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37話:銀硝鉱石

ここまでのあらすじ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

物質支配の力を手に入れたモノノベ=コウセイは、騎士二人に陥れられて、ダンジョンの中で殺されかけるが、勇者として得たその力でダンジョンを脱出。途中見つけた巨大ハムスターのモキュと旅をする中、エサのために村を救うのだった。そこで、村の娘であるディビナを餌係として連れて、この世界で自由に生きるために大きな街のある帝国へ。


コウセイは、巨大ハムスターのモキュ、餌係になったディビナ、兄を殺して妹にしたモニカと帝国に滞在する。


そんなとき、成り行きで冒険者の訓練に参加することに。ダンジョンに向かった先で待ち構えていたのは、王国の前国王・現皇帝のマルファーリスと封印を解き放った白竜ホワイトドラゴンだった。


不死身の化け物相手に、物質支配の能力を極限まで使って両者を倒すことに成功する。


・・・その続きです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 俺はギルドでの事情説明の後、しばらく休んで武器屋へと向かうことにした。

 モニカの装備を手に入れることもだが、もう一つ手に入れたいものがあったのだ。

 いつもの眼鏡をかけた店番の子に相談しながら装備を手に入れた。



「モニカ、それでいいか?」


 戦士っぽくなったモニカへと問いかける。


「あの……お兄ちゃん、装備は問題ないんですけど、ズボンをスカートにはできませんか?」

「……なるほど」


 俺は即座に理解した。

 ズボン式ではいざというときパンツが脱げないと言っているのだ。

 真面目に考えるとなにそれ……と思うが今は我慢だ。

 しかし、霧影は便利そうで不便な能力だ。

 俺は空間の隔離と壁を形成して音漏れを遮断し、こう聞き返した。


「その能力はパンツじゃないとダメか?」

「いえ……そ、その恥ずかしければなんでも……」


 モニカはすでに顔を赤く染めていた。

 改めて聞くと、俺なにアホなことを会話してるんだ?と思いたくなる。


「いま恥ずかしそうだが使えないのか?」

「いえ……無理ですね。ちょっと足りないかも」

「……そうか」


 少し刺激が弱いということなのだろう。

 だが、いい加減に戦闘中にパンツを脱いで戦うのはやめてほしい。

 一度その事実に気づいてしまうと俺が落ち着かなくなる。

 というか、ダンジョン内での数度の戦闘中の時、スカートが揺れるたびに気になって仕方がなかったのだ。精神拘束は効かないが、あれは精神衛生的に良くない。



「と、とにかく別の方法を後で考えよう」

「わかりました。あ、お兄ちゃんの用事を済ませてください」


 俺は壁を解除して、店番の子に向き直った。


「実は、探しているものがあって、光を反射する鉱石みたいなものはないか?」

「鉱石ですか? 具体的にどのような形状のものでしょう? 光の性質は? 距離は? 魔法の補助に使うのでしょうか?」


 店番の子はいつもながらの細かな質問を並べたあと首をかしげる。


「ああ、扱うのは魔法じゃなくて、空から昇る太陽の光と同じ【光線】だ。その入射角・反射角をこちらで操作できるものが欲しい」

「でしたら、銀硝鉱石がいいかもしれません」


 そう言って取り出したのは、すでに部屋の中の明かりを反射している一つの鉱石だった。内部が銀色で表面に透明な光沢がある。


「どうやって使うんだ?」

「そうですね。どの場所から光を入れるかによって光の屈折角が変わるんです。そのため平らな鏡と違って、応用性の高い鉱石と言われています。ちなみに、鏡もこの鉱石から作るんです」

「ふ~ん、なるほどな。じゃあこれを、あるだけくれ」

「……わかりました」


 店番の子はこれで何度目になるかもわからない驚きを隠した微妙な顔で承諾した。

 一つ金貨10枚もする希少な鉱石をあるだけ買えることが不思議なのだ。

 貴族でもそんな馬鹿なことはしない。


 俺は、どう相談役になってもらうかを考えた結果、とりあえずここで買い物をして相談していく……という方針にした。

 これなら、ただふらふらっと現れて話をするよりはおかしくはないだろう。


「ちなみに、光でセンサーを作って対策する場合、抜け穴とかあると思うか?」


 変な質問をされたと思い、考え込む店番の子。


「その鉱石を使うんですよね……」

「そうだ、全方位にその石を配置して、赤外線や光の種類を利用した索敵、攻撃探知をしたいんだが、理論的に見て魔法の抜け道はないか?」


 しばらく考え込む表情をしてこう答えた。


「いま考えついたものだけで、23通りの抜け道がある可能性があります。まず、一番可能性として高いのは、鉱石を光の届く圏外から破壊されることです。次に隠匿系の魔法は視覚を潰すのではなくて光に対して作用するので、光が効かない可能性があります。それと……」


 つらつらと、思いつきもしない可能性の状況を挙げて、その方法の脆弱性を説明する。


「……あ、すみません。気持ち悪いですよね。私の悪い癖で……」


「いや、やっぱり君はすごいよ……」


 俺は思わず声に出していた。

 この子、わずか数秒の思考で聞いたことのないはずの物理の机上の空論のような手法に対して、その可能性を挙げることができるなど普通は無理だ。俺にはできない。

 むしろ、変に自分を卑下していることの方が不思議だ。


 俺の声に、店番の子はいままで隠していた表情も忘れて、本当に驚いている顔をしていた。


「え……、私がですか? 気持ち悪くないのですか?」


 本気でそう信じている顔だった。自分で理解していたのだろう。


「ん? ああ、気持ち悪くないはないさ。俺には真似できないよ。いや他の誰にも。それはすごいことだろ?」

「すごい……なんて初めて言われました」

「そうなのか?」

「むしろ学院では馬鹿にされて気持ち悪がられていましたので……」


 その言葉を噛みしめると、ちょっとだけ嬉しそうな表情をした。


 俺は今しかないと思った!!

 いや、付け込んだとか卑怯とかじゃないはず。


「な、なあ、よかったら俺にいろいろ教えてくれないか? なんというか、ここに来た時だけでいいんだ、相談役を引き受けてくれないだろうか?」


 店番の子はそのお願いに頷く。


「それは構いませんが、私でいいのですか? 私はどちらかというと、知識偏重なので実践的なアドバイスは……」

「いや、それで構わない。実践の方は一人確保したんだ」


 そうだ。あのS級冒険者・クリスティーナにそっちは聞けばいいはずだ。


「それでしたらお引き受けします」


 

 その後、光をつかった敵攻撃の索敵にどうすればいいかを相談した。

 もうすっかり夕方になっていた。


「家の所有者確認はどうする?」

「今日はいろいろありましたから明日にしましょう」

「そうだな。そういえば、税金を払えば戻るのだろうか?」

「……たぶん無理だと思います」

「え? じゃあ……」

「税金を払えなかった土地は、没収されて皇帝の家の所有物となるんです。だから、返してもらうためには、いま所有している皇帝家の方に権利を譲ってもらわなくてはいけないんです……」

「そうだったのか……だが大丈夫だ。」


 モニカの手に俺は手を重ねた。


「いかなる手段をつかっても返してもらうつもりだからな」





 翌日、俺は家を返してもらいにいくと、南に新築された城へ招待されることになった。

 竜を倒したからという理由らしいが、ちょうど皇帝家の人間に合えるということでその場でOKした。





 翌日、 城に赴いた。

 そこでお願いして家を返してもらうように話すつもりだったのだ。

 ほんの少し前までは……。


 俺の目の前にいる、髪がくるくるのメイドさん。

 テンパった様子でそわそわして、こう告げたのだ。


「大変申し訳ありません。新皇帝陛下……フィオナ様がお逃げになられましたので、少々お待ちください」


 俺は目を点にして聞き返す。


「は? 逃げた?」


 どうやら新しく皇帝となるフィオナは、戴冠式の前に城を抜け出して逃げたのだという。

 なぜに? わからん。この国の皇帝になりたくて、王位を継いだのではないのか?


 だが、さらに驚くべき報告が、いまさっき入ってきた兵士によってなされた。


「報告します! アルカリス王国に魔王が出現。敵勢力は王国兵と魔物を含めて約15万。全軍が帝国へ向けて進軍しました!!」

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