表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/71

第45話 婚礼当日、私は少しだけ緊張していた

 婚礼当日の朝、私は珍しく目覚ましより早く目が覚めた。


 緊張しているのだろうか、と自分で少し驚く。

 王太子妃教育時代の夜会や儀式では、もっと胃が痛かった。あれは失敗できない“業務”だったからだ。今日も式ではあるけれど、怖さの種類が違う。


「おはようございます、お嬢さま!」

 ミアが勢いよく入ってくる。

「眠れましたか?」

「ええ、ほどほどに」

「ほどほどってことはちょっと緊張してますね?」

「否定しません」


 侍女たちに囲まれ、衣装を整えられる。

 裾は動きやすく、装飾は軽く、でも白銀の刺繍は北の光みたいに綺麗だった。鏡の中の自分を見て、少しだけ不思議になる。

 飾られているのではなく、自分で選んだ形をまとっている。その違いが、案外大きい。


「とてもお似合いです」

 仕立て屋がほっとしたように言う。

「歩けそうですか?」

「ええ。そこ大事です」

「最後までそこなんですね……」


 式場は公爵邸の大広間ではなく、邸と街の中間にある礼拝堂跡を使った。

 今は祈りの場というより、北の人たちが集まるための広い石造りの建物で、入口には読みやすい招待札と案内板が並んでいる。ミア渾身の導線設計だ。


 控え室で深呼吸をしていると、トーマが伝令役として飛び込んできた。

「公爵様、ちょっとだけ緊張してるっぽいです!」

「あなた、そういう報告を私にするんですか」

「だってちょっと面白くて」

「後で言いつけますよ」

「ひどい!」


 でも、その報告で少し肩の力が抜けた。

 私だけではないらしい。


 やがて、呼びに来たベルンハルトさんが珍しく口元を緩める。

「時間だ。……きれいだぞ」

「ありがとうございます」

「泣くなよ、ミア」

「まだ泣いてません!」

「まだ、なんですね」


 扉の向こうには、読める言葉で集まってくれた人たちがいる。

 仕事で繋がった人たち。生活を一緒に立て直した人たち。そう思うと、緊張は少しだけ別のものへ変わった。


 怖いのではない。

 大事だから、きちんとしたいのだ。


 私は姿勢を整え、扉の前に立った。

 前世でも今世でも、こんな種類の朝は初めてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ