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43話:長いプロローグの終わり

山と谷の中で、谷の沈む(ドン底の)話が苦手な方、主人公が活躍できない話がダメな方は、この43話は読まないでください。次話へお進みください。



ここまでのあらすじ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

物質支配の力を手に入れたモノノベ=コウセイは、騎士二人に陥れられて、ダンジョンの中で殺されかけるが、勇者として得たその力でダンジョンを脱出。途中見つけた巨大ハムスターのモキュと旅をする中、エサのために村を救うのだった。そこで、村の娘であるディビナを餌係として連れて、この世界で自由に生きるために大きな街のある帝国へ。


コウセイは、巨大ハムスターのモキュ、餌係になったディビナ、兄を殺して妹にしたモニカと帝国に滞在する。


そんなとき、成り行きで冒険者の訓練に参加することに。ダンジョンに向かった先で待ち構えていたのは、王国の前国王・現皇帝のマルファーリスと封印を解き放った白竜ホワイトドラゴンだった。


不死身の化け物相手に、物質支配の能力を極限まで使って両者を倒すことに成功する。


恩賞を与えられることになったコウセイだが、そこに驚くべき報告が二つ入る。一つは皇帝が姿を消したこと。もう一つが魔王軍がアルカリス王国に出現し、帝国に向けて進軍したことだった。


モニカの友達だと言うフィーを連れてアルカリス王国に戻りクラスメートたちと再会、魔王メアリスや騎士たちとの話し合いで魔王軍と和解する。

その直後メアリスの父、マルファーリスの手で別世界に飛ばされていた初代魔王が現れるが、無数の魔族と魔王を一緒に撃破することに成功。

無敵状態の竜王を倒すために領土の支配奪還を思いつくのだった。


・・・その続きです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 魔王を倒し、竜王を倒す算段が付いた。


 この時、その安堵感と裏腹に高揚した気分と合わさって、不思議な気分になっていた。


 しかし、俺は大事なことを一つ見落としていた。


 (人生を振り返った時の走馬灯より)







 俺は魔王を撃破したことを伝えるために、一度アルカリス王国の城へと戻ることにした。

 モニカやフィー、ディビナたちはモキュと一緒に空間転移で飛ばしたのだ。


「なんかあっさり帰るのもあれだな。ちょっと驚かせてやるか?」


 ちょっと案を考えてみる。


 その時、


『みんなを驚かしたいなら、僕にいい考えがあるよ?』


「お、妖刀か。なにかいい案があるのか?」


『うん、ちょっとね。お城には、いざという時のためのいくつもの抜け穴と通路があるんだ。そこからひょっこりと。床から戻ってみたらどうだろう?』


「ん~なるほど。それでいこうか。俺は道の通り方を知らないから案内してくれ。それと、さっきはありがとな」


『どうしたんだい急に? 主様の代わりに魔王を足止めしていたことかい?』


「それ以外ないだろう?」


『別にお礼を言われることじゃないよ。そうすべきだからそうしただけだよ。主様は僕を支配できないだろ? だからこそ、僕自身の意思で主様の身体を動かして魔王と戦うことができるんだから』


「そうだったな。じゃあ、床からサプライズでビックり仰天しもらいますか……」


 こんなふうにお茶目なことができるのも、なんだかんだで、モニカやディビナが俺は気にいっているのだろう。


 モニカはもう心配いらないくらい、俺にぴったりついてきてくれるようになった。


 ディビナについてもそうだ。

 いつの間にか俺に好意らしきものを向けてくれるようになっていた。


 端田令未果はなだれみかだって、何かと俺に話しかけてくれていた。

 もしかしたら『ごめん』とあのとき言ってくれたのは、『俺をいじめから助けられなくてごめん』ってことだったのかもしれない。


 教室でずっと話しかけてくれていたのも、ちょっとくらいは好意があってのことかもしれない。都合いい考えかもしれないけど。


 だとしたら、以外と悲観する人生でもなかったのかもしれない。

 腐った日常とサヨナラ出来たのだ!


 意外と人から好意を向けてもらうことは、俺にでもできるものなのかもしれない。

 今の俺ならすんなりとそう信じることができた。



 妖刀の案内で、城の裏口から回って井戸から地下へと侵入した。

 ちょうど城の真下だった。

 俺は銀硝鉱石を飛ばして映像を眼の網膜に映し出した。


 こういう能力の使い方もしてみるものだ。

 覗き魔とかが喜びそうな能力だな……。


 城の中の様子が、この地下からでも外から光を曲げて見ることができる。


「ちょうど真下ってところか……、地面を突き破って出現してみるか? きっとビックりするぞ?」


『そうかい? あ、連れの子たちが何か話しているよ?』


 映像を共有している妖刀がディビナやモニカたちが、城の中の人たちと何か話しているのに気づいた。


 モニカとフィーは、魔王のメアリスと。

 ディビナは男の騎士と端田令未果はなだれみかと。


 それぞれ何かを話していた。


「音を相互に聞こえるようにするんじゃなくて、どうすれば盗聴できるかなぁ~」


 そんな悪戯心いたずらごころに、能力をどう使うか考えていると……


『魔法を使いなよ。あれだけの魔族と魔王を倒したんだ。生贄は十分だ。大抵の魔法は僕が使える』


「そうか、じゃあ、王の間の中の音声が聞こえるように頼む」


 すると、城を覆うように魔法陣が展開されて、俺の耳には城の王の間の中の声が聞こえるようになった。

 これが映像とリンクしていた。


 まず聞こえてきたのは魔王メアリスの声だった。

『そういえば、コウセイさんは、モニカちゃんのお兄さんなのですか?』


 それにきっぱりと答えたのはモニカだった。

『え? 違いますよ? あれはただの憂さ晴らし?みたいなものです』

『……それって?』

『あんなただの人殺しをお兄ちゃんだなんて……一度も思ったことはないですよ。いまより安全な場所を確保できたら、私の力で適当に死んでもらうつもりだったんです』


 メアリスは首を横にひねって聞き返した。

『しかし、お兄ちゃんと呼んでいました……よね?』


『それはあの気持ち悪い男が、私から逃げないようにするためですよ。それだけです』


 フィーはふざけ気味に手のひらを叩いて笑った。

『モニカちゃん、ひっでースわ』


 そういえば、と思いだしたように、モニカがメアリスにあることを伝え忘れていたと告げる。


『そういえば、あの人がメアリスちゃんのパンツ盗んだんですけど、結局返しませんでしたね』

『そうだったんですか?』

『ダンジョンから拾ってましたよ?』


 それを聞いて、メアリスが苦虫をかみつぶすような顔をした。


『確かに顔は気持ち悪い方でしたが、変な性癖をお持ちなんですね。気持ち悪くて鳥肌がたちました……』


 フィーは相変わらず爆笑を続ける。


『メアリスちゃんもだった。やばいっスわ。……まあ、私もキモイとは思ってたんスけどね』


 モニカはフィーの同意する言葉を聞いて、も~と肩をたたいた。



 そこまで聞いて、俺はあいた口がふさがらなかった。


 なんだこれ?


 あれ? みんなが俺のことを慕っていたと思っていたのって……まさかの勘違いだった?


 モニカの口から口笛でも吹くように、俺への憎悪を吐きだしている会話が今もまだ続いていた。


「おい、うそ……だろ?」



 そこで、ディビナと端田令未果はなだれみかの会話が聞こえてきた。


 ディビナは端田はなだにこう質問したのだ。

『さきほど、コウセイさんに謝っていましたけど、何かあったんですか?』


 それに端田はなだは、答えにくそうに口を開いた。

『うん、ちょっとね。小学生から高校に上がるまでの間に彼はいじめられていたんです』

『そうだったのですか? では何を謝って……』


『それは……。私が彼をいじめるように彼らを使っていたからです……』


『……彼ら? 使っていた?』


『はい、不良グル―プの一つに彼をいじめるようにと』


『……なぜそんなことを?』


 端田はなだはその綺麗な顔をゆがませて、こう吐き捨てた。

『だって、いじめられているあいつに声をかける子……とかすごく優しく見えません?』

『……』

『おかげで顔だけじゃなくて、心もやさしい美少女……ってことで、ファンクラブまで出来ちゃったくらい。まあ、話しかけていたせいで私が好意を持っているとか、彼が変な勘違いをしていなきゃいいんですけどね……』


 ディビナはそれに首を縦に振った。

「いじめのことはよくわかりませんが、私もコウセイさんに好意を持たれるのはちょっと勘弁ですね……。なにより顔が気持ち悪いですし……」


 そこに男の騎士がおかしな話を聞いたようにこう言った。

『だがよぉ、お前はあの勇者についていってるだろ? なぜだ?』


『それは……』


『ん? 何か言いにくいことがあるのか?』


『はい、別に彼について行っているのではなくて……。ただ、モキュちゃんがだんだん可愛いく思えてきたのでたので、一緒にいたかったんです。コウセイさんはそのついでです。金魚にくっついているフンみたいなものです』


 男の騎士は頭を抱えた。

『フン扱いか……いや、聞いて悪かった。そんなこと聞かされて、あの勇者を見たら表情を隠せる気がしねえ』


 そこに端田はなだが騎士の肩をたたいた。

『大丈夫ですよ。あいつ鈍感だから、人の気持ちになんて気づきませんよ。見てくださいよ~。彼はなにも知らずに彼女たちを守るために、滑稽にも戦っているんですから……笑えるでしょ?』


『まあ、そうだな』


『そうですね、コウセイさんなんて、村にもいなかったくらいのチョロい男ですから大丈夫です』

 ディビナも同意する。


『そうだな……。騙されてダンジョンに潜る馬鹿だもんな。きっと大丈夫だ』


 男の騎士は笑って頷いた。


『できれば、モキュちゃんだけを連れていきたいですけど、そうするとさすがに真意を気付かれますからね……』

『別にいいんじゃない? その辺の竜種や王と戦わせて、死にそうになったらポイってすればいいよ。泣いたふりも忘れなきゃきっと騙せるはずだから』

『そうですね。今度やってみます』

 


 俺は意識を自分の顔へと戻すと、自然と目から涙がこぼれていた。


 端田の言った『ごめん』って、そう言う意味だったのかよ。

 俺はあの女の人気取りのために、ただ利用されていただけだった。


 それにディビナがどうして俺のもとにいるのか? 今までどう思っていたのか?

 俺は知らなかった。


 そうか。

 俺を取り巻いていた環境は何一つ変わっていなかったのか……。

 この世界が垂れ流す、腐った日常はずっと俺の隣にあったのだ。


 俺は妖刀を手にしたまま、ゆっくりと井戸から再び外へと出た。


 門から城へと入り直すのだ。


「開け……」


 俺が閉じている大きな門に触れた瞬間、両開きの鉄の塊はひとりでに開いた。


 いくつかの防衛用扉が開く。


 それを見た衛兵が近寄ってくる。


「おい、おまえどうし……」


 言葉を終える前に、衛兵の首をはね飛ばした。



 王の間の扉の前に立つと、流れ作業のように扉に触れて命令する。


「開け……」


 俺は3人と騎士たち、そして勇者たちがいる王の間へと入っていった。


 中に入ると、最初にモニカが気づいて俺に近寄ってきた。


「お兄ちゃん、大丈夫でしたか?」


 そういって俺の手を取ろうとした瞬間に、モニカの右手を切り飛ばした。


「ぎゃあああああああああああああ!!!!」


 それに気づいた男の騎士が叫んだ。


「おい、お前何してやがんだ! お前の仲間だろ!!」


 俺は騎士の言葉を無視してゆっくりと魔王メアリスへと歩み寄り、すぐ目の前で立ち止まった。


「死ね!」


 俺はメアリスの首を斬り飛ばした。


「きゃあああああああああああああ!!!!!」


 女の騎士は悲鳴を上げて、メアリスのもとへと駆け寄った。


「ちょっと、あんた何やってるのよ!」


 そういった女の騎士の首もはねた。


「どうし……たん……スよ」

 テンションの高かったフィーもさすがに言葉を上手く発っせずに俺を凝視していた。


 棒立ちのフィーへと歩き、単純作業をこなすように首をはねた。


 その瞬間、メアリスが魔法を発動させた。

 

「そういえば、不死だったか……。モニカたちも不死に変えたか?」

 

 男の騎士が魔法を発動させて首を修復していく。

 床に血が残ったまま、モニカとフィー、斬られた皆が立ち上がった。


 だが無視して、残ったディビナの方へと俺は歩いた。


「死ね」


 ディビナの首から上が飛んだ。



 いつの間にか、俺を取り囲むようにして騎士たちが剣や槍といった武器を向けていた。


 大きな剣を構えた騎士の一人が叫んだ。


「何をやっているんだお前! 武器を捨てて投降しろ!!」


 元クラスメートの勇者たちも俺にいつでも攻撃できるように体制を整えていた。


 モニカは心配そうな表情で俺を見ていた。

 そして思った。なんて白々しいのだと。ここまで演技されたら誰もわからない。

 決して俺がバカだからではない。


 俺は悪意を向けられることに慣れていたが、好意の裏に隠した悪意には疎かった。

 だから、その裏に潜んでいる本音に気づくことができなかった。


 再び魔王メアリスへと妖刀を構えて走った。

 踏み込むと剣に交差するのは男の騎士の剣だった。


「やらせねえ!」


 男の騎士は吹っ飛ばされて地面を転がった。

 俺は冷酷に告げた。


「邪魔だ、どけ」


 女の騎士も震えながら、メアリスをかばうように立ちふさがった。



「い、いやよ! あんた、馬鹿なことしてないで正気に戻りなさいよ!!」


 俺は女の騎士を無視して、妖刀でメアリスに斬りかかった。


「やらせねえよ」


 男の騎士が霧影で目の前に出現して、メアリスに刃が届く一瞬前へに剣で防いだ。


 そのまま妖刀に力を込めて騎士を吹き飛ばした。


 横からディビナの声が聞こえてきた。


「コウセイさん! どうしたんですか? こんなこと止めてください!!」


 モニカもそれに頷く。


「お兄ちゃん! こんなこともうやめて!!」


 メアリスが怯えた表情から一転して真剣な瞳を宿す。


「こうなったらもう仕方ありません。私が彼を……殺します」


 そう言って黒い木の棒を俺へと向けた。


 そのまま地面を叩くと、黒い魔法陣が浮かんだ。


 地面から突如として黒い腕のようなものが出現し、俺を拘束しようと迫ってくる。

 それを妖刀が近づいて来るものから順に切り落とす。


 無限に出てくる黒い腕を斬り続ける状態の中……、


 俺の光による攻撃索敵のためのセンサーが何かをとらえた。しかし、俺は妖刀で黒い腕から逃れるのに手いっぱいで迎撃することができなかった。

 物質支配の能力が……使えない?


 俺は気づいた瞬間、妖刀を持っていた右腕を切り落とされていた。


「ぐあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 激痛が腕からせりあがってくる。


 俺はすぐ目の前で、剣を振り下ろした者を見つめた。

 その剣には、つたがグルグルに巻き付いていた。

 これは明らかに能力対策だ。


 姿も見せずに接近できる能力を持つものが、俺の腕を切断したのだ。


 それこそが、泣きながらかすかに微笑んだモニカだった。



 切られたその瞬間、頭のモヤが晴れたような気分になった。



 地面に突き刺さった妖刀と俺の右腕は、そのまま動くことはなかった。


『あ~あ、主様。せっかく「堕ちた」のに、ここまでのようだね。支配中に能力のほとんどが使えなかったのはちょっと予定外だったけど……』


「なに……言ってるんだ」


『聞いてなかったのかい?』


「……何を?」


『以前、忠告したよね。僕は君の能力で支配できる刀じゃないって』


「ああ、聞いた」


『じゃあ、なんで……主様ぬしさまは僕の持ち主みたいな顔をして、僕を今まで使っているつもりになっていたんだい?』


「なっ……、お前!」


 俺は記憶には残っている今までの出来事と、この悪夢のような状況を振り返っていた。

 確かにこの妖刀は、俺の能力の支配下には置けない。

 そして何よりも……


『そうさ……、答え合わせだ。僕は誰の手によってつくられたのでしょうか? ヒントはいらないよね?』


 見下したような、嘲笑ったような声でそう冷たい声が脳内を駆け巡った。


 そして、一つの答えが浮かび上がった。


 この刀を用意して、俺を殺すように指示を出していた人間。


 そんな奴は一人しかいない。


 ――マルファーリスか……。


『ピンポンピンポン。大正解だよ!』


 しかしいつから……。

 妖刀は精神を支配すると言うが、あまりにも迂闊だった。

 武器というのはそれを所持していれば持ち主になれる。そう思ってしまっていた。

 主様……なんて上っ面の言葉だけでずっと信じ込んでいた。


 知らず知らずのうちに自分の懐に危険を招き寄せていた。


「くそっ」


 あのマルファーリスが死んでも、その負の遺産がまだ残っていたのだ。

 しかし、精神を侵食されていたのはいつからなのだろうか?

 気付いた時にはもう俺はメアリスを殺すだけの殺戮者になっていた。


 いや、そもそも……マルファーリスは本当にこの世界から消えたのか?

 俺の能力で精神支配を排除できていなかったこの状況。

 電気パルスを操る能力は、パッシブではないから、意識して精神支配を解除しないといけない。


 そして、俺は現に今、巧妙に精神を支配されていた。

 俺の心臓の治癒の魔法の時のことを思い返せば、刀が自分勝手に魔法を使えないことはもう知っている。


 なら……答えは一つだ。


 妖刀を介して俺の意思ではなく、誰かの意思で精神系の魔法を行使していた。

 それも一人しかいないだろう。

 あのロリババア!!!!!!!




『これまた正解……これはちょっと予想外かな』


 そのけらけらと笑う声だけが脳内に響く。


 だが、世界から消した人間が、どうやって精神魔法まで使ってこんなことをできるんだ……。


 まあいい。一つ確認しないとだな。


 じゃあ、さっき『王の間』で聞こえていたモニカたちの会話も幻覚みたいなものか……。それとも声だけ入れ替えられていたのか……。


『それはどうかな? 本当はそう思っているのかもしれないよ?』


 俺はその妖刀の言葉を否定することができなかった。


 あれが彼女たちのつくられた偽物の気持ちだったと言ってもらえるのを、心のどこかで望んでいたのかもしれない。だが、それを否定してくれるものは誰もいなかった。


 俺はさっき腕を切られた時に見たモニカのあの涙をまた信じられるのだろうか……。


 今目の前で泣いているディビナやモニカは心の中で本当はどう思っているのだろうか?

 そんな不安とともに俺は意識が薄れていった。


 目を覚ますとそこにはディビナとモニカ、ついでにフィーがいた。


「あ、起きました」

「お兄ちゃん? 大丈夫ですか? 意識は戻りました?」

「いや~、ほんとどうなるかと思ったっスよ~」


 モキュはいないようだった。



「ここは?」


「王城の医務室ですよ」


 俺はぽつりとこう言った。


「……悪かったな」


「いいんですよ、別に。気にしてません」


 ディビナは首を振った。

 モニカも頷いた。


「お兄ちゃんが悪いんじゃないですから……」


「ああ、そう……だな」


 俺は思ってもいないことを言うと、一つ頷いた。


「それにディビナちゃんはすごいです。あんなこともできるなんて」


 どうやら剣を加工していた植物の蔦のことらしい。


「いいえ、妖刀に気付いたのはモニカちゃんですから」

「そうですか? ここまでずっとお兄ちゃんの戦い方を見ていたからかもしれません。いつもと違って刀一辺倒だったので。男の騎士の方が私に、『精神支配の核があるかもしれない』って言ったのもきっかけだったので」


「そうか……」


 なんか、殺そうとした奴らにまで助けられてしまったのか。


 とりあえず、城の奴に事情を説明して、これからのことも話さないとな。


 俺はそう思ってもう一度眠ることにした。

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