33話:精神拘束
俺は目の前に出現した巨大な白竜を見上げた。
「モニカ、その二人とこの場所を離脱するんだ」
「お兄ちゃんはどうするんです?」
「俺はとりあえず、こいつを何とかしてみる」
「なんとかって……竜ですよ?」
そのモニカのセリフに俺は疑問を浮かべた。
「どういうことだ? 竜だと何かまずいことがあるのか?」
「お兄ちゃんはそう言えば知らないんでしたね。この世界を支配しているのが誰なのか……」
「この世界は、人間が国をつくって支配しているんじゃないのか?」
そこに声をかけたのは、飛ばされたはずの冒険者、クリスティーナだった。
やはり外に飛ばされていたのか。
白竜を驚愕の表情で見上げつつ、クリスティーナはモニカの代わりにその説明をする。
「いや、違う。そもそもこの世界は世界の端っこ、それも中央大陸とはかけ離れた場所にある。そこに住んでいるのは人間以外の種族だ。その全ての種族を完全に掌握・支配しているのが竜種と呼ばれる存在だ」
「竜種というのは目の前のあれか?」
「そうなる……。人の形をしている竜もいるらしいが、とにかく人間が勝てる相手ではないという話だ。帝国の建国目的はあまり知られていないが、その一つに『竜種の討滅』があるらしい」
「じゃあ……竜と支配権の取り合いを?」
この国が犠牲を積み重ねて強くなろうとしている理由は……世界の支配をひっくり返すことだとでも言うのか?。
「ああ、それでだいたい合っているのじゃ」
どこかから声が聞こえたかと思うと、空に浮いている一人の少女がいた。
ああやって俺たちを見下ろしている存在を忘れるわけがない。
アルカリス王国に勇者として召喚された時に見た女の子。
国王――マルファーリス=アルカリスだ。
「だが、なぜここに……」
こんなところにどうしているんだ?
ここは帝国のすぐ裏にある山だ……。
帝国の領内だぞ? 政争相手の領地に王がいるなんて……。
そこで俺は不快な汗が流れるのを感じた。
女皇がなぜ俺を狙うのか……。
なぜステータスの情報を知っているような対策をしてきたのか。
「まさか……」
「改めてこう言わないといけないのじゃ。この帝国の皇帝となった女皇――マルファーリス=アルカリスじゃ」
ちっ、そういうことか。
「モニカその冒険者たちとこの場を離れてくれ」
「……わかりました」
モニカは悲しそうな表情で冒険者のクリスティーナと他グループの兄妹二人のところへと何かを話す。
それを聞いてクリスティーナが俺に驚いた表情を向けて、こう言った。
「正気か!? 相手は白竜もいるんだぞ? 竜種には魔法や物理攻撃が効かない。並大抵の攻撃では傷一つつかない」
「……そうか。いや、ここで相手をしなければどこへ逃げても変わらない。あいつは俺を狙っている」
そうだ。相手の狙いが俺である以上、俺が一緒にいたらモニカが危険にさらされる。
それよりも、そろそろ小賢しくなってきたこのマルファーリスをここで沈めておきたい。
「……わかった。この3人を安全な場所まで届けたら必ず戻ってこよう。それまで生きていてくれ」
「……わかった」
あえて応援はいらないとは言わなかった。
俺は竜に対する知識を持っていない。出たとこ勝負になるよりも、知っているものがいた方がいいかもしれない。
とはいえ、できる限りクリスティーナが来る前にこのデカい竜とバカ女皇・マルファーリスを始末しておきたいところだ
モニカたち4人は、帝国の方へと走っていった。
俺は改めてマルファーリスへと目を向けた。
王癪を持っているのは前と同じだ。
ただ一つ違うのは目が真っ赤に充血していることだ。
良く観察してみると、マルファーリスの浮いているすぐ下の地面には大きな魔法陣が描かれていた。
さっきまで暴れまわる気満々だった白竜はといえば、苦しそうな表情でその場に静かにとどまっている。
「おい、その竜に何をした」
それに笑いかけるマルファーリスは、王癪を俺の方へ向けた。
「これを使っているのじゃ。生贄を使った大魔法じゃよ。生贄は何じゃと思う? 貴様があの村を救ったらしいが……わかるじゃろ?」
俺は苦いものをかみつぶすように顔をゆがめた。
「人がわざわざ救った村人を生贄にしやがったってのか?」
「そうじゃ。貴様を殺すためだけにあの村は使わせてもらった。一応保険のつもりだったのじゃが、殺してきて正解じゃった」
「ふん、イカれた女だな。それにしてもその竜はどういうことだ?」
「いったじゃろ。ワシは精神拘束の魔法が得意でな……行け!」
そういって、マルファーリスは王癪を前方へと振った。
その声に支配されるように、白竜は俺へと赤い眼光を向けた。
そして、口を開いて何かをためるしぐさをする。
ブレスか!!
白い閃光が俺へと放たれた。
おそらく、グレートトカゲの強化版だ。
だとすると、竜だから聖なる魔力で増幅された白い炎弾……といったところか。
その速度も大きさもけた違いだ。
俺が自分の体制が崩れるのもかまわずに重力と気流の操作でその場を左側下方へ回避した。
俺が元いた場所を通過した白いブレスは、はるか後方へ飛んでいき山を一つ吹き飛ばした。
ものすごい爆風が吹き荒れて、衝撃波がここまで伝わってくる。
……はあ? なんだあれ!!
まじで竜って化け物だな。
無理に操られて、ガス欠気味に放たれたブレスがあの威力とは……。
しかしどうするか?
マルファーリスだけでも厄介そうなのに、白竜までいやがる。
しかも竜は物理攻撃や魔法が効かないというおまけつき。
そりゃ人間が勝てないわけだ。
とりあえずけん制攻撃として、巨大な石を複数、前方に召喚し赤熱するほどのスピードで放つ。
ついでに上空へ巨大な鉄柱を数本生みだして火を纏わせ、頭へと衝突させた。
隕石級の衝突と鉄柱による戦略級兵器の攻撃を数発。
爆炎と衝撃波が席巻して、辺りの木々をなぎ倒していく。
煙が晴れて視界が戻ると、そこには何事もなかったかのように白竜がいた。
その後ろにいるマルファーリスも当然無傷だ。
「無傷か……本当にどうするかな」