第52話 王都との合同監査
夏の初め、王都と北方の合同監査が初めて実施された。
以前なら“王都が調べる側、北方が調べられる側”だった。今は違う。双方が同じ様式で記録を持ち寄り、食い違いを照らす。
たったそれだけのことなのに、会議室の空気は妙に新鮮だった。
「この欄、北方では備蓄庫単位ですが、王都では部署単位です」
王都から来た若い監査官が言う。
「合わせますか?」
「用途によって二層に分けましょう」
私が答える。
「現場運用と中央集計を混ぜると後で歪みます」
「なるほど……」
昔なら、王都側の人間はもっと高圧的だったはずだ。
けれど今の監査官たちは、少なくとも“聞くと早い”ことを学んでいる。世代交代というより、失敗からの学習だろう。
昼休みに、その若い監査官が少し気まずそうに近づいてきた。
「実は、殿下――いえ、エドガー様から伝言を預かっています」
「何でしょう」
「『北方方式の未清算一覧、王都本館でも使い始めた』と」
「へえ」
「あと、『便利だが、便利なだけに見ないと危険だとも分かった』とも」
「そうですか」
ずいぶん真っ当な感想だ。
私は思わず少しだけ笑った。
合同監査自体は長丁場だったが、終わったときには大きな食い違いがいくつか解消されていた。北方から見れば遅すぎる成果かもしれない。けれど、ゼロよりはずっといい。
会議後、ルシアン様が静かに言う。
「王都との距離が、だいぶ変わったな」
「はい。前より健全です」
「依存ではなく、接続か」
「そんな感じですね」
接続。
その言葉が、今の関係には一番近い気がした。
壊れない距離で、必要なところだけきちんと繋ぐ。
人間関係も契約も、案外それくらいがちょうどいいのかもしれない。




