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9話:モフッ

 風を切るように、俺は空を自由に飛んでいた。

 後ろを振り返ると、先ほどまでいた地下ダンジョン入り口の洞窟はもう見えなかった。

 少し高度を上げて見下ろすと、西の遥か先まで木々が続く大きな森のようだ。


 城で戦闘用に支給されたこい茶色のジャケットと黒の半ズボンがぱたぱたはためく音で、上空に登って少し風が強くなったこと気づいた。

 

 さあ、この異世界で自由に生きるんだ。

 前の世界で、俺ができなかったことをすべてやろう。

 とりあえず、食糧や服を買うのはもうちょい先か。

 街とかないと無理だしな。

 

「できなかったことは……」


 普段から、自由を制限されているような生活を送っていると、自分が何かを欲しいと考えることをしないようにしていた。唯一、漫画の単行本をこっそり買って読んでいたくらいか。

 だから、思ったように今からしたいことが思いつかなかった。

 宝くじもらって何に使う?と聞かれて、あまりたくさんの使い道を思い浮かべられないと聞いたことはある。俺も例外じゃなかったようだ。チートもらって何に使う?と聞かれて、戦闘以外にぱっと思いつかない。


 眼下の森の方になんとなく目を向けていると、動物がいた。

 この辺は魔物じゃなくて、普通の動物も暮らしているらしい。

 元気よく走りまわっていた。


「そうだ!」

 

 俺はこれまで出来なかったことを一つ思いついた。

 ずっと何か生き物の『ペット』を飼いたいと思っていたのだ。

 けど、あの父親が許すわけもなく、たまに散歩している犬とか撫でたり、動物ショップの小動物を眺めているだけの時期があった。

 小学生の時だけど、それもやりたくてできなかったことの一つだ。


 そして、森の中を何体かが走っているが、その動物たちの中からよさそうなのを見つけた。

 大きすぎると邪魔になるし、手頃なサイズのペットがいいかもしれないと思い、ハムスター?らしき動物の姿を見据えた。

  

「よし、あのハムスターっぽい生き物?を俺の『ペット』にしよう! ついでにモフる!!」


 モフモフしにいこうと思って、ゆっくり森へと下降していった。

 

 だんだん近づくにつれて、俺は目を見開いた。


「なんだ……あれ?」


 俺はペットにするつもりだったハムスターを凝視した。

 遠近法で初めは小さく見えていたのに、近づいてみるとめっさデカい。

 ライオンより大きそうだ。


 森を駆ける姿は 


「あのハムスター、『とっとこ』走ってる? いや『どんどこ』走ってるぞ!?」


 まあ、毛並みは悪くなさそうだった。

 肌色と薄茶色の混ざった毛色に、頭部の大きな耳、丸くて大きい目、やっぱりハムスターに似していた。

 ペットにできなくても、一度はあれをモフモフしておきたい。


 が、さらに近づいていくにつれて、後ろに見えていた小さな動物たちの影もはっきり見えるようになった。

 銀色の甲冑の兵隊が馬の背に乗って、大型のハムスターを追いかけていたのだ。

 なんか獲物を狩る人間と狩られる動物みたいな構図が目の前で繰り広げられていた。


 しかも、あの恰好は……


「王国軍か……」


 あのボケども、人様ひとさまをダンジョンに放り込んでおいて、自分たちだけ楽しく動物の狩りとは。いいご身分なことだ。

 まあいい、あんな奴らは放っておいて、いまは目の前のハムスターをモフりにいこう。

 だが邪魔したら容赦しない。


 そのまま近くまで飛んでいって、後方上部から近づく。

 短い四肢で必死に逃げまわっていたハムスターの大きな背中に捕まると、俺はとにかく毛をなでて、耳をモフモフした。

 うん、いいぞ。特にこのふにふにの耳がいい。

 やっぱり耳が最高だというのは嘘じゃなかった。

 

 すると、ハムスターは少しだけ後ろを気にする視線を送って、嫌そうな顔をした。

 「キュッ、キュッー!」と鳴き声を上げると、振り落とそうと身体を揺らしてきた。


「おっ、どうした!?」


 一応、背に乗っかっている状態ではあるが、重かったのかもしれない。

 ちょっとだけ体を浮かしてやった。


 でも、もうちょっと早く走れんかな?

 そうだ! 空気抵抗を減らしてやろう。

 俺は前方にある空気の流れを変えて、前から後ろへ左右に分かれるようにして空気抵抗を減らした。

 あとはその風を後ろから追い風のように前方へと押し出すのだ。

 

 その直後、いままでゆっくり流れていた景色がものすごい速さで後ろに流れる。あっという間に追っ手の馬をも振り切った。

 速く走りすぎて木にぶつかりそうになった時は、俺が召喚した石コロを操作して吹き飛ばした。

 

 しばらくハムスターの背に乗って森をかけていくと、目の前に湖が見えた。

 が、それも一瞬のことで、


「キューーーーーーーーーーーーーーーー!」


 あまりの速度にそのまま湖の中へ突っ込んだ。

 急には止まれなかったようだ。

 ハムスターの叫び声は結構大きくて、俺の全身を震わせた。(ダメージはもちろんないが。)


 俺はハムスターにつかまったまま水を操作し、水しぶきをあげて一気に上空へと飛び上がる。

 そして、気流の操作でゆっくり地面に着地した。

 となりには、もちろんペット(予定)のハムスターもいる。

 一度あのモフッを味わえばもう……手放せない。


 だいぶ西の方へと走ってきたわけだが、今どのあたりだろうか?

 そう思ってマップを起動し もう少し西に行けば人がいることをマップで確かめたその時だ。

 「キューキュー」と鳴いたハムスターが、近くの草むらの方へと歩いて行った。

 どうも草を食べているようだった。腹が減ったらしい。

 

 そういえば、俺も腹が減った。

 水海には何か食い物ないだろうか?

 水面を眺めて見ると、魚みたいなのがいた。

 

「今日のご飯が決まった」


 俺はこの後、魚(っぽい何か?)を焼き、食べたりした。

 ちゃんと塩を物質召喚で生みだせたから、味もなかなか美味しかった。

 

 俺は眠くなってきたから、そのまま近くの草むらで座っていたハムスターのモフモフの毛並みを枕にして眠りにつくのだった……。

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