39話:家出少女
1/8 二回目投稿です。
俺はそのまま、宿へと向かった。
二人に王国へついてくるか確認するためだが、モキュはたぶん来たがるだろうな。
宿の中へと入ると、ディビナの姿はなく、かわりにモニカと銀髪の少女がいた。
「ディビナはいないのか? モニカ……この子は誰?」
俺はじっと部屋の中でモニカと椅子に座っておしゃべりをしている子を見つめた。
明るそうな雰囲気のある子だった。
少し豪華そうなドレスを着ていて、銀色の髪を右肩の一点でまとめている。
「ども、こんにちわっス。お邪魔してますよ~」
その子は俺を見て気さくに 挨拶してくる。
いや知らないんだが……。誰だよこの子。
「あ、お兄ちゃんおかえりなさい。ちょっと早くありませんか?」
「ああ、ちょっと中断しててな……。それよりも大事な話なんだが……」
それで俺が王国へもう一度戻ることを話し、ついて来るかどうかを聞いた。
モニカはその質問に即答した。
「……はい、お兄ちゃんから離れるつもりはありませんので」
「わかった。じゃあ、あとディビナだな」
「あ、その前にこの子もいいです?」
俺は部屋にいる彼女をもう一度見た。
「彼女、フィーて言うんです。どうも家庭環境が辛くて家出したんだそうです。ちょっと買い物に出たら知りあって。お友達になって……。だから……」
モニカは申し訳なさそうに言い淀んでいた。
「その子も連れて行きたいのか?」
「はい……、やっぱり駄目ですか?」
俺は考えて見た。
家出。家庭環境がひどかったのだろう。どの家でもそう言うことはあるようだ。
友達か……。俺にはいなかったなそんな奴。
俺もこの世界で友達ができるのだろうか?
別にモニカの友達を同行させるくらいはかまわないが……。
「家がそんなに嫌なのか? ちょっと危険な場所に行くぞ?」
俺はそのフィーという子に確認した。
「平気っス!」
「なら、いい。準備してくれ」
俺は地下に構築したある場所へと降りた。
そこは能力で人工的に光と水を供給できるようにした地下庭園だった。
ヒマワリのゾーンと野菜のゾーン、そして稲作ゾーンだ。
米食べたくなっちゃったんだよな。で、似たのがあるからって感じで稲も育てることになった。
「あ、コウセイさん。どうしたんですか?」
「ああ、話がある。いまから王国に戻るんだが、ディビナはどうする?」
「もちろんついていきます!」
まあ、そう答えるだろうと思った。
義理堅い子だ、ホントに。
モキュが多分行くから餌係の自分もという考えなのだろう。そのくらいお見通しだ。
俺はモキュを馬小屋から出して、3人のところへと向かった。
モキュは俺を見た時の「キュ~~~」という鳴き声を聞いて、連れていくことを即決した。
ほんのちょっとの時間でこれだから、長期間ここに放置するのは無理だろう。
「よしそろったか。みんなモキュの上に」
俺がモキュの上に乗ると、3人も一緒に乗り込む。
それでもまだ背中があいているのだから、モキュは本当に大きい。
その穏やかな出発に、フィーという子は火だねをまいた。
「その方は誰っスか?」
「ん? モニカから紹介されていないのか? ディビナだ」
紹介されて、ディビナも笑顔であいさつする。
「こんにちは。私はモキュちゃんの餌係のディビナです」
そう聞いたフィーの放った一言が原因だった。
「そうっスか。ただの餌係りっスか」
フィーの言った『ただの餌係り』という言葉を聞いたディビナが、笑顔のままひきつり、固まってしまった。
うわごとのように何かを呟いている
「……ただの餌係り……ただの……」
よくわからんが、使命感に燃える餌係りをその程度扱いされたことにショックを受けたのかもしれない。
俺はフォローしてやった。
「大丈夫だディビナ。ただのじゃない、お前は正真正銘の餌係りだ。そのためだけの人材なんだから」
しかし、俺がフォローしてやったのに、反応が変わらなかった。
「……餌のためだけの人材……だけの……」
「あ、悪い、餌だけじゃないな、食糧係りのためもあるな……」
ん……? なんでショック受けてるんだ?
もしかしてこの反応は……。
まあいい、心にしまっておこう。
そんなこんなで王国へと再び飛び立つ。
上空で飛んでいるモキュを追いかけるようにして、東西南北上下の各16方向には銀硝鉱石が飛んでいる。
これは俺の能力で浮遊させているのだが、石に光を通して周囲の1キロ圏内をカバーしている。
これは不意打ちなどの魔法攻撃を探知するためだ。
マップでは攻撃までは映らないからな。
あと、内側3~5メートルにも、もう一周張り巡らせて、空間のゆがみを観測して隠匿系の魔法で接近された場合に俺が察知できるように調整してある。
光の揺らぎの応用だ。
これは店番のミュースという子に考えてもらった方法だ。
光を集めて望遠鏡のように遠くを覗く。
すると、東南東の方角から大軍勢が向かってきているのがわかった。
しかし、混沌としている。
王国兵もそうだが、魔物が人間と一緒に行動しているのが一番奇妙に見えた。
他の3人にも今の状況を見せてやると、かなり驚いていた。
最初は何かの冗談と思っていたようだが……、
「お兄ちゃん、なんですかあれ……えへへ」
から笑いをしているモニカ。
モキュは心配そうな声で鳴いていた。あの狂気の集団が怖いのだろうな。
よし、まずは何とかしてやると言った以上、上空から殲滅することにしよう。
そう思った時のことだ。
さっそく光で観測していたサーチに何かが引っかかった。
「来る……」
何かが姿を隠して接近してきている。
動きが早いな。背後か!!
俺は振り向いた。
そして、それを見た瞬間、空間転移でそれを後方500メートルの地上へと移動させた。
地面にそれが落ちた瞬間、大爆発を起こした。
「いまのは……」
確かにあの形状は、前の世界で見たことのある。
ミサイルに似ていた。
「何だったのでしょうあれは?」
「な、なんスか今の魔法? 転移っスか?」
「ん? 魔法じゃないが一応転移ではある……」
あれは、爆薬による兵器ではなく、魔法で形成しているというだけのようだった。
だが、ミサイルの発想ができる者がこの世界にはいないはずだ。
クラスの奴の誰かか。
「どいつがやりやがったんだ……」
見つけたら容赦はしないと思い、王国の城へと向けて慎重に進むことにした。