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9、バレス

「私が行ける所はこの船の中ではほんの一部なの。空気を満たして温度を上げなければならないから。」


 ミライは移動しながらバレスに説明した。状況を理解していないせいか楽しそうである。

「ふむ、成る程、君たち生命体の生存可能な環境範囲はひどく狭いという事だな。判った。気をつけよう。」

「どこから行きたいのかしら?」

「出来れば君の住居からがいいな。」

「いいわ。こっちよ。」

 ミライはバレスに方向を示す。バレスはミライの車椅子をゆっくり押しながら尋ねた。


「君は私が怖くは無いのかね?」

「なぜそう思うの?」屈託無くミライが聞き返す。

「いや、私は君たちにとっては脅威だと思うが。」

「あなたは私たちに危害を加えたいと思っているの?」

 バレスは返答に詰まった。まだ他人のメンタルという物が判らない様である。

「ふむ、それは微妙な問題だ。」

「ここが私たちの家よ。」

 小奇麗な部屋で会った。バレスには判らないが、ごく普通の家庭的な作りである。ミライが落ち着いて暮らせるよう気配りがなされていた。


 入ってすぐ大きな居間と食堂があった。居間には大きなスクリーンがありソファーが置いてある。

「食事の後はいつもはここでみんなで過ごすの。映画を見たりゲームをしたりするのよ。」

「ふむ、楽しいかね?」

「みんなすごく大事にしてくれるわ。」

 答えになっていないとバレスは思ったがそのままにした。

 食堂には立派な調理器具が配置されていた。

「料理はあの三人が?」

「そうよ毎日作ってくれるわ。」

「誰の料理が一番好き?」

「ヴェルママ。」ミライはすぐに答えた。

「二番目は?」

「………あっ……」

 ミライは口ごもった。さすがに言えないだろう。

「そういう事は聞くもんじゃないと思う。」

「これは失礼しました。」


 ネットワークを通じて聞き耳を立てていた三人だが、ノワールとマロンはお互いに、料理が下手なのは相手だと思っていた。


 居間には大きな窓が付いており、その外には庭が出来ていた。バレスはゆっくりと外に向かって歩いて行き、庭に下りた。草むらの上に立つと不思議そうに足元を見た。

「なぜここだけ床から繊維を立ち上げているのかな?」

「それは繊維じゃなくて芝というのよ。」

 ミライも庭に下りてバレスの横に来た。

「芝?」

「植物よ。知らないの?」

「植物?ああ、光合成を行う生物だね。」

 30メートル四方位の庭には一面に芝が生えておりその向こうには小さなの茂みがあり、庭の一部には花も植えてあった。


「椅子から下ろしてくださる?」

「ああ、良いですよ」

 そういうとバレスはミライを抱き上げるとそっと芝の上に下ろした。

「私はこの庭が好きなの。この船で生き物は私とこの庭に生えている植物だけ。あ、もちろん野菜の栽培をしている工場は別よ。こうやって触っているとなんとなく生きている力を感じる事が出来るのよ。」

「ふうむ。」

「目的の星に着いた後世界を作るためにたくさんの植物の種を持ってきているんですって。でもそれは次の世界を作る大切な種だから大事にしなくてはならないんですって。」

「ほう。」そういうとバレスは芝の下を調べていた。

「だからとても慎重に時間をかけてこの庭を10年かけて造ったんですって。」

「ふむ、芝の下にはマットが敷いてある。その下には水が流れているようだ。」

「水耕栽培って言うんですって。本当は昆虫やバクテリアのような生物が沢山必要なんでだけれど、ここではそんな物いないから、これが唯一の栽培方法なんですって。でもそれだけにとても脆弱でちょっとした事で、すぐに枯れてしまうそうよ。」

「ふうむ、生物とは難しい物のようですね。我々のように単純な生態なら問題は少ないだろうに。」

「小さい頃からこの庭で遊んでいたわ。その頃はまだ芝しか無かったけど、

小さい頃はまだ立てたからママ達が遊んでくれたの。」

「…………。」

「ここには動物はいないけど、ほら見て。」

 壁の一面はスクリーンになっていて庭の一部として同化するよう作られていた。


「虫がいっぱい飛んでいるでしょう。あれはミツバチよ。そっちのはアゲハチョウ。花がいっぱい咲いているわ。」

「……綺麗?……なのかな?」

 バレスは映像を見ながら何かを感じているかのように呟いた。

「あなたもこの景色を綺麗だと思うの?」

「良くは判りませ。この映像を見ていると何か良い感じを受けますね。」

「それってきっと、わくわくするような気持ちって事じゃない?」

「感情?という事でしょうか?」

「良かった!貴方にも感情が有るのね。何も感じなかったらどうしようかと思っちゃった。」

「それは大切な物だと言う事ですか?」

「そうよ。綺麗な物を見ても何も感じないんじゃ悲し過ぎるじゃない。もっと 沢山いろんな物を見たり聞いたりしたら、もっと、わくわくがいっぱい感じられるわ。」

「わかりました。これから色々な物を見たら一生懸命感じるようにしましょう。」

 どうやらバレスは非常に好奇心が旺盛なように見受けられた。

 考えてみれば元が探査機なのだから好奇心が旺盛なのは当たり前かも知れなかった。

 


 二人のやり取りをモニターで監視していたノワールがヴェルに聞いた。

「ヴェル、あそこのモニタカメラにレーザーを仕掛けて有るんだろうな。」

「うん、かなり強力だからミライには気を付けて、それからバレスの胴体には動力が入っている筈だから手足か頭を狙ってね。」

 こういう事に関してヴェルは手回しがいい。いつのまにか居住区と船内の要所のモニタカメラにレーザーを仕込んであったのだ。


「判った、任せろ。あの野郎手を出してみろ、頭を吹っ飛ばしてやる。」

 隣からマロンがたしなめる。「だめよ、ノワールじゃ滅多撃ちにしちゃうから、私が撃つわ。黒焦げにしてやるわよ。」

 なんかマロンもノワールも本質的な所は同じなんだなとヴぇルは思った。

「ほらほら、さっさと手を出さんか。撃ってやる、撃ってやる、撃ってやる。」

「ふっ、ふっ、うふふふふふ。」

「あ~ははははは。」

「ぎゃ~っはっはっはっはっ。」

 これを見ていたヴェルはあの事件の後ノワールにもマロンの天然が移ったような気がしてきた。以前はもっと真面目なだけの性格だったような気がするが。


「お~い、君達、慈愛と母性のマザーじゃ無かったのか?」


「母親よ!!」二人は同時に怒鳴った。


「ひぇ~っ!」ヴェルは牙をむいた猛獣の口の中を覗き込んだような恐怖を覚え、思わず悲鳴をあげてしまった。

「ヴェル!!母親はな、子供の為ならどんな危険も卑劣さもいとわない物なのだよ。」

「そうよ!子供を悪魔の手から守る為にはあらゆる手段が正当化されるのよ!」


「………………こわっ………………。」


 ヴェルはマザーの本質を垣間見たような気がした。マザーとて、ただ優しく万人に愛をふりまく聖人のような者ではない、極めて人間的な心を持っている。

 自分はマザーではないが、本質はあまり違わないと確信するに至った。

「本当はさあ、初対面のバレスとミライが仲良くしてるのに嫉妬してんじゃないの?」

「ぎくうっ!!」はっきりそれと判る狼狽した波長をヴェルは感じた。


(…………あっ、やっぱり…………)


「そ、そんな事は無い。ミライが楽しそうにしているのは良い事だ。」

「ミ、ミライは良い子だから、あの男に騙されないよう良く見ていないといけないのよ。」

「…………声が裏返っているよ。」反応があからさまなので何も言う気になれない。


「しかし、確かに、何故ミライは初対面の男に、ああもなついているのだろう。」ノワールはどうも納得がいかないようだ。

「う~ん、そうねえ、普通は私たち以外の人間に会った事が無い訳だから人見知りしてもおかしくはないのよね。」

「しかしミラージュ・シティで学校の友達とも遊んでいるだろう。」

「そこが不思議な所なのよね、シティではあまり人間関係が良いとは言えない位なのよ。」

 たしかにヴェルが見ていてもマコ以外の人間とはあまり中が良いとはいえない。


「しかし、マコとは仲良くしているじゃないか。」とノワール。

「うん、マコとはね……。」マロンが答える

「う~ん。………………。」

 二人しては考え込んでしまった。

「ただ、あの子はすごく頭の良い子なのよ。ほとんど天才と言ってもいい位なの。」

「本当か?しかし成績は……。」

「成績の問題じゃないのよ。物事に対する理解力、洞察力が抜群なの。ただ、その事をあまり表面に出さないようにしているみたいなのよね。」

「では、シティの事を……?」

「それは判らないわね。」

 ヴェルも実はその事に気がついていた。何故なのかは判らないがミライは自分の奥底にある感情を出さないような感じを受ける事が有るのだ。


「たしかにミライは年齢にしては大人びた所があるんだよね。」

「たった一人ぼっちで生まれて、しかも体がだんだん言う事を利かなくなる。死を意識しない方がおかしいし、それでいて私たちに気を使ってその恐怖を心の中にしまい込んでいる。普通の女の子には及びも付かない人生を送ってきたんだもの。あるいは私たちより大人なのかも知れないわね。」


 マロンの言葉を聞いた二人はあっけにとられてしまった。


「…………。」

「ん?どうしたの?」妙な沈黙にマロンが聞いた。

「マロンがまともな事を言っている。」ノワールとヴェルが0.01秒の誤差でハモった。

「な、なによその言い方は。」

「い、いやマロンでも時にはまともになるんだとおもっただけだ。」

 ノワールが慌てて取り繕うがフォローになっていない。

「馬鹿にしないでよ、これでも医学と育児は主席だったんだから、ノワールみたいに育児がビリの人とは違うんだから。」


 この発言にノワールは狼狽した。ノワールの気にしている所を鋭く一突きにされたからだ。


「な、何をいうか!育児はビリでは無い、ビリから2番目だ。第一それ以外はほとんどが主席か次点だ。他の学科が全て末席のマロンと一緒にするな!」

 この発言にはヴェルも痛く傷ついた。


「…………ボク、育児ビリ…………。」


 マロンはますます意気があがってきた。

「へーんだ。マザーは子供を育ててナンボだもんね。」

「わ、私だって子供位育てられる。現にミライを育てているだろう。」

「そうよ、パパとしてね。」その言葉は深くノワールの胸に突き刺さった。

「ぐっ!」

「やっぱ母親は母乳で育てなけりゃ、私のボディは胸にバイオ細胞を使った乳腺を仕込んであるもんね。栄養分を補給すれば赤ん坊に母乳飲ませられるもんね。」

 二人の前にピンクのナース服を着たマロンのボデイの映像がぱっと現れる。本物のボデイより幾分胸が大きいようだ、ミニスカートのマロンは、ぶりぶりと胸をゆすって腰を突き出すポーズを作って見せた。


「お、お前最近胸が大きいような気がしていたが、そんな恥かしい改造をしていたのか。」ノワールが真っ赤になってマロンを非難する。


「ふーん、向こうについて子供が生まれたら、みんな母乳で育てるんだもんね。ノワールみたいに人工筋肉のバストなんて役にたたないものね。」

 次々とノワールに鋭い矢を突き立てるマロンに対してノワールはなす術もない。

「わ、わ、私の胸は筋肉では無い。ちゃんとシリコンで膨らませている。」

「あっ!。」

「あれっ?」

「×〇@$#☆※♂♀∞¥…………」

 ノワールは意味不明の言葉を吐くと、接続を切って返事をしなくなってしまった。まるで隅っこに行ってうずくまっているような感覚である。


「だ、だけどさあ、向こうに着いて最初の10年間は毎年200人づつ子供を誕生させるんだよ。一人のおっぱいじゃ無理なんじゃない?」

「……やばっ、バストの形が崩れる。」

 だいぶ本質とずれた話になってしまったのでヴェルは話題を変える事にした。

「え~っと、二人が移動し始めたよ。」

 

 

「今度はどこへ行きたいの?」ミライが聞く。

「そうだな君たちの食料を作っている所はどうでしょうか?」

「いいわ、こっちよ。」

 バレスはミライの椅子を押しながら廊下を歩いていた。

「ん?この部屋は?」

「ああ、そこはメディカル・ルームよ。」

「メディカル・ルーム?ああ、君の健康管理をする部屋ですね。」

 バレスは強く興味を引かれたみたいである。

「でも、そこはあまり面白い物はないわよ。」

 ミライはあまりこの部屋は毎日来てはいるが、あまり好きではないのだ。


「いや、私はもともと探査機なのですよ。特に異星の生命体のデーターは是非拝見したい物ですね。」

「そ、そう?」

 二人はメディカル・ルームに入る。真っ白な部屋の中にはミライの体を調べる為の数々の機械が置かれていた。

「ほう、これはすばらしい。君達の星の技術も大変高いレベルに有る様です。私にも炭素系生命体の検査機器は多少持っていますが、ここまでのレベルはありませんね。」

「このベットは?検査用では無いようですが?」

「そのベッドは私が学校へ行くとき使うベットなの。」

 ベットの下にはダイレクト通信のインターフェイス機器がセットされていた。


「ほう、どうやら脳波通信機の様だ有機生体と無機生体の接続機器ですね。これはすばらしい、君はバーチャルの学校に通っているのですか。」

 バレスは機械の外観を見ただけでそれがどのような機能か直ちに見抜いた。かなり実体は優秀なようである。

「え?ええ、まあ………」

「私も一度連れて行って貰いたい物ですね。」

 バレスは検査機器をひとつひとつ興味深げに見て回った。異星のテクノロジーに強い興味が有るのだろう。ミライはそんなバレスを辛抱強く見守っていた。


 やがて隣の部屋に通じるドアの前で止まった。

「あ、そこは。」

「ん?なにか?」

 バレスはドアを開けて中を見る。ミライはこわばった顔をして目をそらした。

「これは、驚いた。君がいる。」

 部屋の中にはミライそっくりなロボットが椅子に座っていた。

「これは、いったい………ん?どうかしたのですか?」

 ミライは真っ青になっていた。

「ごめんなさい、気分が悪いの。」

「気分が悪い?体のコントロールが不良な状態のことですね?」

「ええ、そう。」

「む、それはいけません。ちょうど良い、この部屋で検査をしてみましょうか?」

 ミライはバレスの言葉を無視して続けた。

「お願い、私の部屋に連れて行ってくださる?」

「検査は、しなくてよいのですか?」

「お願い、早く!!」

「わ、判りました。」ミライのいらだったような声にバレスは慌てて部屋を出る。


 バレスはミライを部屋まで連れて行くと、ミライをベッドに横たえた。

「申し訳ありません、体の状態が悪かったのに案内をさせてしまった様ですね。ゆっくり休んでください、私は一人で見て回る事にしましょう。」

 そう言ってバレスは外に出て行こうとした。しかしそのバレスをミライは押しとどめた。

「まって、バレスさん。しばらく一緒にいてくれる?」


「いいのですか?」

「少しお話がしたいの。その、バレスさんが今まで経験したようなお話を……聞かせて貰えれば……。」

「お話ですか?もちろん、いいですよ。しかし私は生まれてからずっと宇宙にいましたからお話できるような事はあまり有るとも思えないのですが?」

 そう言ってバレスはミライの椅子をベッドの横に持ってきて座った。

「貴方は生まれてからどの位経つの?」

「そうですね。君達の時間単位で70年位でしょうか?」

 ミライは驚いた。外見はともかくバレスは驚くほど年を取っていたのだ。

「ずいぶんお年寄りなのね。」

「我々の寿命からすればまだ幼児段階ですね。」笑いながらバレスは言った。

「バレスさんは元々は探査機なんですって?生まれてからずっと宇宙を旅しているの?」

「はい、生まれて直ぐに任務で旅立ちましたからね。宇宙は広いですから隣の星に行くのに100年や200年はかかりますから。」

「その間ずっと一人でいるの?」

「はい。」

「他の人には会わなかったの?」

「君達が初めてですよ。時々生まれた星からの連絡は入りましたけれどね。」

「その間一体何をして過ごすの?退屈じゃないの?」

「暇な時は寝ていましたよ。起きている時は船体のメンテナンスです。たまにはコンピューター相手にゲームをすることもありますが。」

「………そう………。」

 それきりミライは黙ってしまった。バレスはどうしたら良いのか判らるなかった。


 ふと上を見上げると、ぬいぐるみが3体有るのに気がついた。

「これは……君たちの星の動物の模型ですか?」

 バレスはぬいぐるみをベッドの上に下ろしてひとつひとつ眺め始めた。興味も有ったがこれでミライとの話をつなげると思ったのだ。

「これはぬいぐるみと言って動物やなんかをかわいく変えて作ってあるの。」

 可愛く変えるという概念はバレスには無かった。しかしおそらくこの模型が実際の動物の形では無いことは想像が付いた。


「これは何と言う動物なのですか?」

「これは熊さん、こっちはライオンさん、それからこれはワンちゃん。」

 最初の2つは送られてきたデーターに有った名前だ。ワンちゃんとは何だろう”ワン”という動物はデーターに無い。ちゃんは多分人間の子供に付ける敬称のようなものらしいことは理解できた。

「何故ぬいぐるみに人間にするように“さん”を付けるのですか?」

「だってみんな私のお友達だもの。」

 バレスはぬいぐるみをひとつ取り上げるとしげしげと眺めて言った。ぬいぐるみは何の反応もしなかった。コンピューターが組み込まれているわけでも無いようである。バレスは首をひねった。


「生命体でも意識体でもないと思いますが、どうやって友情を図るのでしょうか?」

「心の中でよ。この子達はしゃべれないけど、心の中でお話をするの。」

 バレスはしばらく考えている様だった。どうも彼には理解しがたい考え方である。それでも推測に推論を重ねて質問してみた。

「つまり、シュミレーションをするということでしょうか?」

 バレスが言わんとする所はミライにも判った。

「あなたはそういうことをしないの?」

 どうやらバレスの推論は当たっていたようだ。この生命体はぬいぐるみを相手に頭脳内でシュミレーションをして楽しむらしい。それならばバレスにも理解できた。


「だれも私にぬいぐるみをくれませんでしたから。」肩をすくめながらバレスは言った。多少人間のしぐさを研究してきたみたいである。

「………そうなんだ………」

 ミライはぬいぐるみを抱きしめて言った。心なしか悲しそうに見えた。

「このぬいぐるみはあの3人がくれたのですか?」

 バレスはこの船の生態系に付いてはだいたい理解出来てきた。この炭素生命体はあの3人の無機生命体が保護しているようである。

 しかし何故一体だけを保護しているのだろう?

 そもそもどうやってこの炭素生命体の幼体を手に入れたのであろうか?そんな疑問をバレスは抱いた。


「そうよ、みんなで針と糸を使って手作りしてくれたのよ。」

 バレスは熊と呼ばれたぬいぐるみが少しおかしいことに気がついた。ほかのふたつと違い、このぬいぐるみは目鼻の位置や手足の位置が左右対象ではないのだ。よく見ると縫い目も少し引きつっている。

「これは……?少し仕上がりが悪いような気がしますが?」バレスの基準を持ってしても出来が悪いと判断せざるを得なかった。

「そうかしら?でも私はこの子が一番好きよ。」ミライは大事そうに熊のぬいぐるみを抱きしめた。

「ほう、そうですか?」

「だって一番かわいいし、暖かいもの。」



 このモニターを聞いていたマロンはガッツポーズをとっていた。


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