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その1 魔法の仕組み

 一枚の紙が、俺に手渡された。それは日本語で書かれた契約書だ。


 三途の渡し守(カロン)の契約も日本語とは親切なもんだ。渡し賃は二千円札でも大丈夫だろうか。受け取り拒否される可能性はあるが、それくらいの嫌がらせは受け取って欲しい。

 あ、ちなみに海外の場合は川ではなく門を通る事が多いそうだ。これ豆。


「ちょっと、ミナミノミキト。私の話を聞いていますか?」

「ああ。もちろん聞いているぞ、リーフ」

「名前で呼ばいでよ! 馴れ馴れしい!」

「お前も呼ぶな!」

「う⁉ た、確かにあなたが言うように、確かに馴れ馴れしかったですね……」

「嘘だ。別にいいぞ!」

「どっち⁉」


 頬を紅潮させたリーフが詰め寄ってくる。


「もう、リーフ落ち着いて。ふふ、ミキト様もからかわないであげてください。この子、とっても真面目なんですから」


 微笑みながらとりなしたのはマリナだ。

 リーフが俺に手渡した紙は、三途の川を渡るための死の署名(デスノート)ではなく、臨時魔法士に就任すると言う契約書(コントラクト)である。


 そう、俺は生きていた。しかも無傷で。


 同席しているエステヴァン=フォン=マリナリーゼと、ヘルムネラ=ツー=リーンリーフも同様だ。

 何故無事だったのか。


 それは最後の際に、どうやらとんでもない『魔法』を俺が放ったかららしい。

 らしい、というのは現場に居合わせたリーフは赤い人形と戦うのに必死だったし、マリナに至ってはすぐに気絶したということで、魔法が発動する瞬間を誰も見ていないからだ。


 だが少なくとも周囲が部屋ごと灰塵と化したのは事実で、それ自体はリーフが目撃している。

 爆発の後、赤い人形を倒したリーフが急いで駆け寄ると、光の球体に包まれ寄り添うように倒れている俺たちを見つけたそうだ。



 それから都市国家『アラント』に到着するまで、俺は二人から色々な事を教えてもらった。彼女たちのことや、この世界のこと。

 この異世界(当然だが名前はない。だって俺たちの世界にも名前なんてないだろ?)には統一国家というものがなく、多くの都市国家が乱立している。それらの殆どが二大勢力である『魔法連邦(ユニオン)』か『魔道帝国(ライヒ)』に属しているという。


 昔から争いを続けていたこの双頭勢力だったが、ここ20年ほどは大きな戦争はなく、小競り合い程度で済んでいるらしい。

 その勢力図の境界に位置する都市国家アラントがマリナたちの国であり、マリナはその元首、リーフは第二師団魔法兵長だという。

 マリナは本物のお嬢様だったってワケだ。


 そして俺たち三人は今、アラントにある元首御用達という宿舎の一室にいる。

 で、色々説明された後に手渡されたのが、先ほどの契約書だ。

 俺はそれを手渡した少女、リーフに視線を向ける。


「臨時魔法士……って、こっちに来て何も分からない俺に何をしろと」

「あなたの魔法の力を使わせてもらうわ」


 魔法!

 それはこの異世界においてそれは日常的に使用されており、生活に欠かせない要素となっているということは、道中の説明で知っていた。

 俺は手元の、契約書とは別のA4サイズの紙を見る。リーフが詳しく説明を書いてくれたものだ(以外とマメな奴である)。



~~~~~リーフのメモ一枚目~~~~~~


◆魔法は大きく分けて能動的魔法(アクティブルナー)恒常的魔法(パッシブルナー)の二種類に分類される。恒常的魔法(パッシブルナー)は光源魔法、地熱変換魔法といった主に生活関連に使われる魔法の総称。貴様には関係ないので、本稿では能動的魔法(アクティブルナー)の説明を行う。


能動的魔法(アクティブルナー)を使用するには、三つの要素が必要である。

  一.精霊との契約  ←値段それなり

  二.使用する触媒  ←値段高い。安い物もあるからそっちを使え

  三.祈りの言霊  ←言葉は自分で考えろ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「リーフさんリーフさん」

「何?」

「ちょっと理解できない所があります」

「……二枚目を読んでからの発言でしょうね」


 リーフは少々ジト目になって睨みつける。俺は一枚目の下になっている紙をつまみ上げた。



~~~~~リーフのメモ二枚目~~~~~~


◆魔法にはマナを大量に消費する。マナは以下の手順で生み出される。

  一.触媒からマナを取り出せるのは精霊だけ  ←人間には不可能だから精霊と契約する

  二.精霊は言霊を使用して触媒を分解するが、言霊を作れるのは人のみ  ←重要

  三.使われていない言霊ほど精霊がマナを生成しやすい ←割と気分次第らしいけど

  四.触媒に宿るマナの埋蔵量が多い程、大量のマナが生み出される  ←Sクラスの触媒は国が買えるほど


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ……所々にあるリーフのコメントが気になるが、要約するとつまり。


「わからん。結局、言霊ってのは何なんだ」

「バカなの?」

「何でそんなにストレートなの? 剛速球なの? ダルビッシュなの?」

「何をいってるか分からないんだけど……」

「ほら見ろ。分からんじゃねーか。お前らの世界の常識は俺の常識じゃねーんだ」

「う……」

「もう! ミキトさんもあまりリーフを苛めないでください」


 困惑するリーフを庇うかのように、マリナが抱きしめる。


「ちょ、お、お嬢様! 私は、わ、べ、べつに! お離し下さい!」


 振りほどこうとするが、それに殆ど力が入ってないように見える。ふにゃんふにゃんだぞ。

 マリナはそんなリーフを見て一笑すると身を引く。この二人の仲は非常に良好の様だ。


「それで。言霊についてもう少し詳しく教えてもらえると助かるんだが」


 お嬢様から離れられたリーフは、ふーっと一つ息を吐き、テーブルの上に置かれたグラスを手に取り一飲みする。


「言霊とは、言わば言葉に秘められた力の事よ。詠唱に使用された言葉全てが『言霊』として使われると思えばいいわ。特に難しい事はない――――ただし」


 グラスを置きその淵を指でなぞる。


「精霊が好む言霊をどれだけ詠唱に込められるかによって、触媒から抽出されるマナの量が違ってくるの。詠唱が精霊と合わなければその量は少ないし、逆であれば大量のマナを取り出してくれる。同じ触媒でも3つ言霊が違うだけで30倍は違うと言われてるわ。つまり魔法の強弱は詠唱……言霊で決まるといっても過言ではないの」

「なるほど……。で、どんな言霊がいいんだ?」

「それは精霊によって好みが違うから一概にどれがいいとは言えない。ただ基本的には『使われていない斬新な言霊』、それと『言霊に込められた意志』が強い程、触媒からマナを取り出しやすくなると言われているわ」


 なるほど。つまりリーフの言葉を纏めると。


 魔法を使うにはマナがいる。

 そのマナは触媒から抽出する。

 それは精霊しかできず、精霊は言霊がないとマナを取り出せない。

 そして言霊は人間しか生み出せない。

 

 という事になる。


「マナを他からは調達することはできないのか?」

「できない。マナ自体は元々自然界に存在しているものだがそれは微量で、魔法を使うには足らなさすぎる。恒常的魔法(パッシブルナー)なら……例えば街灯のような微弱なものであれば、触媒と簡単な装置で安価かつ継続的に生み出すことは可能だけど」


 リーフはそういって窓の外に顔を向け、街灯の明かりを見つめる。夜の帳が降りようとしている暗闇の中で、それは周囲の路地を明るく照らしていた。

 ついでに俺が進むべき道も照らして欲しいものだが。


「とりあえず魔法を使うルールは分かったが……それだと説明できない事がある」


 疑問を発した俺を、目の間に座る二人の少女が見る。


「何故俺が魔法を使えたかだ。いや、使ったという前提で話すんだが、俺は精霊ってのと契約していなかった。つまりマナが無い状態で魔法を使ったことになる。教えてもらったルールだと、使える道理がないんだが」


 俺が言った瞬間、リーフが怒ったような顔になり腰を浮かせた。それをマリナが優しく留めた。


「それはわたくしがミキト様の精霊として契約したからですわ」

「え、俺の……精霊? 契約……ってマリナは人間じゃなかったのか?」

「いいえ。ただ人が触媒からマナを生成に成功した場合、多くの場合は精霊の特性を持つようになるのです。ふふ、見た目は変わらないですけどね」


 え、精霊の特性って……。なんか笑ってるけどいいの?


「良い訳がないでしょ! 人間が触媒からマナを生成するのは成功率が低く、失敗すれば死に至る危険な行為なのよ!」


 リーフはバンッとテーブルを叩くと、お嬢様の方をキッと見据える。


「お嬢様もお嬢様です! 成功したから良かったものの……もし失敗していたらどうなさるおつもりだったのですが! しかも……一国の元首が『精霊堕ち』したなどと。ついでに契約したのが素性のしれない変態とくれば怒りたくもなります!」

「あはは……ごめんなさい。でも精霊堕ちが蔑まれたのはもう100年以上前ですわ。50年前には魔法連邦(ユニオン)十賢者に名を連ねた魔法士もいますし、わたくしはそれ程気にしては……」

「お・じょ・う・さ・ま! まだ元首を引き継いで間もないのです! 未だ反対勢力も多く足元を救われるような軽率な行動はお控え下るよう。お嬢様を信頼して付いてきている人々の事もお考え下さい……」

「そうでしたね、ごめんなさい。以後注意致しますわ」

「はっ! 私こそ差し出がましいご忠告をしたこと、お許しください」


 リーフは恐縮といった感じで床に膝を着き、首を垂れる。


「ともかく……俺のせいだってことか」

「いえ、ミキト様は危機を救ってくださいました。むしろわたくしがお礼を言う立場ですわ」


 いやいやそんなことはない、と茶化すように謙遜しようとしたが、リーフが凄い勢いで睨みつけてきたので止める。

 実際の所、俺が救ったという自覚はない。運が良かったと思うべきだ。きっかけを作ってくれたマリナには感謝しても足りない。


「そういえば精霊……マリナと契約して魔法を使ったというのはともかく、さっきの話で腑に落ちない所がある」

「どこだ?」


 リーフが席に座り直して俺を見る。


「マリナを精霊として契約したとしてだ。精霊……彼女がマナを取り出すはずの『触媒』はなかった。じゃあ一体何処からマナを生成したんだ?」

「む……」


 この問題にはリーフも即答することができなかった。この世界のルールからすれば「精霊」「言霊」「触媒」の三つがないと、魔法は使えない筈だからだ。

 「言霊」はマナの大小に拘らなければ何でもよく、「精霊」の代わりはマリナが果たした。


 では「触媒」は?


 もしかして俺が自分の世界から持ち込んだものが圧倒的貴重なノーブルアイテムで、それが計り知れないエクセレントなサイオンをプシオンしたのかもしれない。異世界から来た俺がチートTUEEEEEできるのは当然だよね!


 と、思って一応リーフに見てもらったのだが、持っていたのは目覚まし代わりに使っていたスマホと着ていたティーシャツとハーフパンツくらいで、特別触媒になるようなものはなかったという。携帯のバッテリーかもと思ったが、別に触媒となるような素材でもないと否定されている。


 実はスゴイ魔力の持ち主でした、とかでない限り、触媒からマナを取り出して使うというのはこの世界のルールだ。そのルールを破る何かを俺が都合よく持っていたと思うほど、頭がお花畑ではない。




 では一体マリナは何を触媒としたのだろうか。




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