎士の不思議そうな顔は……?

 俺の『物質支配』をちゃんと理解していなかったのか?


 いや、異世界人だから、物理法則を知らないってことだな。


 ステータスを見て焦ってたのは、本当に書いてある能力の意味がわからなかったとか?

 魔法なら効くとでも思ったのか。滑稽だな。


 このハエ、そろそろ鬱陶うっとうしくなってきたな。


 とりあえず胸のあたりにニ・三発、小石を叩きこんでおいた。


 ばたり、と地面に倒れたまま、胸から大量の血を噴き出して、痙攣したのち息絶えた。




「あ、ああ……」


 悲鳴をこらえる騎士の女は、口を押さえて男を見ていた。


「お前はどうするんだ?」


 誰にも俺は支配されない。自由を奪おうとする者も許さない。

 

「わ、わた、わたしは……」


 どうやらビビって攻撃はしないみたいだ。賢明な判断だな。

  

「とりあえず、お前たちはなぜ裏切った? 許すつもりはないが、何がしたかったのか聞かせろ」


 聞けるだけ情報を吐き出させよう。

 俺はこいつらの短絡的な裏切りのようには思えなかった。

 わざわざそんな面倒なことをする意味がわからないのだ。


「俺の能力を見て殺しておこうとなったのか?」

「そ、それは……、あなたが一番危険そうなステータスを持っていたからよ。だから……」

「じゃあ、お前たちは魔王軍に寝返ったってことか?」

「そ、そうよ、もういいでしょ?」


 どうやら嘘をついているらしいので、とりあえず軽く電気ショックを食らわせておいた。


「がああああああああああああああああっ!」


 女は口からよだれを垂らして、痙攣したまま地面にへたり込んだ。


「本当のことを話せ」


「……ち、ちあ、違うの、私たちはもともと、魔王軍側のスパイ……だったの」


「スパイ?」


「私たちを世界を滅ぼす悪者に仕立て上げて、勇者を使ってダンジョンを襲わせようとしていたから……。悪いのは国王軍よ。あの王女こそ本当の魔王みたいな女なんだから」


 それが本当なら、国王軍は俺たちを騙して、危険なダンジョンに使い捨ての駒にしようとしたわけか。


「ふ~ん、それで魔王のいるダンジョンのブラフを流して襲わせないように画策したわけか?」


「ち、違う。魔王がダンジョンの最下層にいるのは本当なの……。だから、私たちは危なそうな奴をみんな、不意打ちで排除しようと……」


 訓練のとき、この騎士二人が他の奴らばかり見ていたのはそのためか。

 ステータスを確認された俺は、最初から殺すことが予約済みだったと。


「はぁ……、あほくさっ」


 俺はこの馬鹿馬鹿しい状況にため息を吐いた。


 どうでもいい政治のいざこざに巻き込まれた気分だ。


 この国のちびっ子国王、マルファーリスによって俺たちは騙され、命を危険にさらした。

 その上、潜伏した裏切り者(二人の騎士)によって狙われる。

 という二重の危険にさらされていたわけか。


「こ、これでいいでしょ? 私、まだ死に……」


 俺はその汚い声をもう聞きたくなかったから、物理操作で周囲に浮かべた複数の小石を、その女の胸元へと弾丸のように叩きこんだ。


 無数の穴から血を流して女は倒れた。


 俺を殺そうとしたのがすでに罪だ。

 が、ここで潰しておいたのは、隙を窺いつつ懐から攻撃しようとしていたからだ。

 視線から俺の命を狙っているのにすぐ気づいた。


 女の倒れたところを確認すると、細長い『針』のようなものが落ちていた。


 先端に毒のようなものがついている。毒針か・・・。


 あっさり寝返るような尻軽女はやっぱり危険だ。

 これから先、こういう人にいい顔をして寄ってくる女には気をつけた方がいいなと思った。


 まずはどこか別のまともそうな国を探して、西へと向かうことにした。


 とりあえず空を飛んで移動だ。


 地上に見える森を眺めながら、俺は空を気ままに旅することにした。






  -----【騎士の視点】-------

  

 地面に倒れていた血まみれの二人の騎士は、のそりと起き上がった。


「行ったか?」

「そうみたいね……」


 女騎士は、傷口からあふれた血を布で拭う。


「いや、しっかし化け物だなありゃ。下手な攻撃はまず効かねえぞ」

「それより、ちょっとしゃべっちゃったわ。ごめんなさい」

「いいさ、あのくらいは。ここで意地でも魔王を倒すと言ってくる方が厄介だ」


 女騎士はその言い分に納得して頷いた。


「でもあなたの腕なら、木剣で何とかなったんじゃない?」

「いや、それは無理だ。それよりも魔物の生き骨を使った針の方が効いたんじゃねえか? 途中で気づかれちまったが」

「仕方ないわ……」


 女騎士は地面に落ちた針を拾い上げる。

 魔物から分離しても未だに毒を吹き出し続ける骨は、先端が黒く染まっていた。


 男の騎士は身体の動きを確認しつつ、魔法で傷をふさいでいく。女騎士にも同じように見た目を元に戻していく。


 魔王によって与えられた『不死体性』。


 死にはしないが、傷も痛みも感じる。

 以前見たマルファールス国王のように傷を負ってすぐの人体再生もしない。


「さて、ダンジョンで死にかけて五体満足かは分からないが、勇者を拾いに行きますか」

「彼らはもう、不死体性は受けているんでしょ? それなら大丈夫よ」

「ああ、ダンジョンに入った段階で、あの勇者一人を除いて魔王による支配が発動した。だが……」


 支配したものを不死にする力。

 それがいまいる魔王の力だった。


 そこで男の騎士は首を振って話を続ける。


「自分で動けない奴もいるかもしれないから念のためだ。俺たち『魔王軍』の側についてもらわなきゃならん。一か所に集めてその説得をしなきゃだろ?」

「そうね……」


 少しだけ疑念を抱くように男の騎士は空を見上げた。


「あの異世界からきた勇者たちはどこか浮かれていた。それにさっきの勇者に対する態度もひどいものだった」


 女騎士は召喚されてから訓練中のコウセイという勇者とそのクラスメートたちの態度を思い出した。

 確かに、一人だけ冷たい扱いを受けていた様子だった。

 まあ、殺そうとした人間がこんなことを考えるのもおかしいなと思ったりもした。

 そこに男の騎士は少し前向きなことを言う。


「死にかけた経験で、何かが変わってくれればいいがな。いろいろ頭が足りないところ、自分の愚かさとかな……」

「そうならなかった勇者はどうするの?」

「その場合は仕方ないさ。不死の支配を解いて自由にさせるさ」

「ふふっ、一緒じゃない」


 そこでクスっと女騎士が笑った理由は簡単だ。

 あのダンジョンの中で、不死を解いて自由にすると言うのは、魔物の中に放り込まれると言うことなのだから。一種の脅しだ。


「つまりそういうことだよ。そこまで愚かな奴はせめてここで安らかに眠ってもらった方がいい。魔王の望みをかなえるためにもな」

「そうね、今の彼らじゃまだ力が『足りない』ものね」

「これからすこし派手に動き回ることになるが、あの化け物じみた勇者が向かったのは帝国のある方角だ。その混乱をせいぜい利用させてもらうさ」

「じゃあ急ぎましょ。他の騎士に見つからないように、血印魔法『霧影』をお願い」


 そう言って女騎士は、男の騎士の身体に触れると、一瞬にして霧のようにその場から姿を消した。


(異世界でのクラスメートとの再会はもう少し先になります。)


1/9 騎士の視点追加

6/1・4 誤字修正


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