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その6 ミキトの魔法、再び

「くっ……更にマナを分解できる余地を残している、だと……」


 何気ないユキの一言に、ゴロツキは驚きを隠そうともしない。


「君もさぁ、もう少し強力な魔法使ってくれないとぉ。ぼくは眠いよ」


 ユキさんの煽りにゴロツキの顔が真っ赤に染まっていく。


「……いいだろう、もはや手加減はしない! 風の精霊(フーレーン)、契約分は働いてもらうぞ」


 ゴロツキが腰のポシェットから片手ほどの、指揮棒の様な棒きれを取り出す。


「こいつはBプラスの風の触媒だ。風の精霊ならさっきの10倍のマナを出すことができる。それはつまり、初級魔法ですらA級魔法士の威力にすることができるということだ。さっきはそのゴミ触媒で対抗できたようだが……今回もできるならやってみるがいい」


 そう言って言霊を紡ぎはじめると、館内の天井付近に風が吹きおこる。それらが徐々に集まっていく。

 僅かの時間で、それは既に風というより竜巻に近い暴風となっていた。


「おい、なんかヤバそうだけど」


 マナの概念はまだ把握できていないが、少なくともヤバいというのは直感でわかる。


「ですねぇ~。あのマナで断ち切る風(ワールウィンド)を出されたらさっきの10倍くらいの威力は出ますねぇ」

「そりゃすげえな……。でも同じように魔法障壁で防げばいいんだよな」

「あはは、無茶言わないでください。さっき(・・・)の魔法障壁なら良くて全身骨折ですかねぇ」


 全然良くないんですが。それはむしろ死ぬまであるだろ……。


「中々優秀な精霊さんですし。初級魔法で出来ることには限界がありますよぉ」

「なんとかできないのか? 異世界で怪我をしたら保険も効かないぞ」

「良く分からない心配ですけど……怪我より多分致命傷の確率の方が高いですねぇ。あ、ぼくこれでも計算は結構得意なんですよ、えへへ」

「もの凄くどうでもいい計算もありがたいんだがな。今はこのピンチを脱出できる計算をしてくれると助かります!」

「ゴミのような触媒に誰でも使える初級魔法じゃ無理ですね~。詰みです。」


 割と絶望的な計算をあっけらかんと伝えてくれる精霊。いつも楽観的な俺だが、流石に身の危険を感じ、背中に冷汗が走る。


「でも……ぼくなら。ゴミのような触媒から大量のマナを出すことができますよ。そうすれば彼が言うように、初級魔法でも対抗できますよ」


 最後にユキがそう付け加えたので、思わず横にいた彼女に視線を向ける。


「どうすればいい?」

「触媒からさっき以上のマナを生成するだけです」

「この触媒でいいのか?」


 二つ目をポケットから取り出す。ゴミに近いから無料配布されていたであろう触媒だ。


「はい。ぼくに『新しくて斬新で革新的な今までに聞いた事のない言葉』をくれれば可能です。そう、あの時の様に」


 その言葉はいつになく真剣で、妙な間延びする甘ったるい口調でもない。――――眠そうな目だけは変わらなかったが。


 こんな話をしている間にもゴロツキが言霊を終え、今にも魔法を繰り出そうとしている。あれが放たれれば、俺は良くて大怪我、悪くて墓場行きになるだろう。

 だがこんなところで俺の人生を終わらせる予定はない。触媒を握りしめる手に力が入る。


 あの時の言葉だって?

 特別な今までに聞いた事のない言霊をくれだって?

 いいだろう。いくらでも聞かせてやろうじゃないか!

 まったくこの世界の住民ってのはどいつもこいつも……エロいのが好きだな。

 嫌いじゃない!

 だから今回は特別な……人生で最もプレイしたエロゲー『中二病でも破廉恥したい! EROS――エロス――』からあの名セリフをくれてやろう!



「ロリ妹にアヘ顔ダブルピースさせて! 制処理奴隷にザー○ンミルクを飲ませてからのアナル○ックス! 夢から覚めたらもうゴールしてもいいよ‼」



 俺が力いっぱい叫ぶと、隣にいたユキの口がリンクする。



『ロリ妹にアヘ顔ダブルピース⁉ させて……! 制処理奴隷に……ザー○ンミルク⁉ を飲ませてからのアナル○ックス⁉ ……え、何これ……何なの⁉ あああ、きた! きた! ぞくぞくくるうぅぅ! 独創的な言葉、聞いた事もない新しい言霊だぁ! マナがくるくるマナがくるぅ! いくうぅ!」



 ユキが悲鳴にも似たエクスタシーな声をあげた。



 直後、俺が握った触媒から眩いばかりの光が発せられる。

 建物の隅々まで広がった『白い光』はまるで意思を持つかのように細い糸となり、彼女を包み込んでいった。

 逆に俺の身体からはどんどん力が抜けていき、意識が遠のいていく。



「ごしゅじん! これぜえんぶマナですぅ! イけますよぉ!」



 かろうじて……ユキが恍惚とした声で叫んだのが理解できた。昨日と全く同じ浮遊感と高揚感。それに遠のく意識の中で、俺は何とか力を振り絞り、



魔法障壁(マジックフォグ) 発効(オーバー)!‼」



 唯一知っている魔法の名前を口にした。

 同時に全ての光が濁流のような勢いを持って、俺の目の前に迫っていた断ち切る風(ワールウィンド)と接触した。


 何重にも重なりもはや竜巻と言ってもいいほどの風の刃。だが光は巨大な布の様に広がり包み込むと、それをまるで吸収するかのように散らせていく。


 いや、もはや散らせると言うより飲み込んでいるという表現の方が正しい。

 彼の放った渾身の魔法が効果を失うまでにかかった時間は、僅か一秒にも満たなかった。


「バ、バカなッ……!」

「やった……」


 驚愕と歓喜。

 二つの声のうち一つは俺があげたものだと理解はしたが、魔法を使った反動なのか、薄れゆく意識を止められそうになかった。


 だが。

 目を閉じる寸前の光景を見て、俺はぎりぎりの所で意識を戻す。

 魔法の刃を霧散させた白い光は、尚も消えることなく漂っており、驚いた表情をしているゴロツキに向かって、まるで足りないものを貪欲に求めるかのようにゆっくりと、煙が流れるが如くゆらりと流れていく。



 それを見て俺は直感した。

 あれは魔法障壁(マジックフォグ)の効果ではない、と。

 止めなければ……彼は消える、と。

 それは理由や理屈ではないところで分った。



 彼は敵だが、だからといって俺に命を奪っていい権利はない。助けなければ。

 だがどうすれば止まるのか、或いは消せるのか。分からない。

 唯一分かることがあるとすれば……アレは俺の魔法で。ユキが生んだマナだということ。


 俺は最後の力を振り絞り、隣で眠たそうな瞳をしたぼーっと立っている精霊の唇に、自分の唇を接触させた。

 何でそんな事をしたか問われても分からないが、何となく、そうすればいい気がした。



「な、なにする……って! ご、ごしゅじん⁉」



 意識が途切れる直前に見えたのは、急速に収まっていく光と驚いた声をあげた女の子。


 「こいつ今どんな表情だろう」というちょっと興味深い事と、「4時までに戻らないとリーフがまた怒るな……」というどうでもいい事を脳裏に浮かべて、俺は意識を失った。




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