15話:お礼
村へ帰ると、長老のところへとすべての障害を排除し終えた事を伝えた。
ディビナは半信半疑で言葉をこぼす。
「ほ……本当に、コウセイさんが全部!? いえ、山賊のことはもう聞いたんですけど、やっぱり信じられなくて……」
「まあ、信じられないのはわかるが、本当だ」
「そうですか。それではあらためて、ありがとうございました。それに失礼な態度をとっていたなと思って謝らせてください。ごめんなさい」
「別に気にしてなかったから、いい……」
ディビナは、少しだけ口元をゆるめて微笑んだ。
ムスってしていないほうが可愛いな。
女の子は笑顔が一番というが、その言葉の意味が何となくわかった気がした。
もともと可愛らしい顔立ちをしているのだから、笑っていればいいと思う。
「とはいえ……、私の気が済まないので謝罪を受け入れてもらえったらと。今回のことは本当に感謝してもしきれなくて、何かお礼をしたくても村はいま商隊が来ているとはいえ、財貨も不足していますし」
ディビナはすまなさそうに言い淀んでいた。
このあまりに義理がたいというか、頭が固いところが表情を悪く見せてしまっているんだよな。
「いや、そう言ってもらえるだけで十分だ」
そう、称賛だけで十分だ。
村の人々が歩いている俺を見つけて、感謝してくれた光景を思い出すだけで十分満たされた。
「それに、あの村を襲っていた山賊たちの中に、私たちが雇った水魔法の使える冒険者が、アジトにいたんですよね? やっぱり、私たちは騙されていたんです」
ああ、あの冒険者か。盗賊とつながった冒険者がこの村で雇われた奴だった。
もう災難としか言えんよな。
「ああ、しかもボスだったみたいだぞ」
「じゃあ、初めから村を狙って……。いえ、それはもういいんです。それより……」
「それより?」
「私は、採取や調合スキルを使って畑の成長を促したり薬をつくって、村の一助になってきました――」
「そうなのか?」
やっぱり、そういうスキルがあるのか。
あのとき、拾っていたのが薬草で、それを一人で調合できるのはそのスキルのおかげだったらしい。
こういう異世界では珍しくないのかな?
「――ですが、やはりこのまま何もお礼をしないというのもいけないと思うんです。だから、私のスキルをあなたのためにしばらく使うということで、お礼になりませんか?」
「は?えっと、なに?俺と一緒について来るってこと?」
「はい」
「いや、それは断っておきたいな……」
そりゃ年下の可愛い子だし、ついてきてくれるというのであれば断る理由はない。が、目的はすべて俺が前の世界でできなかったことをすることだ。
その旅に、薬を作れるというだけで連れて行くのはな……。
役に立つイメージがない。俺には毒が効かないし、薬草いらない気がする。
「駄目でしょうか? そちらにいるビッグハムスターは、大ヒマワリの種が好きなんですよね?」
「ん? そうだが?」
「私なら、一本の大ヒマワリの花さえあれば、たくさんの大ヒマワリの種を栽培することができると思います」
「キュッ!」
それを聞いた瞬間、モキュが驚いたような鳴き声を上げた。
「どうしたんだモキュ……?」
こちらを向いたモキュは、おねだりする感じでスリスリと身体に頭をなすりつけてきた。
モキュにねだられたら、断るわけにはいかなくなったな。
う~ん、有用なスキルだし、村のためではなく、俺のために使ってくれようとついて来るのならば、それなりの覚悟があるのだろう。
というより、面倒なことしなくてもこの子がいれば、モキュが大ヒマワリの種をもっと食べられるってことだよな。
「それに、私は帝国の中央にある都市の中も案内ができると思います。何度か行ったことがあるので」
そうだな。モキュのこともそうだし、俺にも役に立ってくれるというのだから別にいいか?
俺の自由な生活にとって、この子は有益だと判断してもよさそうだ。
「よし、じゃあ、これからはモキュの『餌係り』として頑張ってくれ」
この子にはモキュの餌係りになってもらおう。
正直、ペットの世話とか食事ってどうすればいいのかわかんなかったし。
「え?それは一緒に連れてってもらえる……ってことですか?」
「そうだ。モキュの餌について任せたい」
「あ、ありがとうございます。頑張ります!」
こうして俺の旅には、ハムスターのペットに加えて、ペットの餌係りが増えることになった。
よし、ではこの村ですることはなくなった。
先に進もう。
「では、行くか」
「はい」
「キュッ」
ゲホゲホッとじいさんは咳をしつつ、俺たちを送り出す。
「お主ならば大丈夫だと思うが、気をつけてのう」
「そういえば、この子連れてって、じいさんは薬とか大丈夫なのか?」
「なに、この子はただの代理じゃ。薬を調合できる大人が別にいる」
「そうか。それで、じいさんは何の病気なんだ?」
医学とかは詳しくないが、いつ死んでもおかしくなさそうな衰弱の仕方だ。
とくに身体を動かすと余計に悪化している。
「昔、冒険者をしていた時に魔物に毒を受けてのう。毒というのがまた特殊で、動くたびに内臓や神経にダメージを受けるものらしくての。毒消しの薬草も試したんじゃが、効かず。どうにもならんようで、薬草で症状を抑えるのがやっとなのじゃ……」
「……そうか」
じいさんからはいろいろ教えてもらったし、毒くらいは取り除いてやることとしよう。
俺は毒を操作して手のひらへとすべて転移させた。
あとは、小さい黒い塊になった毒を、もう一度別のところに転移させる。
転移先は、俺たちを召喚した国王、あのちびっ子の体内へだ。
ま、せいぜい苦しめ。
「ゲホゲ……ん?身体が少し楽になったようじゃ……」
「ああ、毒は除いておいた」
「な、なんと!? お主は本当にすごいのう」
「それじゃ、元気でな……」
俺は称賛の声に頬を緩ませながら、長老の家を出た。
しかし、なぜこの村をそこまでして追い込もうとしたのか。
村人を殺すことに何の意味があったのか?
わからないことは考えても仕方ないか……。
俺はモキュの背中に乗ると、後ろにディビナも一緒に背中へと捕まらせた。
このまま二人と一匹で大空へと飛びあがった。
「す……すごいです。飛んでます……」
ディビナはすごく楽しそうに、あどけない声をあげる
空を飛んだことがなかったようだ。
他の人はどうなんだろ?
風で飛べる魔法とか、ある世界なのか?
――このまま俺たちは、帝国の中心部にあるらしい都市へ向かうことにした。
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