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30話:霧影

「一体、どうやったんだ……?」


 どうやってモニカはあの攻撃をしたのか?。

 ついでにそれを聞けば俺をずっとここまで追ってきた方法もわかるはず。


「えへへ、じゃあお兄ちゃんには特別に教えますね。でも恥ずかしいから、周囲に音が聞こえないようにしてもらえますか?」

「音? できないことはないが……」


 俺は空間を区切って、そこに透明で分厚い壁を円形状に構築した。

 これで波が通り抜けないようにしてやった。

 音はもう聞こえないはずだ。


「私は、兄や王国の騎士とかなり近い血統を持っていてですね……、『霧影』と呼ばれる一族にしか使えない魔法を使うことができるんです」

「霧影というのは具体的にどんな魔法なんだ?」


「『相手を霧のようにいて、影になる魔法』と教えられます。簡単に言うと、最強のストーキング能力……みたいなものですね。霧のように目の前から気配を消せて、ターゲットの影にぴったりとついていくことができます。それを使えばターゲット本人にさえ悟られずに、相手の背後をついてまわることができたりします」


 前の世界のストーカーが持っていたら、悲惨なことになっていただろう魔法だな。

 異世界だと暗殺者が使ってそうな感じだ。


「それはまたピーキーな魔法だな……。対人戦闘で敵無しじゃないか?」


 すると、モニカはハルバードを胸の前で抱えて、首を振った。


「いえ、そんなに便利じゃないんです。私みたいに戦闘経験が浅いと、一つのタイミングに一度しか使えないんです。血による魔法契約なので、生贄や代償がいらないのはいいところなんですが」

「じゃあ、一度消えて現れるポイントが敵にバレたら……」

「はい、私みたいに弱い者が魔法を使えずに逃げられない状態で敵の前にさらされます。まさい格好の的ですよね。だから、普通は魔法と組み合わせて戦闘するんです」

「ああ、確かにあの王国にいた騎士は魔法を併用していた」


 あいつは確か、二度ほど消えていた。

 つまりあの騎士は連続で使えるレベルにいたということか。


 モニカのクソ兄貴もそうだった。突然現れたと思ったら、消えたり現れたりしていた。

 一瞬で距離を走って詰めていたように思えたが、そうではなかったのか。

 俺の影を使ったんだな。


 認識阻害と影転移を同時に使えるみたいなものか。

 まるで瞬間移動みたいだ。


 あとあれだ。ドロンドロン。

 まさかしのびの一族……とかじゃないだろうな。

 さすがにそれはないよな。


 そこで、俺はモニカの表情の変化に気づいた。

 どこか恥ずかしそうな感じで言うのをためらっている。


「それで、この魔法を使う『キー』があってですね……それがこれです」


 そういって、手のひらを開く。

 そこにしわくちゃになっている白い布切れがあった。


「またか……。それパンツか……?」

「……はい」


 ここまできて悪ふざけをしているわけでもないだろう。

 何かそのキーとなる感情と関係があるってことか。


「それとなにか関係があるのか?」

「人によって『キー』は違うのですが、兄は『嗜虐』をキーにしていました。これは人の心を魔法が体現しているからです。それで興奮すると魔法が使える特異体質なんです。それで……」


 俺はまさかの自分が以前モニカに言ったことを思い返してみる。

 たしか、後をつけることができた理由が、恥ずかしいから言えない、と秘密にしていたな。じゃあ……。、


「私の場合は『羞恥』がキーになっているんです。今はパンツをかないことで、この魔法を使っているんです……」


 モニカの顔は真っ赤っかだった。

 男の人に『私、何言ってんだろう』みたいな表情だ。


 そのことにはあえて触れないほうがいいだろう。



「…………そうか」


 俺は少し気を使って、ただ返事をするだけにした。


 その俺の態度に気づいたモニカは、急に恥ずかしさが襲ってってきたらしく、股を押さえるた。


 すぐに黒いワンピースを履いたままパンツをささっと履いた。


「あの、そろそろ帝国本部へ行きませんか?」


 モニカはかすようにいった。恥ずかしさを紛らわすためだ。

 ちょっと可愛いと思ってしまった俺はサドなのだろうか?

 違うと思うが。


「それもそうだな。ここには、また来たらいいか」


 俺は出ていくために空間の壁を解除して、ギルドのある出口へと向かった。


 その時、背後から声をかけてきたものがいた。


「おい、その少年少女! 待ちたまえ」

 

 最初に振り返ったのはモニカで俺もそれにつられて振り返った。


 そこには若い女性の冒険者がいた。

 10代後半といったところだろうか。

 長い灰色の髪に背が高くて、腰には長剣がある。


 凛々しい雰囲気をどこか放っている。しゃべり方もちょっと固い。


 どうやら、声の抑揚や距離感、視線などから明らかに俺たちへと話しかけてきている。

 それにモニカが恐る恐る答える。


「はい……なんでしょうか?」


 さっさっと早歩きで俺たちのそばまで来きた。


「見ない顔だったのだが、君たちは冒険者になったばかりでよいだろうか?」

「そうだ」

 

 俺が答えると、一つ頷いて女性の冒険者はこう言った。


「そうか、ちょうどいい。君たちも参加しないか?」

「参加……ですか?」


 モニカは何か言われるのではと思っていたのだろう。そこにこの質問だ。

 状況がよくわからないという顔をしていた。

 新人冒険者に対してなにか脅かそうと言うわけではないみたいだが。


「そうだ。ちょうど、カウンターで登録をしているのを見かけてな。声をかけようと思っていたんだ」

「……それでか」

「冒険者は成ったばかりの頃が一番危険だからな。S級である私が実戦指導しているんだ」


 あそこにいるのがいま集まったメンバーだという言葉で向こうを見ると、数名の冒険者が集合していた。


 それを聞いたモニカがちょっと興味ありそうにしていた。

 モニカは変な所で我慢しようとするみたいだからな。兄の出番か。

 俺は代わりに詳しいことを聞いてみることにした。


「具体的に何をするんだ?」

「大したことじゃないさ。魔物から身を守る方法、ダンジョンから生きて生還する術などだ。これに参加してくれた者には、後々には剣術や槍術を教えることも予定している」

「モニカはどうしたい?」


 俺は冒険者の常識や戦い方を何も知らないから、モニカに教えることはできない。

 ここまでそれを知らなくても何とかなったのもある。

 

「え……私ですか?」


 モニカは俺の顔を不思議そうに見た。

 自分のために話を振っていると気づいて、どうしようか迷う表所に変わった。


「モニカが参加したいというなら、俺もちゃんと付いていくから大丈夫なはずだ」


 俺がついていけば最低限の安全は確保できるからな。


「ありがとうございます。私、参加したいです」

「そうか。じゃあ俺もだな」


 ついでに俺の欠落している知識や経験といったものを増やすのに役立てよう。


 その返事を聞いた女性の冒険者は朗らかな笑みを浮かべて、一つ頷くとこういった。


「歓迎する。これから出発するところだったんだ。こっちへ」


 そういって集団の一角へと歩きだした。


 俺はモニカに家のことはどうするかと聞くと、逃げるものじゃないから大丈夫ですと答えたので、そのまま俺たちもついていく。

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