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その2 詠唱の秘密

 一体触媒を何処から。


「わたくしも覚えていません。精霊であれば何が触媒なのか分る筈なのですが」


 マリナが済まなさそうに顔を伏せたが、そもそも彼女は人間なのだ。精霊堕ちという現象でどこまで精霊に近づくのか分からないが、少なくとも今日精霊になったばかりの彼女に分からないのも仕方ないってもんだ。


「誰も見てないからそもそもどんな魔法を使ったかすらわからないってか」


 答えを探るには現状での情報が少なすぎる。

 そもそも何故俺はこの世界に来てしまったのか、それすらも分からないのだ。落ちついて二人と話しても分からないことが多すぎである。

 俺はマリナを見ながらそんな事を考えていた。


「こら異邦者。あまりお嬢様をじろじろみるんじゃない」


 気が付くとリーフがムッとした表情で俺を睨んでいる。やべ、見すぎた?


「大体あなた! お嬢様は一国の元首であって身分が違うのですよ! もっと敬意を払って当然です。なのにぐうたらな態度を取って……。大体その髪は何? 伸ばしっぱなしでだらしない」


 興奮したようにリーフはどんどん席を寄せてくる。その紅潮した顔が近づいて密着するような体勢になると、流石に色々まずかった。


「お、おい! 顔が近いって!」

「うるさいわね! 聞いているの⁉」

「……ああ聞いてる。だがそのまま近寄ったままだとおっぱいが見えてしまうのだがよろしいか? いや俺は構わないんだが」

「え?」


 俺に言われてリーフは視線を下に向ける。前のめりになって近づいたせいで、薄手のティーシャツの胸袖から、ふくよかな双丘の上部が見えてしまっているのに気付いたようだ。


「あひゃあっ」


 彼女は変な叫び声と共に胸を隠しながら飛びすさる。威厳を保とうとして尊大な態度を取ることが多い彼女だが、こういう所は可愛い。ちなみ年齢は自己紹介の時に聞いていて、二人とも俺より一つ下の14歳らしい。


「お前さ、年齢の割にはおっぱいでかいよな」

「な、な! い、いきなりなななに! それ以上侮辱するようなら、消し炭にししてやるるるわよ!」

「いや褒めたんだが」

「え、な、なんだ。違うのか。いや、よくバカにされるから自分ではこんなものいらないのだけど……」

「へー。どんなのか知らんがバカな奴らだな。エロゲーならともかく、リアル女子でそこまで見事なのはそうそうないぞ」

「えろげー? それは何?」

「ふむ。そりゃこっちにエロゲーはないか。いいか、エロゲーとは……至高の存在だ」

「至高の……へぇ。何だかわからないけど素晴らしい物みたいね。一体どういう物なの?」

「うーん。色んなジャンルがあるから一概には言えないが……フェラ○オとかパイズリ、それにシック○ナインとか顔射とかなんかそう言うのをデジタルに体験するって言えばいいのか?」


 思いついた「事」をすらすら挙げた俺だったが、すぐに自分の言っている「単語」がマズい事に思い至った。

 あかん! これじゃまるで俺が変態みてえじゃねえか!


「……ふぇらてぃお? ぱいずり? 何、それ」

「がんしゃ……聞いた事のない言葉ですね」


 だがマリナもリーフも全く分かっていないようだった。


「ま、知らなくていいさ。いずれ知る時も来よう、フフフ……」

「何でそんなに余裕ぶってるのよ。教えなさいよ!」

「そうだな……ヒントは「子供を作るときのアレ」に使う可能性がある作業だ」

「子供を作る時? ……子作りの儀式のこと? なら司祭様なら知ってるのかな」

「はは、子作りが儀式ときましたかー」


 考える仕草を取るリーフを見て、俺は思わず笑ってしまう。もしかしたら子供はコウノトリが運んできてくれると信じちゃってるのかな?


「む、何かおかしいかしら。子作りの儀式は神聖なるもの。婚姻を結んでからその時になるまで、一切を知らせることはない。また儀式を終えた夫婦も口外してはならない。これは我が国だけではなく、全ての都市国家において採用されている法律だけど」

「法律って……冗談でしょ?」


 真面目な顔をして説明するリーフに笑いかける。


「ミキト様。リーフの言っている事は何も間違っていませんよ? 子作りに関してはわたくしもそう教えられておりますし、街中、いえ国家の方針として全ての国民がそれに従っておりますわ」

「マジで。じゃあどうやって子供を作るか知らないの?」

「はい。……あの、それほど不思議な事なのでしょうか?」


 マリナが真面目な表情で答えたので、冗談などでなく本気なのだと分かった。

 え、じゃあこの国の人たちは未婚ならエッチを知らないって事? え、え。


 であれば、そりゃフェラ○オとかパイズリなんて知る筈もないのは理解できるけど……。

 と、同時に先ほどのリーフのメモに書かれていたある項目を思い出し、慌てて見直す。



『使われていない言霊ほど精霊がマナを生成しやすい』



 こいつだ。このルールこそ、俺が強大な魔法を使えた条件だったに違いない!

 理由は良く分からないが、どうやらこの異世界ではエロスの発達が非常に遅れている。


 つまりそれに関連した言葉は、当然「使われていない」言葉。マナを生成しやすいと言う条件に合致するのだろう。

 俺が少し唖然として二人を見ていると、


「ちょっと、何か分ったの?」


 やや頬を膨らませたリーフが抗議してくる。暫しの逡巡の後、


「俺が使った詠唱……つまり言霊の正体が分った」

「ほ、本当!?」

「ああ、さっき言った言葉、フェラ○オとかパイズリってのが答えだ」

「? それは確かに聞き慣れない言葉だけど……そもそもふぇいらてぃおというのは何なの?」

「うむ。それはだな――おい、ちょっと耳を貸せ」


 俺は彼女にだけ聞こえるよう(ドヤ顔で)説明してやる。

 ああ、女の子にえっちな言葉を堂々と聞かせると言うのはなぜこんなにも興奮するのだろう。まるで俺がへんたいのようにおもえてしまうじゃあないか(棒)。


 最初は何のことか分からなかった彼女も、説明を聞くうちに徐々にその表情が紅潮していき……最後には真っ赤になった。


「な、な、な、なななあなああああ⁉ わ、わ、私が男性の(もにょもにょ)……を舐める⁉」

「いや別にリーフの事ではないが、まあいつかはそうなることもあるだろ」


 あわあわと口をわななかせるリーフを嗜めてやる。


「さらにパイズリとはだな――――ごにょごにょ」

「…………え! アレをむむむ、胸に、は、は挟む⁉」


 真っ赤な彼女は目を泳がせまくり、もはや海原へとダイブしたアユの稚魚のようである。

 ははは、可愛いじゃないか。


「いうわけでだ。リーフの胸は誇っていいんだぞ?」

「誇らんわ!」

「ペプシ!」


 リーフに頬を叩かれ、思わず炭酸飲料を求めるような声が漏れる。


「いいか! 今のはお嬢様に絶対言うんじゃないぞ! そのような言葉を詠唱にしてしまったら、詠唱をリンクしたお嬢様の口からも卑猥な言葉が……!」

「わ、分った。分ったからその拳は下げてくれ」


 残念ながら彼女の双丘の使い道(?)を示しても、理解はしてもらえなかったようだ。まあエッチも知らないのにランワンク上のプレイを教えるというのも無理があったな。

 マリナの方は肝心の話が聞こえていなかった事もあり、隣で「はてな」という表情であった。


 とりあえず『詠唱に使う言霊』の方はきっかけが掴めたと言える。今後魔法を使う機会があればだけどな。


「さて、それくらいにして話を戻しましょう。リーフ、特別大使についてミキトさんに説明を差し上げて」


 マリナが微笑みながら仲裁に入る。元首だからか、この子は何時も落ち着いている。

 そして「天使がもし笑ったらこんな風だろうな」と思うほどの笑顔。エンジェルスマイルの取り成しに、リーフも冷静さを取り戻す。


「……コホン! ではその契約書に書かれた臨時魔法士の件だが」


 わざとらしく咳をして、リーフは手渡した契約書の説明を始めた。




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