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第71話 小話 明日へ
明日はまた、札を動かし、紙を読み、誰かの困りごとに名前をつける。
新しい契約が持ち込まれるかもしれない。
古い約束の綻びが見つかるかもしれない。
王都からややこしい照会が飛んでくるかもしれないし、局員の誰かが初めて扱う案件に眉を寄せるかもしれない。
でも、もう私はそれを一人で背負うとは思っていない。
困りごとは見える形にして、順番をつけて、必要な相手と分け合えばいい。
今日できるぶんを今日やって、残りは明日へ回せばいい。
完璧に消し去るのではなく、ちゃんと扱える大きさにする。
たぶんそれが、私たちの仕事だ。
派手ではない。
剣で世界を救うわけでも、たった一言で全部をひっくり返すわけでもない。
でも、それでいい。
読みやすい契約書一枚が、誰かの冬を守ることがある。
分かりやすい賃金表ひとつで、救われる暮らしがある。
明日に回していい仕事だと分かるだけで、眠れる夜がある。
そう思える場所へ辿り着いたこと自体が、私にとっては十分すぎる結末だった。
そして結末は、そこで終わりではない。
明日へ続いていく。
私は窓の外の朝を思い描き、静かに目を閉じる。
次の一日もまた、きっと大丈夫だ。




