第6話 最強パーティ、始動
朝の光が森を染め、葉の露がきらめいていた。
俺――アレンは、王女セリア、聖女イリス、竜騎士エレナの三人と共に並んで立っていた。
昨日のオーガ討伐で証明されたのは一つ。
――俺はもう“無能な従者”ではない。
必要とされ、求められ、共に戦う仲間がいる。
「今日から本格的に始めましょう」
セリアが真剣な眼差しで告げる。
「大魔王に対抗するには、勇者パーティだけでは不安です。だからこそ、私たちが“新たな最強”を築くのです」
「フッ、望むところだ」
エレナが槍を担ぎ、竜の紋章を輝かせる。
「お前の力を借りれば、どんな魔獣も恐るるに足らん」
「私も祈りを捧げます。……アレン様、どうか支えてください」
イリスは静かに微笑み、俺を見つめる。
――三人の視線がまっすぐ俺に注がれる。
胸の奥で熱が膨らみ、これが新しい冒険の始まりだと確信できた。
最初の任務は、王都西方の湿原で暴れる魔獣群の討伐。
以前、勇者パーティが取りこぼした相手らしい。
「つまり、勇者たちの尻拭いってわけだな」
エレナが皮肉を吐き捨てる。
「まあ、あいつらがいなくても私たちで十分だ」
「ええ。むしろ、彼らより連携は取れているでしょう」
セリアが冷ややかに言い放つ。
俺は苦笑しながら頷いた。
「……まあ、やってみよう」
湿原の空気は重く、瘴気を含んでいた。
足元にはぬかるみ、遠くから獣の咆哮が響く。
「来るぞ」
エレナが槍を構えた瞬間、巨大なトカゲの群れ――リザードマンが沼地から現れた。
十体以上、鱗が陽光を反射し、不気味な声をあげて迫ってくる。
「アレン様!」
「任せろ」
俺は深呼吸し、支援魔法を展開した。
淡い光が三人を包み、彼女たちの力が一斉に跳ね上がる。
「はああッ!」
エレナの槍が閃光のように走り、三体のリザードマンを一息に貫く。
飛竜に匹敵する力を得た彼女の突撃は、まさに竜槍そのもの。
「炎よ、束ねて燃やし尽くせ!」
セリアの魔法陣が光り輝き、巨大な火球が弾けた。
湿原の瘴気ごとリザードマンを飲み込み、轟音と共に爆炎が広がる。
「癒やしの光よ、仲間を護れ!」
イリスの祈りが結界となり、跳びかかるリザードマンの爪を弾き返す。
――完璧な連携。
勇者パーティ以上の力が、目の前で証明されていた。
「すごい……俺の支援が、ここまで噛み合うなんて」
驚愕と興奮が入り混じる。
彼女たちの力は本来強大だ。だが支援魔法が合わさることで、欠ける部分を補い、力を倍増させていた。
「アレン様! 最後を!」
セリアが叫ぶ。
俺は頷き、杖を振りかざした。
支援魔法の応用――仲間の力を集束し、一点に解き放つ。
「行け……!」
三人の力が重なり、眩い閃光となって湿原を駆け抜けた。
リザードマンたちは抵抗する間もなく、一瞬で消し飛ぶ。
静寂。
荒れ果てた湿原に、倒れ伏す魔獣の残骸だけが残った。
「……やった、のか」
俺は息を吐き、仲間たちを振り返る。
「当然だ。お前の支えがあれば、我らは無敵だ」
エレナが豪快に笑う。
「これで証明できましたね。……あなたは“無能”ではなく、“最強の支柱”です」
セリアの瞳が真剣に輝く。
「ありがとう、アレン様。あなたと共に戦えて、私は嬉しい」
イリスが微笑み、静かに祈りを捧げた。
胸が熱くなる。
追放された無能。
だが今や、俺は新たな仲間たちに必要とされている。
――そうだ、これが本当の冒険の始まりなんだ。
その頃、王都の片隅。
勇者パーティの一行は、別の戦場で苦戦していた。
「なぜだ……なぜ勝てない……!」
ライオネルの叫びが響く。
剣は重く、体は鈍い。
かつて支え続けていた“存在”を失った代償に、彼らはようやく気づき始めていた。
次話予告
「国中に広がる噂」
“新生最強パーティ”として名を轟かせ始めたアレン一行。
その活躍は瞬く間に王都を駆け巡り、勇者たちの耳にも届く――!