表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/19

第4話 争奪戦の始まり

 修道院の静けさが、三人の声によって一瞬でかき消された。


「アレン様には、王家の庇護が必要です!」

「いいえ、戦場こそが彼の舞台。竜騎士団に加わらせるべきだ!」

「どちらも違います。彼は祈りと共に歩むべきです。……アレン様、あなたは私の傍に」


 王女セリア、竜騎士エレナ、聖女イリス。

 王国を支える三人の美女が、一斉に俺へと迫る。


 ――どうしてこうなった。


 俺は思わず後ずさるが、彼女たちの瞳は真剣そのものだ。

 まるで戦場で剣を交えるかのように、視線が火花を散らしていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は、まだ何も決めていない……!」


「だからこそ決めるのです!」

「彼を託すに足るのは私の部隊だ」

「いいえ、彼は神に選ばれし人。私が導きます」


 三者三様の主張に、頭がくらくらしてくる。

 追放され、無能と蔑まれていたはずの俺が――今や国の中枢を担う三人から同時に必要とされている。

 現実味がなさすぎて、夢でも見ているのではと疑いたくなるほどだ。


「……落ち着いてください」

 ようやく声を振り絞る。

「俺は一度、仲間に裏切られています。だからこそ、今度はちゃんと考えて選びたい。皆さんの期待に応えられるように」


 沈黙。

 すると、セリアが先に表情を緩めた。


「……さすが、アレン様。やはり誠実なお方です」

 その声音には、安堵と微かな喜びがにじんでいた。


「ふん。だが、誠実さだけで戦場は生き残れん」

 エレナが腕を組み、鋭い視線を向ける。

「証明してみせろ。お前の支援魔法が本物かどうか」


「ええ、それが一番です」

 聖女イリスが柔らかく微笑んだ。

「祈りと癒やしの場に、真の力は現れますから」


 ――結局、試されるのか。


 だが不思議と嫌ではなかった。

 むしろ、ようやく訪れた機会に胸が熱くなる。


「……わかりました。なら、俺を試してください」


 三人の視線が一斉に輝く。

 その瞬間、俺の運命は大きく動き出した。


 翌朝。


 王都郊外の森。

 魔獣が出没する危険区域で、俺たちは肩を並べていた。


「対象は森の奥に巣くうオーガだ。勇者パーティでさえ苦戦した怪物だが……」

 エレナが槍を構え、口角を吊り上げる。

「お前の力が本物ならば、我らは必ず勝てる」


「無茶をしないでくださいね、エレナ様」

 イリスが祈りの杖を握りしめ、俺を振り返る。

「……アレン様、どうか私に加護を」


「もちろんです」

 俺は深呼吸し、〈支援魔法〉を展開した。


 淡い光が聖女の身体を包み込む。

 同時に、彼女の魔力の流れが驚くほど滑らかになっていくのがわかった。

 祈りの力が高まり、周囲の草花さえ静かに揺れ、癒しの気配を広げていく。


「……ああ、なんて澄んだ感覚」

 イリスの頬が赤らむ。

「やっぱり……あなたの支援は特別です」


 続けて、竜騎士エレナに手をかざす。

 金色の竜鱗に覆われた愛槍が光を帯び、彼女の体躯に力がみなぎるのが見える。


「おお……竜の鼓動が、今まで以上に熱い」

 エレナの瞳が戦士の輝きに燃える。

「悪くない。これなら、オーガを斬り伏せられる」


 最後に、王女セリアへ。

 彼女はまだ実戦経験が浅い。だが魔術の素質は誰よりも高いと言われていた。


 支援魔法をかけると、彼女の魔力が安定し、魔法陣が鮮やかに浮かび上がる。


「……驚きました。詠唱の途切れがない。魔力が、泉のように湧いてくる」

 セリアが目を丸くし、唇に笑みを刻む。

「やはり――あなたは、必要不可欠です」


 支援を終えた瞬間、森の奥から轟音が響いた。


 大地を揺らし、巨躯の影が現れる。

 緑の皮膚に鋭い牙、棍棒を振りかざす巨人。――オーガだ。


「来るぞ!」

 エレナが地を蹴り、槍を突き出す。

 竜の咆哮のような一撃が、オーガの棍棒を弾き飛ばす。


「癒しよ、彼らを守って」

 イリスの祈りが光となり、エレナの身体を包む。傷一つ負わせない結界が生まれた。


「炎よ、巨躯を焼き尽くせ!」

 セリアが詠唱し、巨大な火柱がオーガを呑み込む。


 ――信じられない光景だった。


 かつての勇者パーティと同じように。いや、それ以上に。

 三人は完璧に連携し、支援魔法を受けて驚異的な力を発揮していた。


 数分後。


 オーガの巨体が地響きを立てて倒れ伏す。

 黒煙の中で、三人の英雄が立ち尽くしていた。


「……勝った、のか」

 俺は呆然と呟いた。


「当然だ。お前の力があったからな」

 エレナが槍を肩に担ぎ、勝ち誇った笑みを浮かべる。


「やはり、アレン様は欠かせません」

 イリスが静かに頷き、祈りの言葉を口にする。


「私の判断は間違っていませんでした」

 セリアがこちらを振り返り、真っ直ぐな瞳で告げた。

「アレン様。……これからも共に歩んでください」


 胸の奥に熱いものが込み上げてくる。

 追放された“役立たず”は、今や――王女、聖女、竜騎士に必要とされる存在になった。


 だが次の瞬間、またしても三人が同時に口を開いた。


「アレン様は私と共に――」

「いや、彼は竜騎士団で――」

「いえ、祈りの傍らにこそ――」


 再び始まる争奪戦。


 俺は頭を抱え、心の中で叫んだ。


――もう勘弁してくれぇぇぇ!


次話予告


「勇者たちの後悔」

アレンを追放した勇者パーティの耳にも、彼の活躍が届き始める。

知らぬ間に広がる“新たな最強パーティ”の噂。――そして、後悔が芽生える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ