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7、学 校

「行ってきます。ママ。」


 いつものように私は玄関でママ達に学校に出かける前の挨拶をした。


「行ってらっしゃい、ミライ。」マロンママは私を抱きしめてほお擦りしてくれる。


「行ってきなさい、ミライ。」ノワールママは私の額にキスをしてくれる。


「行っといで、ミライ」ヴァルママは後ろで手を振っている。


 外に出る。今日はいい天気だ。木漏れ日にそよぐ風が心地よい。

 学校に向かって歩き始める。小鳥達の声が聞こえる。少し走ってみる事にする。

 タッタッタッ 大丈夫走れる。でもスキップはまだ無理みたい。

「ミライちゃーん。」

 後ろからマコちゃんの声がする。マコちゃんは私と同じクラスでとっても仲のいい友達。いつも一緒に学校にいくの。


「おはようミライちゃん。」

 マコちゃんはいつもニコニコしていておさげの可愛い子なのよ。

「おはようマコちゃん今日もいい天気ね。」

 ふたり並んで歩きはじめる。

「今日の体育の授業は男子と一緒のソフトボールだよ。ミライちゃんどうするの?」

 マコちゃんは私が体育が苦手な事を知っているので気にしてくれている。


「うん、出るよ。」

「よかった、ミライちゃん、がんばろうね。」

 実はマコちゃんは私以上に運動が苦手なのだ。普段からそう言う感じだから本当に運動が苦手なんだろうな。

「おっす。」後ろからカイ君が走って追い抜いて行く。カイ君はいつも元気で運動万能だ。ふふっなんでこんなに違うんだろう。


「おはよう。」

 いつも犬の散歩をしている近所のおじいさんが声を掛ける。

「おはようございます。」

 二人そろって挨拶をする。犬の頭を撫でるとうれしそうに尻尾を振る。

 学校の正門が近づいて来ると後ろから声が掛けられた。

「2人ともおはよう。」

 ペッパー先生が後ろから歩いてきた。


「おはようございますペッパー先生」

 私たちの担任のペッパー先生だ。ナイスバディの先生はタイトスカートのお尻を振りながら歩いていった。

「私も大人になってあんな風になれたらいいなあ?」ふと口をつく。

「大丈夫ミライちゃんならもっとナイスバディになれるから。」

 マコちゃんが言う。慰めてくれなくてもいいよ~。


 教室に入ると男の子達が騒いでいた。最近流行のゲームの事らしい。でも流行っどうやって決めているんだろう。

 ペッパー先生が来て授業が始まる。先生の授業は結構面白いので好きだ。普段はボーっとした感じなのに先生の時はこんなにきりっとしている、ふふっかわいい所あるのよね。


 窓の外は緑がきれいだ、校庭では別の教室の子が体育の授業をしていて歓声が聞こえる、平和だな。

 いきなりポコンと頭を叩かれる。

「ミライちゃん他のクラスの体育は面白い?」クラスがどっと笑う。

「よそ見はいけませんね~。」

 男の子が茶化す。いきなりカイ君が茶化した男の子の後ろから頭を引っぱたく。すばやい、先生が振り向くより早く席に戻っている。カイ君はこのクラスのリーダー挌だから誰も文句を言わない。……と言う事になっているみたい。


 給食の時間だ、席を動かしてみんなで一緒に食べる。

 食事はかなりバラエティに富んでいる。誰が献立を考えているんだろう。みんなはおいしそうに食べてる。

 私は?と言うと実は良くわからないの。でも味音痴という訳じゃないのよ。マコちゃんは本当においしそうに食べてる。幸せそうだ、うらやましいなあ。

 男の子達はさっさと食べて遊びにいく。

 女の子達は集まってアイドルやドラマの話をして昼休みを過ごしている。みんなの話を聞いて私もドラマやアイドルの番組を見るけどあんまり興味は無い。

 今人気の音楽グループはセントールと言うグループだそうでカッコいいボーカルが人気なのよ。他の子達はミュージックブロマイドを集めているみたい。


 外では男の子達が遊んでいる。大きい子はグランドの真ん中でボール遊び、小さい子は端っこの方で遊んでる。

 カイ君はいつも遊びの真ん中で元気に暴れまわっている。学校って千年前からあまり変わっていないのかな?

 

 昼休みが終わると体育の時間だ。

 マコちゃんは運動が苦手だから何とかサボる口実を探して私を誘う。特に今日はマコちゃんの苦手なクロッキーだから朝から私を誘って休もうとしていた見たい。

「整列!」

 ペッパー先生が号令をかける。今日の先生の体操着はTシャツに短パンだ。

 胸とお尻がドーンと張り出して、すらっとした足がニョキッと出ている。男子生徒は目のやり場に困るんだろうなあ。


 クロッキーは小学生の授業で行うための作られた競技なのよ。

 おおむね野球のようなルールなんだけど、ピッチャーの変わりに機械がバッターの手元にボールを跳ね上げるのよ。

 そうするとほとんどの子がボールを打つ事が出来るわ。

 守りは内野が6人外野が5人それにキャッチャーが一人計12人で行われるの。クラスの大半がいっぺんに競技に参加できるよう考えられているためね。


 ボールは良く跳ねるボールを使うのでこれだけ野手がいてもなかなかボールを取れないのよ。

 二組の分かれて試合が始まった。私とマコちゃんは同じチームでカイ君は相手のチームになった。カイ君はやっぱりすごくて 打っても走っても守っても一番みたい。

 私の番が来てバッターボックスに立つ。うまく打つ事より走る方に不安がある。うまく走れるかしら。

 ボールが地面に埋め込まれた機械から跳ね上がって来る。

 思いっきりバットを振ると「パコッ」と音がしてボールに当たる。まぐれだ。一生懸命一塁に向かって走るが足がうまく動かない。

 トタトタと走るが間に合いそうも無い。カイ君がボールを取って一塁に送球、剛速球だ。一塁手が跳ね飛ばされて何とかセーフ、カイ君わざとやったみたい。


 次のバッターはマコちゃんチームのみんなからため息が出る。マコちゃんは思いっきりバットを振るが、バットとボールが30センチも離れている。おまけにバットを振った後思いっきり尻餅をついている。

 気を取り直してもう一回、今度はバットの端っこに当たる。私は一生懸命二塁に向かって走る今度は前より足が動く。

 打球は変な方向に弾んで取り損なっている、がんばれば間に合う。


 私は一生懸命足を動かした。すると足がすごく早く動くようになりものすごいスピードで走り始めた。

 そのまま二塁ベースを突っ切ると外野の方まで走ってしまうが止まる気配は無い。


「と、止まらない~っ」私は悲鳴をあげた。


 すると目の前にいきなりカイ君が現れ私を受け止める。あれ?カイ君とはずいぶん離れていたはずなのに。カイ君は私をそこに残すと黙って行ってしまった。ふふっ照れているのかしら。

 結局その時は私もマコちゃんもアウトになってしまった。


 今度は私達の守る番だ。私達はいつもの通り外野だ。ところが今度のバッターはカイ君だ。いきなり大きな当たりが出る。

 周りの子達が悲鳴をあげる。よりによってマコちゃんの所に球が飛んで行く。

『大丈夫かなマコちゃん……あっグローブを構えた、後ろの方に下がって行く……今度は前に出ようとする。完全にへっぴり腰だ……あれっ、また後ろに下がろうとしている……あっ、ボールを顔で受け止めた……大変だ、そのまま動かない。みんながかけて行く。ペッパー先生もマコちゃんのところに行く。』

 

 一緒の帰り道、額に大きな絆創膏を貼ったマコちゃんが痛々しい。あの後マコちゃんは医務室で寝ていた。

「大丈夫?」

 マコちゃんに聞いてみた。

「大丈夫よいつものことだから。」

 いつもの事とはいえ痛い気持ちが伝わって来る。

 家の前まで来るとマコちゃんが言った。

「それじゃあミライちゃんまた明日。」

「うん、マコちゃんさよなら。」

 マコちゃんはそのまま去っていった。そういえばマコちゃんの家には行った事が無かったなあ。


 玄関のドアを開ける。そこにはママ達が待っていて私に言う。

「お帰りなさいミライちゃん。」




 

「お帰りなさいミライちゃん。」

 マロンママがにこやかに微笑む。


 目を開けると本当の世界が見える。メディカル・ルームに有るベッドの上、ベッドの下には脳波通信機を備え、私をミラージュ・シティに有る学校へ連れて行ってくれる。


 私が学校へ行っている間ママは私の体の具合をチェックして、足のマッサージや曲げ伸ばしをやっていてくれる。

 お昼ごはんは直接栄養分を胃に流し込んでいる。だからママ達は交代で一日中私の体の面倒を見てくれているの。


「じゃあミライちゃん少し運動しに行ってみようか。」

 学校から帰ってくると毎日一時間位運動する。

 学校に行っている間ずうっと寝ているような物だから仕方ないよね。ママは私を車椅子に座らせると横に立つ。車椅子を動かすのも運動なのでママは手を貸さない。

 エレベーターに乗り上に上がる。だんだん体が軽くなってくる。

 上に付くと体の重さが2分の一位になる。ここに有る部屋で運動をするのよ。

 体が軽いので伝い歩きなんかも楽に出来るし、他にも柔軟体操や体を動かす運動をさせられる。

 ママは運動音痴なのになぜかこういう事は厳しいのよね。

 ママに言わせると子供は汗びっしょりになる位運動するのがいいんですって。自分は運動する必要が無いくせに……。


 以前は下の階でも伝い歩きが出来たんだけど、今はもう殆ど足に感覚が無くなっちゃったし腕の力も弱り始めた。ママはいつも笑っているけど本当はすごく悲しいんだろうな。

 少し汗ばむ位運動をすると下の階に下りて、ママがお風呂に入れてくれる。マロンママとノワールママは私を湯船に入れて洗ってくれるけどヴェルママは体が小さいので一緒に入っちゃうのよ。


 お風呂から上がって髪を乾かすとマロンママは髪を結っくれるの。いろんな形にして、あれは自分が楽しんでるのね。

 ノワールママとヴェルママはそう言うのが苦手みたい、三つ編みがせいぜいね。

 食堂に行くとヴェルママが料理をしていた。今日はご馳走ね。でも水耕野菜とクローン培養蛋白、それに合成でんぷんからどうやってあれだけの食事を作るのかしら。


 今日の夕食はパンとシチューそれにサラダ、みんな一緒の席に着く一日で一番楽しい時間だ。ママ達も私と同じ物食べる。おいしそうだ。

 でも私、知ってるんだ、私が眠った後そっと食べた物を体から取り出して捨てているのを。だってママ達はロボットだから仕方ないよね。


 ママ達が私と違う事は小さい頃からうすうす感じてはいたわ。ただ、どう違うのか理解したのは少し大きくなってから。

 私がダイレクト通信の手術を受けたのは5歳の時だったわ。それまでこの宇宙船の中の事しか知らなかった。

 それがミラージュシティに入った時は驚いたわ。世界がこんなに大きいとは思わなかったから。

 シティの中にはそれこそ世界がひとつ入っているみたいで、それは地球という私達の母星をまねて作られた世界だって言っていたわ。


 その世界には季節というものが有って暑くなったり寒くなったりしたわ。寒い時はスキーに行ったり、暑い時は海に行ったこともあるわ。

 海ってすごくたくさんの水があるところなのね。それより驚いたのは水の中で暮らしている生き物があんなにいるなんて思いもよらなかった。


 休みの日にはママ達と町へ行ったわ、そこには遊園地の有っていろんな乗り物に乗ったわ。マロンママはジェットコースターが大好きだったわ。

 意外な事にノワールママはジェットコースターは苦手みたい、普段とは逆ね。そのときから不思議に思っていたの。みんなで町で食事を取るとみんなとってもおいしそうに食べるのよ。

 マロンママなんて山ほどお菓子を食べるんだから。普段の食事の時とは違うな~って思ったのが最初ね。


 ミラージュシティはイメージの中の世界だからママ達も本当に食べ物を味わう事が出来るそうよ。普段の食事は多分石ころを飲み込むのと同じなのね。

 だからだんだん歩けなくなってきてもミラージュシティの中では歩けたのよ、ででも足の感覚が無くなって来るとだんだん歩きにくくなってきたわ。

 マロンママはサブルーチンと言うものを使って歩けるようにしてくれたけど本物の様にはコントロールできないみたい。


 ママ達は私の疑問にはひとつを除いてちゃんと説明してくれたわ。本当のことが判ってもそれまでと何にも変わらなかったわ。

 ママ達がロボットだって私を愛してくれている事には変わりないもの。

 食事が終わると少し勉強するの。学校のノートは部屋に有るモニターに記録されているのよ、しかも私の字で。勉強が終わると寝るまでの間、みんなでテレビを見たり、ゲームをしたりするのよ。

 トランプなんかするとノワールママとマロンママは本気で張り合っているわ。


 寝る時間になってベッドに入り、ママ達にお休みの挨拶をする。そして一人になると、私は今日一日生き延びたことを神様に感謝するのよ、そして私がいなくなってもママ達が無事にゼータεに到着出来るようにお祈りするの。

 だってママ達がひとつだけ私に秘密にしていた事を本当はもう知っているんですもの。



 私はもうそんなに長くは生きられないという事をね。


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