28話:不審
俺は翌日銃を取りに行くことにした。
モニカを連れていくのも忘れない。今日は妹の大事な家の所有権がどうなっているのかを確かめにも行くからだ。
昨日行かなかったのは、街の兵士たちの様子を知っておきたかったのもある。
もし、俺を敵対者とみなした女皇が、俺を捜索対象にしていたりするといけないからだ。
のこのここの国の軍関係の主要施設に入っていって、対策済みの攻撃を食らってはかなわないからな。
しかし、俺の予想は外れ、敵愾心を向けるものもいないどころか、平和そのものの暮らしをしていた帝国の住人たちに少し驚いたくらいだ。
「じゃあ、モキュのことを頼む」
ディビナにモキュのことを頼んだ。
「はい、お任せください!」
相変わらずのはきはきした返事を聞いてモキュを一目見た後、馬小屋を出ていくことにした。
俺は隣を歩くモニカを見て質問をした。
「ハルバードか? どうして持ってきたんだ?」
「それは……いつ危険があるか分からないですし、ちょっと使えるようになりたいかなって思って」
昨日買ってやった長い柄と先端に斧のようなものがついている武器をモニカが胸の前に抱えていたのだ。
「どこかで練習するつもりなのか?」
「そのつもりです……。でも場所は決まってて、屋外訓練所がお城の近くにあるんです。お城はもうないですけど」
話によると、冒険者の良く使う場所らしい。一般市民はそもそも武器を使った戦闘をしないため普段は使用しないと言う。
「じゃあ、ついでにそこへ寄ってくか」
「あ……、私一人でも大丈夫ですけど……」
「いや、俺と一緒にモニカがいることは敵がすでに知っていることらしい。しかし、表立っては敵対されていないことを考えると、皇女は俺を秘密裏に消したいらしい」
「そうだったのですか……。じゃあ、お兄ちゃんも一緒に来てくれますか?」
「ああ、武器屋の後にそこへ行こう」
俺もちょうど、そう言った場所でやりたいことがあったのだ。
心臓に能力を使った時に気づいたのだが、身体の中を流れる血液や電流を操作することができると言うことは、あれができるかも?
もしかするともしかするかもしれないから、試してみるのだ。
武器屋によると、またあのおさげをした眼鏡っ子が店番をしていた。
「昨日言った武器を買いに来た」
今日は本を読んでいたのか、顔を挙げると眼鏡をくいっと持ち上げた。
「こんにちは、昨日言っていた銃ですね。どうぞ」
「ああ、あと弾をあるだけ全部。それと魔法を使わずに使える武器はとりあえずするいごとに全部くれ」
「……わかりました」
驚いたようにこちらを見上げた店番の子は、奥からガサゴソと武器を取りだしてきた。
一通りを転移で宿へと送った。
「これで全部ですか?」
「ああ。ちなみに、君は本を読めるのか?」
置いてある分厚い本に目を向けて聞いた。
「え? はい、学院に通っているので文字くらいは普通に。といってもこの本は学院とは関係ないので趣味ですが……」
「そうか……君は魔法や武器に詳しいのか?」
「本で知ったことはだいたい……。兵士の実践学科になるとまだまだ知らないことはありますが」
「そ、そうか……」
俺は本が読めないから、ちょうどよさそうな感じの子なんだが。
何とかならないか……。
「えっと……なんでしょう?」
俺がじろじろ見ていたことで、その視線が気になるみたいだった。
「あ、いや……ご家族とかいるかな?」
「いないですけど……」
「そうか。この店は一人でやってるのか?」
「いいえ、私の店じゃないですよ?ここで働かせてもらっているだけなので」
そういえば高い税金を払わなくてはいけない国だったな。
その上、学院の学費もあるだろう。
「そっか……」
「なんでそんなこと聞くんですか?」
ちょっとだけ不審そうな目を向けてきた。
もしかして、ナンパしていると思われているのか……?
それは誤解だ。
「俺の……いや、なんでもない」
俺は慌ててと答えると、そのまま店を出て行くことにした。
もちろん、お金をカウンターに置いてだ。
そこで、きゅっと袖をひっぱてきたのはモニカだった。
「こう言ってはあれですけど……その……」
「どうした?」
「なんていうか、あの子のことが気になっているんですか?」
「……まあな」
俺にとって必要不可欠な子みたいになってきている。
モニカはちょっとだけ目を伏せて低い声で答えた。
「そうですか……」