第1話
物語は暗黒騎士ブラッドが長い旅路の果てに一つの田舎の村に辿りついたところから始まる。
のどかな村だ。牧歌に溢れている。
そのため、全身漆黒に染めた重装備の騎士が独歩で田舎道にいるのだから、存在そのものに違和感が大きい。 つまり不自然なのである。
しかし、ブラッドは気にする事なく村の、恐らく一つしかないであろう酒場に足を進めた。
「へい、らっしゃ……」
酒場の親父も言いかけてその姿に驚愕している様子であった。だが、その風貌を見ると細かい事は聞かなかった。
「注文は?」
「酒と飯を」
それは、地の底から響くような声だった。 善良な人々はその声を聞くだけで震えあがる事だろう。 しかし、親父は怯まなかった。
「お前みたいなのに、食わす酒と飯はねぇ。どうせ、領主の犬だろう?帰りな、臭い犬小屋に」
「オレはここの領主とはなんら関係がない。ただ、女を探しているだけだ。」
親父はブラッドを値踏みするようにジロジロと全身を見回すと、首を横に振った。
「それを聞いたからには、なおさら……」
バタン!! 酒場の扉か勢いよく開かれると、村の自警団、といったところだろう、若者達が鍬や鋤など思い思いの武器を手に取り入ってきた。中には剣を構えているものもいる。
田舎とはいえ若者たちは気性が荒そうだ。余所者には厳しいのだろう。
「貴様かぁ!女を攫ってるていう不審者は!!」
「ここんところうちの村の若い女達が神隠しにあってるんだ」
「おまえか犯人だな!」
「いくら騎士の格好してるからってこんなとこにいるのはおかしいなぁ」
口々に思い思いの事を喋り、殺気立ちながらブラッドを包囲していく。
15人ぐらいはいるだろうか。 ブラッドの表情は伺い知る事は出来ない。
ただ、その風貌からして、村の若者達も迂闊には飛びかかれないようだ。
しかし、きっかけがあれば爆発してくるだろう。 ブラッドは剣を抜く素振りすら見せず、言った。
「そうだとしたら……、どうする?」
表情は見えないが、フッ笑ったように見えた。
その瞬間、何かが弾け、気勢を上げながら村の若者達が一斉に飛びかかった。
鍬や鋤が血気盛んな若者達により力いっぱい振るわれブラッドに襲いかかる。 ブラッドは避けようもなく、立ちつくしていた。
先陣を切った、若者の鍬がブラッドの漆黒の全身板金鎧に打ちつけられるその瞬間、ブラッドの右手を中心に、黒い塊のような、まさしく形容するならば暗黒の光としか言いようがない光が吹き出し爆ぜた。
そして、爆発音とも言える轟音が響き渡り若者達が弾け飛んだ。