第19話 新たなる伝説
王都の空が闇に覆われた。
天を突くような巨躯、漆黒の翼、紅蓮の瞳――それは大魔王ガルヴァス。
圧倒的な存在感に、兵士たちは息を呑み、膝をつく者もいた。
「人間どもよ……貴様らの時代は終わりだ」
その声だけで空気が震え、城壁が軋む。
俺は杖を握りしめ、仲間を見渡した。
セリアは決意を宿した瞳で頷き、イリスは震える手を重ねながらも祈りを捧げ、エレナは槍を構え笑っていた。
そして、その傍らでライオネルが苦悶の表情で立っていた。
「アレン……最後に……俺の勇者の力を……お前に託す」
彼の黒剣から光が溢れ、俺の杖へと流れ込む。
「ライオネル……!」
「俺はもう、戻れない……だがせめて……お前に道を繋ぐ……」
その言葉と共に、彼の身体は闇に蝕まれ崩れていく。
それでも最後の瞳は、かつての仲間の光を取り戻していた。
「行こう、みんな!」
俺は叫んだ。
「大魔王を倒し、この国を守る!」
「はい!」
セリアが炎をまとい、魔力を解き放つ。
「祈りの光よ、皆を護り抜け!」
イリスの光が全軍を包み、恐怖を祓う。
「アレン! 先頭は任せろ!」
エレナが竜槍を掲げ、大魔王へと突撃する。
そして俺は――仲間すべての力を束ね、杖を掲げた。
「支援魔法――最終解放!」
眩い光が天空に走り、兵士たち、仲間たち、すべての心がひとつに繋がった。
王都全体が光の陣となり、大魔王の影に対抗する巨大な柱が立ち上がる。
「くだらぬ……人間の絆ごときで、この我に抗うつもりか!」
ガルヴァスが咆哮し、闇の炎を吐き出す。
「セリア!」
「任せて! 紅蓮よ、道を裂け!」
炎の壁が立ち上がり、闇炎を押し返す。
「イリス!」
「光よ、絶望を退けて!」
聖光が兵士を守り、倒れた者を立ち上がらせる。
「エレナ!」
「おう! 竜槍、貫けぇぇぇ!」
彼女の一撃が大魔王の翼を裂き、巨体がよろめいた。
「そして……俺が!」
俺は全員の力を束ね、杖を突き出す。
「これが支柱の英雄の力だぁぁぁっ!」
光の奔流が大魔王を包み込み、闇を打ち砕いた。
「馬鹿な……この我が……人間ごときに……!」
ガルヴァスの叫びが大地を震わせる。
だが光は止まらない。
王都の人々が祈りを重ね、兵士たちが叫び、仲間が支え続ける。
「うおおおおおっ!」
全員の声が重なり、光は大魔王を貫いた。
眩い閃光の中、ガルヴァスの巨体は裂け、断末魔の咆哮と共に消え去った。
やがて、静寂が訪れる。
黒雲は晴れ、青空が戻り、王都に陽光が差し込んだ。
「……勝った……のか」
誰かが呟き、次の瞬間、大歓声が広場を包んだ。
「アレン殿だ! 支柱の英雄が救ったのだ!」
「我らの国は守られた!」
兵士も市民も涙を流しながら俺たちを讃えた。
「アレン様……」
セリアが震える声で言った。
「本当に……あなたがこの国を支えてくださった」
「いいえ、私たちも一緒でした。……あなたに支えられて」
イリスが微笑む。
「ハッ、最高だったぜアレン!」
エレナが豪快に笑い、肩を叩く。
俺は空を見上げた。
そこにはもう、闇も、恐怖もなかった。
ただ――最後に消えたライオネルの姿が、胸に残っていた。
「……お前の意思、必ず俺が継ぐ」
小さく呟き、拳を握る。
戦いから数日後。
王都は少しずつ活気を取り戻していた。
人々は傷を癒し、新しい日常を築こうとしている。
広場では子供たちが木の剣を振り回し、口々に叫んでいた。
「俺はアレンだ! 支柱の英雄だ!」
「じゃあ私は王女様! 炎の魔法を放つんだ!」
その光景に、胸が熱くなった。
追放され、無能と笑われた従者。
だが今――俺の名は、人々の希望になっていた。
「アレン様」
セリアが隣に立つ。
「これからも……国を支えてくださいますか?」
「もちろん」
俺は頷いた。
「俺は従者だ。だが同時に、支柱の英雄でもある。――仲間と共に、これからも」
セリアが微笑み、イリスが祈りを捧げ、エレナが槍を掲げる。
俺たちの物語はここで終わらない。
新たな伝説として、これからも続いていくのだ。
完