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第30話 王家からの謝罪と、返ってきた給金袋

 王都からの第二便は、予想以上に豪華だった。


 黒晶石や食料のほかに、再契約の正式草案、再監査報告の中間まとめ、そして王家名義の謝罪文まで入っている。アルベルト陛下の署名と印があり、そこには珍しく遠回しでない言葉が並んでいた。


『北方に対し、長年の未清算と監督不備を認め、謝罪する』


 短い。

 だが、王家が公文書でこの表現を使うのは重い。


「ようやく紙に乗りましたね」

 私が言うと、ベルンハルトさんは何とも言えない顔で頷いた。

「長かったな」

「まだ途中ですけど」

「それでもだ」


 さらに箱の底には、小袋がいくつも詰まっていた。

 最初は何かと思ったが、添付書面を見て目を見開く。


「未払い精算金……」

 王宮で曖昧に処理されていた婚約者教育関連の実務補填、北方で滞留していた危険手当の一部、臨時労務の精算金。完全ではないが、少なくとも『なかったこと』にはしないという意思が見える。


「トーマを呼んでください」

 私はすぐに言った。

「各部署へ配る準備をします」


 午後、契約局の窓口前には思いがけない行列ができた。

 給金袋を受け取った人たちの顔は、嬉しいというより呆然としている。今まで払われなかったものが急に届いたのだから無理もない。


「ほんとに、うちの名前がある……」

 トーマの母親が袋を抱えて呟く。

「あるべきところへ戻っただけです」

「それでも、戻る日が来るなんて思わなかった」


 私は一人ひとりへ説明した。

 これは恩赦でも慈悲でもなく、未清算分の精算であること。今後も不足があれば申告すること。受け取り印を残すこと。

 夢みたいに良い話として終わらせない。制度として残さなければ意味がない。


 夕方、最後に小さな袋が一つ、私の机へ置かれた。

 北方での特別補佐手当と、王宮未清算分の一部。金額は前世の感覚でもなかなかのものだ。


「返ってきましたね、給金袋」

 ミアがにやにやしながら言う。

「ええ」

「何に使うんですか?」

「まずは貯蓄。それから、局の資料棚を増やしたいです」

「色気がない!」

「必要経費です」

「お嬢さまらしいですけど!」


 笑いながらも、心のどこかがじんと熱かった。

 前世では、頑張りすぎても最後に残ったのは疲労だけだった。

 今は違う。遅くても、歪でも、働いた分を“なかったことにしない”方向へ少しずつ戻せている。


 その日の夜、私は自分用の小袋を持って執務室へ向かった。

 ルシアン様が書類から顔を上げる。


「どうした」

「ご報告です。未清算分の一部が戻ってきました」

「そうか」

「嬉しいものですね。きちんとお金になるの」

「当然だ」

「その当然がない職場も多いんです」

「これからは減らせ」


 静かな声だった。

 私だけの話ではなく、北全体のこととして言っているのが分かる。


「そうします」

 私は小袋を机に置いた。

「ついでに、資料棚の増設予算も申請します」

「それが一番先か」

「はい」

「却下する理由がないな」


 許可が出たので、私は満足して礼をした。

 結局、給金袋が返ってきた日でもやることは仕事なのだ。でも、そのことが少しも嫌じゃない。

 たぶんそれは、ここでの仕事がようやく“奪われるもの”ではなく“自分で選ぶもの”になっているからだ。

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